第10話
〜天文15年(1546年)〜
時は流れて3年後。
幸運な事に、そこまで大きな戦はなく、織田の力も徐々に取り戻しつつあった。
そして、吉法師は周りの期待以上に成長し…13歳になっていた。
そして今日は、待ちに待った元服の儀。
元服とは、奈良時代以降の日本で、成人を示すものとして行われた儀式だ。
通過儀礼の一つであるが、これを行なっているといないとでは雲泥の差がある。
改修した古渡城にて、吉法師は髷姿をして、大人が着るような立派な服装に身を包む。
それを見た参加者達は、目を奪われていた。
わずか13歳で、どこか気品漂うオーラを出しており、中には涙を流す者もいる。
「おめでとうございます。」
「おめでとうございます。」
「立派になられて…。」
無事に元服の儀も終えて、皆んなに祝いの言葉を受け取る。しかし…内心では良く思っていない者も少なからずいるのも事実。
成人したと言う事は、指名があれば堂々と次期当主にもなれると言う事。
類い稀なる才能を持つのは、皆んなが知る所であり、現当主であり、父の信秀は次期当主は吉法師にと考えているのは、口に出さなくても皆が感じていた。
そして吉法師の母、土田御前は、吉法師の実弟である勘十郎を溺愛しており、将来の当主にと推していたのだ。
これにも理由がある。
吉法師は転生者でもあり、見た目は子供でも内面は大人。恥ずかしさもあり、子供らしい振る舞いをしてこなかった。
それにより母の土田御前は自身の言う事を聞かず、剣を持てば大人顔負けの実力に、教えてもいない事を知っている吉法師の事を気味が悪いと、どこか一線を引いていたのだ。
そこに吉法師の弟でもある勘十郎が生まれたのだから溺愛してしまうのも当然と言える。
吉法師もそんな母は苦手でもあったし、弟の勘十郎とも遠ざけられてきる為か、積極的にはあまり関わろうともしてこなかった。そんな時に那古野城を譲り受けたので、そこから関わりは一切なかったのである。
(母の向けられる目が苦手であったが、そんな事も言ってられんな。これからは歩み寄っていこう。)
これだけは言っておくが、決して吉法師は母や弟を嫌っている訳ではない。
関係を改善したいと思っていたのである。
そして元服と同時。多くの場合はそれまでの幼名を廃して”改名”を行う。
ちなみに名を決めたのは禅僧の沢彦宗恩が命名した。
皆の前に立った吉法師に視線が集まる。
「私は…吉法師改め…名を…。」
一瞬の静寂。
「「「織田信長と名乗る。」」」
透き通る声で言った、その名は全員の耳に響き渡った。
これが吉法師改め…織田信長13歳での出来事。これで無事に成人を迎えたのである。




