第9話
〜美濃ノ国〜
稲葉山城。
そこには斉藤道三に戦後の情報を報告する者がいた。
どの時代も情報が1番大切と言ってもいい。密偵や監視する者など、他の国に送り込むのが普通の時代。
「そうか…ご苦労だったな。斯波氏と織田家の動きは概ね分かった。そして…今回はこちらにも理があったから話にのったが、信用ならない斯波氏と組むのはこれで最後だ。当初の予定とは少し変わったが…金も入ったし、土岐頼純という駒も手に入れた。これで…更に欲をかけばバチが当たると言うものだ。」
「分かりました。して道三様。織田信秀が動こうとしている和睦の件は、どうするおつもりで?のるおつもりですか?それとも力が弱まった今…信秀だけを討つおつもりで?」
「ふむ…。それには少し考えがあってな。将来…”帰蝶”を信秀の子に縁組させようかと考えておる。」
「なっ!?」
斉藤道三が述べた言葉に驚きの表情を隠せない。
「まぁ待て。まだ決定した訳ではないし、すぐにと言ってる訳でもない…元服もまだしていないしな。それに和睦の使者もまだであろう?少し気になる事があってな…。お主は”吉法師”を知っておるな?」
「はい。確か……幼いながら幅広い分野にて優秀な成績を持ち、特に剣術は大人顔負けの実力だとか。そして信秀から那古野城と4人の家老を譲り受けた…と。しかし…親は子の事なら大きく風聴するもの。その真意は分かりかねます。」
「そうだな。だから吉法師について本当の事を調べてもらいたいのだ。今回の戦で分かった…私は斯波氏が力を取り戻せるとは思えない。過去の栄光にすがるだけの半端者だ。近い将来は必ず織田信秀を筆頭に織田家が更に力を持つであろう。」
「分かりました。」
帰蝶は斉藤道三の娘であり、この時代は政略結婚が当たり前。
しかし政略結婚とはいえ大切な娘に変わりはない。道三は本当に吉法師が有望ならば、将来を見越して送り出してもいいと思っていた。
「朝倉と今川の動きも気になるしな。何も敵は織田家だけではない。同時には相手は出来ぬ…。」
そう言いながら、道三は加納口の戦いでの事を思い出していた。
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加納口の戦い。
殿に名乗り出た青山信昌率いる500の兵と対峙する。
「”見事じゃ”。わずか500の兵だけで、これだけの時間を稼ぐとはな。信秀は良い部下を持っておるな。しかし…ここで死ぬのは惜しいな…どうだ?信昌よ。私の所に来ないか?良い待遇で迎えてやるぞ?」
道三は、ボロボロになっている信昌にそう言った。500名いた信昌の兵も残りわずかとなっており、負けは確実の状況だった。
「ふっ…世迷言を…。私は織田家の家臣。織田を裏切るはずがなかろう。信秀様を尾張に逃がせれば光もある。」
「そうか…残念だ。…最期に聞きたいことがある。なぜお主の兵達はこれだけの兵力差でも”誰一人”逃げようともせず、立ち向かう?それに…倒れても倒れても…なぜ立ち上がるのだ?それ程の価値が信秀にあると言うのか?」
斉藤軍5000に対して殿はわずか500。
敵前逃亡は許される事ではないにしても、10倍の兵力差。逃げても笑われることはないし、負けは確実な状況。なのに全員が同じ目をしていた。
(まるで…何かに期待しているような。)
それが斉藤道三には分からなかった。
「フハハッ。確かに信秀様は凄いお方だ。私も仕えて誇りに思える……しかし信秀様よりも将来を期待してまうお方がいるのだよ。」
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斉藤道三は、美濃一国を実質的に手に入れたと言って過言ではない。
だが敵を作り出し過ぎているのも、また事実。だからこそ織田信秀の力が弱まっているこの時に、道三にとって優位な縁組を結び、力を取り戻した時の”抑止力”としても機能するはずと考えていた。
(若い芽が育ちつつあるか…。だからといって譲るつもりもないがな。)
こうして吉法師の元に部下を向かわせたのだった。




