第9話 爽やかに勝利の余韻を楽しむ二人
ひとしきり笑い終えた後、俺は放送を終了する為にドローンに話しかけた。
「ええ、というわけでですね。今回初配信でしたが、いや~中々の大盛り上がりでしたな!! 視聴者の皆さまの声援を背中で浴びながら、ダンジョン狭しと縦横無尽に駆け巡っての大活躍! 我ながら惚れぼれするような素晴らしい戦いぶりだったと思います。いやほんと、皆さんのおかげでございます。ありがとうございました!」
<貴重な体験だったよ。ここまで視聴者が参加出来る配信って他には無い強みだね>
<面白かったぜ。じゃ、帰ったらちゃんと勉強しろよ。学生の本分をないがしろにしているとロクな大人になれないぞ>
<じゃあな治郎、まっすぐ家に帰りや>
<あばよ治郎!>
<またな治郎!>
「い、いやですからね。ちゃんと配信用の名前を用意しているんですから、そんな本名を連呼されてもですね……」
<そんな事はどうでもいいんだ。次もやってくれよ、時間作ってでも見に来るから>
……。
「え……あ、はい頑張ります! ではまた次回の配信でお会いしましょうね! 次もまたフレッシュな十七歳の初々しさをお届けいたしますよぉ!! それでは、さようなら!!」
こうして、俺の初配信は終わった。
ちなみに、長谷山は最後まで状況が理解出来てなかったらしく、終始困惑していた。
「何が結局どうなってるの? 何そのドローン? 何でドローンに向かってボソボソ呟いてたの? 説明が欲しいんだけど」
「うん? ああ、長谷山か。何だお前まだ居たのか? お前の役目は終わったんだからとっとと家に帰って勉強でもやってろ。この真面目を装った不良野郎が。楽しそうに刃物を振り回す危険人物め」
「君さっきと全然態度違くないか!? それに僕は不良でもなければ危険人物でもないよ!!」
うるせぇな。お前の役目は終わったんだよ。お前との友情ごっこも終了してんだから別にいいだろ。こっちは初回配信を大成功で納めた余韻に浸ってんだよ。お前に関わってらんないっての。
きっと明日のネットニュースに大型新人現るだかなんだかで俺の配信が取り上げられるに違いない。
いや~まいっちゃうなぁ。俺が華麗にボスを倒した所を国民全員が知る事になるのかぁ。くう~たまんねぇなぁ! 明日から女とお金にモテモテの人生の始まりだぜ。
「ぐへ、ぐへへ、ぐへへへへへへへへ!」
「き、気持ち悪い……。そのいやらしい笑い方は止めた方がいいよ君。それと、僕の質問には答えて欲しいな。何がどうなってるのかさっぱり分からないんだから、教えておくれよ」
「あん? しつこい野郎だな。ようは俺が配信で大受けでお前は利用されてポイってことよ」
「何だって!? 君は個人的な動画配信で活躍する為に僕の事を散々コキ使った挙句、成功に終わったからとっとと消え失せろと言うのか!!」
「いいだろ別に。大体クラスでも男に一番嫌われてると言っても過言では無いイケ好かないモテ男の優男となんで俺が友情を感じないといけないんだよ? 俺の友達とはドローンであり、もっと言えば視聴者が投げてくれる銭だけだぜ」
「き、君という男は……! 根性が捻じ曲がってるよ! 女子のみんなから遠巻きにされていた理由が分かった気がする」
何だって!? 俺の周りに女が寄ってこない理由はこいつが女を独占してるからじゃ無かったのか!? は、初めて知った。
……い、いやそれがどうした! 今日の配信で俺の雄姿は全国区になったはず、今まではともかくこれからは無条件にモテることは間違いないんだ!
「ふ、ふん。どうとでもほざいてろ。俺の人生は今日から変わったんだ、その手伝いが出来たんだからお前って男は幸せもんだろ?」
「どの口で言ってるんだ君は……。大体君、ダンジョンの配信なんて危険な真似をするのはどうかと思う? どこかの事務所に所属出来る程の実力者だって言うならともかく、君の実力で続けられものじゃないよ。ただでさえ個人配信は難しいのに、学生の身分で手を出して良い領域を超えてると思わないかい?」
先生かよこいつは。同じ高校生のくせに偉そうに説教しやがって。
だが今の俺には余裕がある、軽い気持ちで水に流してあげようじゃないか。
「まあそう言うなよ、お前が頼むんだったらこれからも手伝ってくれたっていいんだぜ? そんな俺の寛容さに感謝して欲しいもんだな」
そんなセリフを吐きながら、俺は拳の裏で軽く奴の胸を叩く。
「きゃあっ!?」
あれ? 何か今ほんの微かにだが、柔らかかったようなそうでもなかったような?
疑問に思って奴を見ると、何故かその顔は真っ赤に染まっていた。
「え? え? 何だよお前、どうしたんだその反応は? ……えぇ、まさかお前!!?」
「うわあああん! ち、違う!! 見るなあ!!」