最終
三題噺もどき―にひゃくよんじゅうろく。
暗闇が、流れる車窓。
きっと昼間は、のどかな景色が広がっているのだろう。
―この道に、昼間という概念があるかどうかは知らないが。
「……」
時間的には、もうそろそろ日付をまたごうというあたりだろうか。
まぁ、気にする必要もないから、大した問題ではない。
どうせ、この夜行列車は一か所にしかたどり着かない。
―出発点は各々違えど。
「……」
しかし、勝手に夜行列車なんていいってはいるが、実際に乗ったことはない。知識としてでしか、その夜行列車というのを、知らないもので。
外は暗いし、夜だし、夜行列車と言っていいだろう、という適当な理由で今乗っているこれを、夜行列車と言っている。
―夜しか走っていないから、夜行列車でも間違いではないと思うんだけど。
「……」
乗り物自体久しぶりに乗るものだから、何とも不思議な感覚だ。
かなり長い間、寝たきりの生活をしていたせいで、病院から出てすらいなかったからなぁ。ずっと、ベットの上にごろりと転がされていただけだった。たまに病室から出ても、検査とかばかりだったし。
「……」
いつからだったか。
もう忘れてしまうくらいに、昔から。
忘れたくなるくらいに、ずっと前から。
寝たきり状態で、一生を過ごした。
「……」
手足は、力が入らずに。だらりと落ちるだけ。
身体を起こすのなんて、ひとりでは絶対できない。
食事は、流動食。流れる感覚だけはあったから、その度吐き気を覚えたりもしたものだ。
―吐き戻すことは、終ぞ叶わなかったけれど。
「……」
そんな日々が続いていた中で。
ほんの数ヶ月ほど前から、だろうか。
私は、確実に、日に日に。
死んでいくのを感じていた。
「……」
足先から。
手の先から。
腹の奥から。
徐々に。
徐々に。
いっそと思えど。
伝える術を持ち得ない。
「……」
寝て起きて。
治療を施されて。
介護を受けて。
何も変わらないままに。
ただ死んでいく。
そんな日々で。
生きたいと、思うわけがない。
「……」
あぁ。
それでも。
全く、生きがいがなかったわけではないのだ。
「……」
いつだったか、詳しい時期は忘れてしまったが。
母が、きっと寝たきりの間は暇だろうといって。
たまに、テレビを見せたりしてくれていたのだ。
ニュースとか、そういうのはあまり惹かれなかったが。
たまたま見た、とある魔法少女のアニメにものすごくはまったのだ。
ベタかもしれないが、彼女のその姿にものすごく励まされた。
生きる気力は、全くなかったが、死ぬ気など失せてしまう程に。
「……」
それと、もう一つ。
一度だけ、ホントに一度だけ、回復の兆しがあったのだ。
その日から、母が、私にと折り鶴を作ってくれていた。
千羽鶴というやつだ。
私は、その母の作る様を眺めているのが、なんとなく好きだった。
丁寧に、ていねいに。
一折り、一折り、祈りを込めるように。
―あぁ。この願いに。祈りに。応えたいと。思えたのだ。
「……」
今度二人で、アニメの映画を見に行こうと言って。
「……」
いつか、折り鶴の作り方を教えてあげると言って。
「……」
たくさん。
他にもたくさん。
約束をしたのに。
「……」
もう。
叶わない。
「……」
そろそろ。
終点らしい。
お題:魔法少女・折り鶴・夜行列車