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反則技

「付き合いましょう、先生!」


 テーブルに両手を置いて、すっくと立ち上がる俺。

 高揚しているのか前のめりになって、テンション高めに声を上げてしまう。


 篠宮先生は一瞬、硬直するも。


「う、うん! 付き合お!」


 パァッとテーマパークにでも来たみたいに表情を明るく変えていた。


 客観的に見て、絶対にアウトな展開である。

 最低でもどちらか片方は、適切な倫理観を持って、教師と生徒の恋愛はいけないことだと歯止めを掛けないといけない。


 けれど、生憎とそれはできそうになかった。


 再三になるが、こちらは思春期真っ盛りだ。

 恋愛にはめっぽう興味のある年頃だし、エロいことに関しては脳のリソースの大部分を使っている。


 ここで倫理観を重視したら、数年後に後悔するのは確定事項だ。


「ただ、付き合う上でこれだけは譲れない点があります」


 俺は右手を開いて、篠宮先生の顔の前に突きつける。


「譲れない点?」

「絶対に、周囲にはバレないようにすることです」

「そう、だね。うん。それだけは避けないと!」

「はい。俺はともかく、篠宮先生はマジで、人生に関わりますからね……」


 教師と生徒が恋仲になり、それが周知の事実となった場合。

 具体的にどのような処罰が下されるのか、詳しくは理解していない。


 ただ、何らかの処罰は免れないだろう。

 最悪のケースは、教職を続けることができなくなる。


「でもその時は、綾辻くんが責任とってくれるよね?」

「え、えっと、責任、ですか」

「うん。責任」

「……と、というと」


 かなり怖いワードが飛び出してきて、たじろぐ俺。


「──なんてね、冗談だよ。大丈夫、なにかあっても、綾辻くんにはできる限り負担を掛けないよう頑張るから」


 戸惑う俺の様子を見てか、篠宮先生はニコッと口角を上げる。


 なんだ、冗談か。焦った……。

 責任を取るとなると、結婚して養うことくらいしか思いつかないからな。


 ただ、


「いえ、何かあった際は俺も背負います。篠宮先生一人に負担をかける真似はしません」


 自分だけ雲隠れして、何事もなかったかのように過ごす真似はしたくない。


 それ相応のリスクは背負うつもりではある。

 まぁ、そうならないために、周囲には絶対にバレないようにしたいのだが。


「…………」

「どうかしました?」


 頬を赤らめ、ポーッと俺を見つめる篠宮先生。


「う、ううん。やっぱり優しい人だね、綾辻くんって」

「そ、そんなことないですけど」


 面映い気持ちに襲われ、咄嗟に視線を逸らす俺。


 小っ恥ずかしさから、意味もなく首筋をポリポリと掻いてしまう。


「と、とにかく、絶対に誰にもバレないように努めましょう」

「でもそうなると、デートとかもできないってこと?」


 篠宮先生はぽしょりと残念そうに問いかけてくる。


 当たり前ではあるが、人目のつく場所は避けた方がいいだろう。

 デート現場を、この学校の関係者に見られたら即刻アウト。


 その危険を犯してデートを強行するのは、賢明とは呼べない。


「避けた方がいいでしょうね」

「……し、してみたいよ。デート」


 制服の袖をちんまりと摘むと、篠宮先生は上目遣いでそっと俺を見つめてくる。な、なにこの可愛い生き物。


 本当に先生だっけ? 


「い、いや、バレるリスクが……」

「そこをどうにかならないかな」

「どうって言われても……」

「取り敢えず、一晩考えるってことでいいかな?」

「一晩考える、ですか?」

「うん。みんなにバレないように気をつけることとか、その上でデートとか色々やれる方法とか!」


 確かに、今この場でアレコレ考えるのは急ぎすぎかもしれない。


 幸い、時間はあるのだ。

 ゆっくりと考える余裕はある。


 そもそも、この生徒指導室を完全に私用で使っている訳だしな。

 長時間の滞在は、それこそ避けた方がいい。


「わかりました。じゃあ、明日までに考えておきます」

「うん。じゃあ、これからよろしくね。えっと」


 篠宮先生は俺の隣にやってくると、耳に近づき。


「タクマくん」


 そう、俺の名前を呼んできたのだった。


 い、いきなり下の名前で呼ぶのは、反則技じゃないかな……。

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