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異世界「ワコク」

昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。


おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川に洗濯をしに行きました。


おばあさんが川で洗濯していると、どんぶらこ、どんぶらこと、川上から大きな桃が流れてきました。驚いたおばあさんはその桃を家に持ち帰りました。


桃を持ち帰ったおばあさんは桃を食べようと割ったところ、桃の中から元気な男の子が飛び出しました。

子どもがいなかったおじいさんとおばあさんは大変喜んで、桃から生まれた男の子に桃太郎と名付け、大事に育てましたとさ…。


「という感じでお前は生まれたんだ」


「…ああ。よく知ってる」


ある山奥。老人と青年が歩いていた。青年の名は桃太郎。桃から生まれた人間。そして、異世界転生者である。


異世界「ワコク」

童話に登場する桃太郎の世界観。昔の日本のような自然あふれる世界。最初、転生した桃太郎も自分は元いた世界の過去に来たのだと思ったが、異世界であると確信した二つの要素があった。


一つは亜人の存在。この世界の人類のほとんどは亜人である。人間の方がまず珍しい。亜人には獣人、鳥人、魚人などがいる。かくいう桃太郎の育ての親であるおじいさんとおばあさんどちらも獣人。耳と尻尾が生えている。


そして、もう一つの存在。それが鬼である。鬼はワコク全土に存在する。鬼は凶暴であり、力が強く、体も頑丈で並の生命体では容赦なく殺される。そして、鬼は見境なく他の生命体を襲う。鬼にも巨大な鬼、奇形の鬼と様々な種類の鬼が存在する。そのような鬼たちがいる世界で人は鬼に襲われないよう、結界の中で集落を形成し、暮らしている。


結界とは、この世界に点在する柱から発せられる透明のドーム状の防壁である。柱は巨大で、地面に突き刺さっており、動かすことはできない。そして、結界の展開と解除は人が触れることで発動する。結界が有る限り、あらゆる生命体は結界内に入ることはできない。結界は人にとって、鬼から身を守るために必要不可欠な存在である。


しかし、この結界にもデメリットがある。それは土地が固定されているということ。結界にもよるが、結界内の資源だけでは限界がある。多くの集落は結界内で自給自足で生活をするが、それでも不足するものも出てくる。そのため、必要な資源は結界の外で手にいれるしかない。今回、桃太郎とおじいさんはその資源の確保のために結界の外にでていた。目的は水である。桃太郎とおじいさんは森の中を歩き、川についた。


「よいしょっと」


桃太郎は背中に背負っている直径一メートルほどある瓶をおろし、水を汲み始めた。同じく、おじいさんも背負っていた瓶を川におろし、水を汲む。


「それにしても、毎日水を汲みにこないといけないのも大変だよな」


「仕方があるまい。ワシらの里の結界内には水源はない。水がないといきていけんからな」


「あーあ、毎日雨が降ってくれれば楽なんだけどなぁ」


水を満タンに汲んだ桃太郎は再び瓶を背中に背負う。瓶にはロープが固定されていて、リュックを背負うように持つことができた。


「あー、ホント重いよなぁこの瓶」


「お前のはまだ軽いほうだ。それで重たいならまだまだ修行不足だな」


「修行不足って、じいちゃんの身体能力がおかしいだけだろ」


桃太郎の背負っている瓶は約100リットルほど入る瓶で、対しておじいさんが背負っている瓶は約500リットル入る瓶である。おじいさんは自分の背をも越える瓶を軽々と背負っていた。


「まあしかし、お前がおることで助かっとるよ。里の他の者は30リットルを背負うのもやっとな弱い者ばかりだからな」


「少しでも役に立ってるならよかったよ」


「ああ。ワシくらいもてるようになってくれれば、もう少し助かるんだがな」


「はいはい、もっともてるようにより鍛練に精進しますよー」


おじいさんに軽く嫌みを言われ、桃太郎はてきとうに流した。桃太郎は日頃からおじいさんの指導のもと鍛練を受けている。桃太郎は今年で18歳になり、ようやく100リットルの瓶を背負えるまで成長した。


「じいちゃん、今日は魚釣ってかなくてもよかったのか?」


普段、水の調達のついでに魚や山菜、獣を狩ったりと食糧を調達して帰る。しかし、今日、おじいさんはその用意をしてこなかったため、桃太郎はおじいさんに尋ねた。


「ああ。昨日見張りが里の周辺に鬼がいたという報告があった。里に近いここも長居は不要だ」


「そっか。じゃあ鬼狩りして帰るか?」


「そんなことする必要ない。不必要な戦いをしてワシかお前のどちらかが負傷したら、里の水と食糧調達に支障が出る。それだけは避けないといけない」  


里の食糧調達係りは桃太郎とおじいさんが請け負っている。理由は力あるのが、その二人だけだからである。そのため、二人のどちらかが調達できなくなるだけで、里の食糧事情は相当深刻なことになる。


「じいちゃんの言う通りだな。だったら、鬼と会う前にさっさと帰るか」


「そうしたかったが、そういうわけにも行かなくなったみたいだ」


「え?」


「瓶を下ろせ桃太郎。刀を構えろ」


おじいさんは瓶をおろし、腰に下げている鞘から刀を取り出した。桃太郎も同じく瓶をおろし、刀を取り出した。


「鬼か?」


「ああ。くるぞ…!」


川辺にいる桃太郎たちを取り囲むように二十体ほどの鬼が現れる。


「なんだ、赤鬼か…」


赤鬼。鬼の中で一般的に見られる鬼。体表が赤く、成人男性並の背丈をしている。よくいる鬼であるが、力が強く、拳の威力は岩をも破壊する。


「赤鬼と甘く見てると足元すくわれるぞ」


「はーい」


桃太郎とおじいさんは同時に動く。桃太郎は一体の鬼を一閃。胴を切り裂く。鬼は反撃で拳を振るうが、攻撃を弾き、鬼に一撃を加える。鬼は力尽き、その場に倒れた。次に二体の鬼が桃太郎の背後から飛びかかる。桃太郎はすぐに振り返り、刀を振るう。すると、ゴウッ!と刀から風の刃が飛び出し、二体の鬼を切り裂き、ぶっ飛ばした。


「よし、次は…!」


「もう終わった」


「あ?」


桃太郎が周囲を見渡すと、残り十七体の鬼が切られ倒れていた。おじいさんが、全て倒していた。


「はー、流石だな。俺なんか三体しかやれてないのに」


「それでも、十分。神器も使いこなせるようになってきたようだな」


「ああ」


神器。この世界に点在する隠された武器。刀、剣、槍、斧など様々な武器があるが、特徴としてある二点がある。一つは神器ごとに能力があること。例として、桃太郎のもつ神器は風を操る能力がある。そして、二つ目は神器を扱える者は限られているということ。つまり、神器を使うのには才能が必要であり、これがないものは神器の力に取り込まれて、神器の能力で殺される。


「神器は鬼を殺せば殺すほど強くなる。鬼を殺すときは積極的に能力を使え」


「わかった。にしても、じいちゃんはホントに強いよなぁ。俺もそのくらい強くなれっかなぁ」


「お前はまだ若い。ワシなんてすぐに追い越される。まあ、ばあさんに勝てるかどうかはわからんがな」


「それは、そうだな…」


桃太郎は苦笑いする。桃太郎の鍛練の師匠であるおじいさんであるが、そのおじいさんを鍛えたのがおばあさんである。


「さて、鬼も狩れたことだし、早く帰って今度は食糧調達だ。行くぞ桃太郎」


「マジかよー。少し疲れたから食糧は明日でいいんじゃないの?」


「ダメだ。いつ何があるかわからん。とれるときにとるぞ」


「わかった。さっさと終わらせて寝させてもらうよ」


鬼を狩り、再び瓶を背負って二人は里を目指した。





次は来週の土曜日投稿予定です

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