アイネの絡み
「ちっ! 道がどんどん先細りしやがる。これじゃあ大軍の意味がねえ。ゲルパの旦那、どうする?」
マルカネンが前を意気揚々と走るバウワーを追い、馬を走らせながら隣にいるゲルパに問いかけた。
「......このまま進んでも途中で反転した『雷迅衆』にやられるか、崖上に配置された伏兵にやられるだけだろうな」
「勘弁してくれ。そんな初歩的なやられ方はごめんだぜ」
「なら途中にある脇道から進んで、最終地点で合流するしかないだろうな」
「脇道がそこまで続いている保証はないぜ?」
「ならその地点で上に登ればいい。バウワーがやられたとしても崖上を制圧して地の利を得る。問題は......」
「その脇道にも兵が伏せられていた場合か......いるだろうなぁ。たぶん」
「敵のめぼしい将は『雷鳴戦鬼』に『紅雌虎』、それに『白雷』ミントレア子爵だ。この三人が主要な場所に配置されていると見ていいだろう。つまり......」
「殿下か、『雷迅衆』の副将どちらかは力ずくで抜く必要があるってことか。燃えるじゃないか。なら俺は左から行くぜ?」
「じゃあ俺は右からだ」
「オーケー? 武運を祈るぜ旦那」
「誰かに祈る柄でもあるまい」
「そりゃそうだ? はっはっはっ!!」
マルカネンは快活に笑いながら左の脇道に消えていった。それを横目で見ながらゲルパも逆の脇道へと入っていった。
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結果的にゲルパたちの目論見は外れることになった。ミアもミントレア子爵も中央の追撃部隊に配置されており、ゲルパの入った脇道にはラングとルルとコースが、マルカネンの方には烈とアイネが敵を待つことになった。
この配置になったのはラングたちがどうしても自分たちは一緒がいいと主張したからだ。烈はいつの間にこの三人が仲良くなったのかと訝しんだ。しかし、所定の場所で待ち構えること数刻で、彼らがなぜこの配置を強固に主張したのか、烈は嫌が応でも悟ることになった。
「なぜ、こんなダボと私が一緒にいなければいけないのか......」
アイネは隣で烈のことを今にも殺しそうな勢いで睨みつけていた。眉をひそめ、口の片方の口角を吊り上げ、しきりに「ちっ」と舌打ちをしてくる。
(俺の世界だったら学ラン着て、ガムでも噛んでそうな勢いだな)
烈は目線を合せないようにしながら、この数刻、アイネの嫌味に耐え続けていた。だが、もうすぐ敵がやってくる手はずである。さすがに全く連携なしで敵と対峙するわけにもいくまい。烈は意を決してアイネに話しかけた。
「なあ。アイネ?」
「なぜ話しかけた。芋虫野郎?」
これが美少女の口から出てくる言葉である。烈はちょっと心が折れかけていた。
「その、どうして俺はそんなに嫌われているんだ?」
「殿下に近づく輩は全員ゴミだろ? それよりなぜ喋った? 口が臭いんだが?」
「ああ、つまりミアに近づく俺たちを警戒しているということか?」
「それよりも私が気に入らないのはだ......」
雷光の如き速さで、アイネの抜いた剣が烈の首筋に突き付けられていた。烈がごくりと生唾を飲み込む。
「誰のことを『ミア』などど気軽に呼んでいるのだ? 貴様がまるでどこぞの友達のように呼んでいる相手は、この国でもっとも高貴な血筋の方だぞ? 貴様なぞ本来は地べたに額をこすりつけながら、一言話しかけられてもらった恩を一生嚙み締め生き続けなければならんというのに......私でさえ、あの方とともに旅なぞしたことないというのに!!」
つまりアイネはミアと旅を続けて信頼関係を築いている烈たちに嫉妬しているのだ。烈は指でこめかみをポリポリと掻いた。
「ミアがそう呼べと言ったからな。俺も最初は一介の戦士としてのミアに会ったわけだし、途中で王女様とわかって呼び方を変える方が失礼だろう」
「そんなことはわかっている。だからその最初が問題なのだ」
「最初?」
「そうだ。あの方のあふれ出す威厳を感じ取り、最初から『殿下』と呼ばんかぁ!」
そう言って、アイネは烈の胸倉をつかみ締め上げた。烈の方がはるかに背が高いため、あまり効果はないが、それでも無茶苦茶な話である。
「できるか......」
「やれ!」
(アイドルとかに変な夢を抱いて、犯罪を犯してしまう人ってこんな人たちなんだろうな~)
烈が可愛らしい顔を歪めて下から睨みつけてくるアイネの目を避けていると、前方から敵が迫ってきたと報告を受けた。不謹慎にもその報は烈にとって救い以外の何物でもなかった。
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