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迷いの理由

「ふーむ? つまり死んだ---いや誤って手に掛けたと思うとった妹が生きていて、しかもに顔を変えてかのバリ王国が誇る『魔剣』として立ち塞がったと?」


 カイエン公爵はミアからことの子細---烈が異世界から来たということをぼかして---を聞いても、にわかには信じられない様子だった。


「まあそやつの妄想でないと言うならば、そこを議論しても詮無きことなのだが......」


 そう言って、カイエン公爵は言葉を切った。カイエン公爵とミアと烈は小屋から移動して、村はずれの道場に来ていた。カイエン公爵の視線の先には烈がいたが、烈はどことなく心ここにあらずという感じであった。


(なんだか懐かしいな。実家の道場はここまで立派じゃなかったが、この木の匂いなんかはそっくりだ)


 烈はぼーっとして関係ないことを考えていると、ミアから肘で突かれた。烈が慌てて意識をこちらへと戻した。


「まああれだな。儂もそやつも剣士と言うならやることは一つだ。抜けよ小僧」


 そう言ってカイエン公爵は雰囲気を変えた。そこにいるだけで寒気をもよおすような殺気を当てられて、烈は思わず手に持たされていた木刀を構えた。ぶわっと背中から嫌な汗が噴き出す。


「さて、どこからでもかかってくるといい」


 カイエン公爵の挑戦的な物言いに烈もごくりと喉を鳴らす。


(どこからでも......か......ただ立っているだけなのに全く隙が無い......)


 烈は円を描くように、カイエン公爵を中心にして背後にゆっくりと回り込んだ。


(背後を取ったにも関わらず、振り向く様子もなしか......それなら!)


 烈は剣を大上段に構えて一息でカイエン公爵に肉薄した。そのまま剣を振り下ろした。


(だがこの剣は気で作った幻。本命は一拍遅れてくる一太刀だ。初見なら確実に仕留められる!)


 しかし烈の思惑は外れることになった。カイエン公爵は気の一太刀目を躱すことすらしなかった。


「何!?」


 烈の剣は見事にカイエン公爵に止められていた。


「その齢でここまで気を操るのは見事だが......いかんせん殺気がなさすぎるな。避けるまでもないわ......それに!」


 そう言って烈の剣が弾き飛ばされると、烈は体を崩されてたたらを踏んでしまう。その隙を逃さず、カイエン公爵は胴薙ぎに烈の体を打ち払った。


「ぐ......ぐはっ!!」


 鋭い一撃に烈は息ができなくなる。思わず床に膝をついてしまった。


「確かに、剣に迷いがあるな。どれ小僧の根源を暴いてやろう」


 カイエン公爵はその後も十数回にわたって烈を打ちのめした。烈は床に仰向けに倒れこみ動けなくなってしまった。烈は肩で息をしていた。


「惜しいな。天賦の才はミアと変わらんが、頭で考えすぎて剣が鈍っておる」


「ふふっ」


 急に笑った烈にカイエン公爵は訝しげにそうに見た。


「なんだ? 気でも違えたか?」


「いや、妹に同じことを言われたと思ったんだ」


「ほう? 詳しく話してみい」


「詳しくと言われてもな。稽古でこんな風に散々に叩きのめされて、終わったら同じようなことを言われたんだ。天才が気軽に言ってくれると思ったよ」


「天才とな?」


「ああ、妹は---紗矢は天才だった。一を聞けば十を知り、俺が数か月かかった技を三日で覚えてしまうような......挙句の果てには千年続いた流派ごと進化させてしまうようなそんな奴だったよ」


「ふ~む。なるほどな。理外の剣というわけか」


「理外の剣?」


「うむ。本来技などはその流派の歴史や運足、構えなどの『理』を膨大な修練の果てに突き詰めていくことで身に着けていくものだ。だが、稀におるのじゃよ。その『理』の外側にあって全体を見通して理解してしまうものがな。お主の妹もその類であったのだろう」


「なるほどな。確かに紗矢の達観した雰囲気はそんな感じだったかもしれない。勝てないわけだ」


「いや、そうでもないぞ?」


 今度は烈がカイエン公爵を不思議そうに見た。流派の『理』を解読できるものに果たしてどうやって勝つというのだろうか。


「言うたであろう? 考えすぎだと。そも小僧の使う剣は複雑だ。それをその齢でそこまで使いこなせるならば小僧も十分『理外』の領域にいるということだ」


「なら、どうして俺と紗矢に差ができるんだ? 俺は紗矢に勝てたことなんかほとんどないぞ?」


「決まっておる。小僧は自分を無理やり『理』の中に置こうとしておるからじゃ。常識に囚われ、そこから出なければ本来の力も出せまいて......それに......」


 カイエン公爵は数瞬押し黙った後、にやりと笑って言った。


「お主、本当に妹を殺したことを後悔しておるのか?」


「どういう意味だ?」


 烈の言葉に怒気がこもった。


「いやな。普通それを後悔しておるならば剣など握れぬであろう? にもかかわらず、お主を嬉々として剣を握り強敵たちを打倒しておる。そこに違和感を持たぬのはなぜだ?」


「それは......」


 烈はちらりと壁際で大人しく見ていたミアに目を見やった。烈の戦う意味はそこにあると思ったからだ。


 しかし、カイエン公爵は首を横に振った。


「ミアではないよ。あやつの放つ光は眩しく、寄りたくなる気持ちは分からぬでもないが、小僧の心の闇を打ち払うものではない」


 カイエン公爵はピタリと烈の首筋に剣を突き付けた。


「小僧、本当はただ妹に勝ちたかっただけではないか?」


 カイエン公爵の言葉に烈の心臓はドキリと飛び跳ねた。

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