公爵?
カイエン公爵の「家」に着いた烈たちはあんぐりと口を開けていた。目の前に建っているのは掘っ立て小屋と言っても過言ではない木造の小屋であった。シリウス公爵の厳格な雰囲気を持った城とも、ましてやゴードウィン男爵の悪趣味な屋敷とも比べ物にならないほど、質素な家である。
「本当にここで間違いないのか?」
「カイエン公爵っていうのは『公爵』なんだよな?」
「バリ王国の奴隷の家の方がまだ広いかもしれないです......」
ミア以外のみんなが口々に感想を漏らした。ミアは悪戯が成功した子供のような表情で笑っていた。
「驚いたろう?」
「驚いたって姫サン......これは流石に公爵の住む家としてまずいだろう」
ラングの指摘はもっともであった。国の『公爵』とは貴族の代表である。ゆえにいくら贅沢を節制していたとしても、住民や他の貴族にある程度の範は示す必要があった。それがこの住まいでは範も何もあったものではない。シリウス公爵の城を見た後だからこそ、三人とも---特にこの世界の常識を知っているラングとルルは信じられない気持であった。
「師匠は剣以外に興味のない人だと言ったろ? だからここから少し離れた村にある道場は多少立派なものだが、家自体はこんなものだ」
「だからって......」
なおも何か言おうとするラングを放っておいて、ミアは小屋に入ろうとした。しかし、扉を開ける手前で手がぴたりと止まった。
「はて? どうやら先に来客がいるようだが?」
確かに中から話し声が聞こえた。どうやら二人の男が何か話をしているようであった。
「来客か? 時間を改めたほうがいいかな?」
ミアが扉を開けようと躊躇していると、後ろからぼとっと物が落ちる音がした。4人が一斉に後ろを振り返った。そこには一人の少女がいた。短い銀髪が陽気に照らされて輝き、よく鍛えられているだろうしなやかな体躯も相まって、まるで銀色の狼のようであった。落としたのは洗濯物か、かごの中身が散らばっている。その子が口元に手を当て、目じりに涙を浮かべていた。
「おお! アイネか!?」
ミアと少女は知り合いのようであった。ミアが少女---アイネのことを呼ぶと、アイネは感極まって涙をボロボロと流し始めた。
「で......殿下!!」
それから走り出して、がばっとミアの胸に飛び込んだ。ミアとアイネでは身長差がありすぎて、アイネはミアの胸に顔をうずめることになってしまっている。それでも構わずアイネはミアに頬ずりをしていた。
「心配しておりました殿下。国を追われたと聞いたときはどうなってしまうのかと! ご無事で......ご無事で何よりです!!」
「わはは! すまんすまん!」
泣きじゃくるアイネの髪をミアはくしゃくしゃと撫でながら慰めた。
その様子を見ていたラングは烈に耳打ちした。
「姫サンを慕っている人ってのは何かこう......ちょっと狂信的だよな?」
「まあ、それだけ魅力があるってことだろう?」
「それはわかるぜ? あの強さにあの性格。戦略も政略もできるってんだから、そりゃ憧れる奴が多いてのはよ? だがにしても怖いんだよな」
「それくらいじゃなきゃ国王に反旗を翻すことはできんさ。そんなミアだから俺たちも付いてきてるわけだしな」
「俺は興味本位だぜ? あーいうのと一緒にされるとな......」
そう言いながら、ラングは親指で目の前の光景を指差した。その先にはまるで恋する乙女のようなアイネの姿がある。烈も確かに少しいきすぎかなと「ははっ」と苦笑していたその時である。
「やかましい!! 何度言おうと変わらんわ!」
怒号が響き渡ると同時にどがっと扉が乱暴に開かれた。中からゴロゴロと大きな物体が転がってきた。烈もラングもそれをひょいっと避けると、物体はその先の木に当たって止まった。どうやら物体は人間のようである。きゅ~っと目を回して逆さになって気絶していた。
遅れて扉から一人男が出てきた。豊かな口ひげを触りながら転がってきた男を大声で怒鳴りつけた。
「貴様の主に言うとけクソ餓鬼! 儂を戦場に出したきゃ斬りがいのあるやつを引っ張り出してこい! ペルセウスなんぞ相手にするのも馬鹿らしいわ!」
怒鳴る男と目が合ったミアは苦笑していた。
「元気だな師匠」
「お? ミアか?」
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