山賊
エベリ山賊団の頭領、ダンガは上機嫌だった。子分たちはよく働き、上々の戦果を麓の村々から上げてきた。飯も酒も不自由なく手に入れ、傍らにはかどわかしてきた女どももいる。山で朽ち果てていた砦も手に入れた。軍で禁欲的な生活を送っていた時よりも、はるかに充実している。暗がりの中、子分どもと戦利品で宴会を開きつつ、豊かなひげに覆われた口がにんまりと笑う。
「がっはっは。お前ら! 酒が足りんぞ! もっと持ってこい!」
「へい! お頭」
子分たちがせっせと昨日奪ってきた、酒の瓶を持ってくる。
「しかし、お頭」
「ん? なんだ?」
「あっしら結構派手に暴れているような気がしますけど、本当に大丈夫なんですかね?」
子分の中の一人、最近入ってきた小麦色の髪をした新参者の男が聞いてきた。
「がっはっはっ! 大丈夫だ。少しのお利口な軍隊じゃこの砦は攻められてもおちない! 元々領主軍にいたわしが言うんだから間違いない! それに......」
「それに?」
新参者にダンガは顔を近づけて、耳打ちするように言った。
「実はわしらにはスポンサー様が付いてるのよ」
「へえ! スポンサー!」
「軍隊が動けばその人がわしらに知らせてくれる手はずだ」
「道理で、こんなに武器があるわけでさあ。しかし、そのスポンサーってなあナニモンなんです?」
「それは、教えられんなあ」
ダンガは得意げな様子でニヤニヤしながら言った。
「そんなぁ。ここまで言ってくれて教えてくれないんですかい? 生殺しですぜ」
「がっはっはっ。まあお前がもっと戦果を挙げて大幹部になれば教えてやるよ。ほれ酒を注げ」
そういって、ダンガは空になった杯を差し出した。子分もへいへいと酒を注ぐ。
「お頭。ちょっといいですかい?」
「ん? どうした?」
上機嫌で飲んでいると、子分の一人がダンガに近寄ってきた。
「へい、リネン村に行った連中が帰ってこないんで一応知らせておこうと思いまして」
「なにぃ? いつからだ?」
「昨日の昼頃出て行ったんで、もう丸1日以上戻ってこないことになりやす」
「村で遊んでるんじゃねえのか?」
「かもしれませんが、今までこんなことなかったんで......」
「ふうむ、わかった。おい! お前ら! 何人かでちょっとリネン村まで行って、様子を見てこい!」
そうダンガが指示を飛ばしたその時だった。
「お頭ぁ! 大変だ!」
「どうした!?」
血相を変えた子分の様子がただ事ではないと悟ったダンガは、勢いよく立ち上がった。
「倉庫のところで何人かがやられてる! みんな息をしてねえんだ!」
「何ぃ?」
ダンガが急いで現場に案内させようとしたがその必要はなかった。
「ぐあっ!!」
草むらの近くにいた部下が前のめりに倒れる。その背中は袈裟懸けに斬られていた。
「誰だ!?」
ダンガは手に持っていた酒瓶を暗闇に向かって投げつけた。パキンといって酒瓶がはじかれる。そして暗闇の中から一人、ゆっくりと姿を現した。そこには返り血を浴びて、凶悪な笑みを浮かべるミアが立っていた。