魔剣
自分がこの世界に来るきっかけになった少女。会うことを半ば諦めていた少女。どこか紗矢に似た雰囲気を持った少女。それが目の前にいることが信じられなくて、烈は手を、思考を完全に止めてしまっていた。
「レツ!?」
「レツさん!?」
ゆえに、ラングやルルの悲鳴にも似た声がなければ、烈はそのまま終わっていただろう。彼らの声にはっとさせられた時にはすでに、瞬時に間合いを詰めてきていた少女の双剣が首元に迫ろうとしていた。
「ぐぅおおおお!」
烈は必死で剣を動かし、双剣を受けきった。しかし、ガキンと音がした瞬間、あまりの攻撃の鋭さに耐え切れず、ゴロゴロと馬上から落ちて地面を転がる羽目になってしまった。
烈ががばっと起き上がると、そこには連撃を加えようと、剣を大上段に構える少女がいた。
「くそっ!」
烈は片膝をついたまま剣を受けた。少女の見た目とは裏腹に、まるで岩でも落とされたかのような剣圧が自身の剣を通して伝わってきた。
(信じられない。下手するとミアに匹敵する力の持ち主だ。それにこの剣筋......)
上から横から、烈が逆転を狙う中でも少女の攻撃は続いた。傍から見ていたモーガンとラングは信じられないものを見るかのようだった。
「まさか、旦那がここまで押されるなんて!? あれが『魔剣』か!?」
「いや、あのお嬢ちゃんの強さだけじゃねえ」
「どういうことだ?」
モーガンが話の真意を確かめようとラングを見ると、彼の顔は何か葛藤に苦しんでいるかのように歪んでいた。
「烈の動きが悪すぎる。お嬢ちゃんは強いが、あれほど差があるわけない。まるで余計なことを考えているみたいだ」
「なら助けにいかねえと旦那が......」
「簡単に言うなよ。あんな一流同士の攻防の中に下手に首を突っ込めるか」
「ぬぅ!」
モーガンがちらりとルルの様子を見たが、彼女も同じような状況であった。矢を番えて、引き絞ったまま下手に手を出せずにいた。
「ルル殿の矢ならどうにかならんのか?」
「無理だろうな。あの『魔剣』のお嬢ちゃん、背中に目でもついてんのか、あれだけ烈を攻撃してても、周りの警戒を怠ってねえ。ルルが射ても矢が当たるどころか、それを利用して烈に当てかねねえよ」
「なんという......怪物か......」
モーガンはギリッと唇を噛んが。自分の体が動ければ盾となるのにと、拳を握りこんでいた。
そうこうしているうちに、『魔剣』はさらに激しさを増していった。右から左から、左右の剣が別の生き物のように烈に襲い掛かった。
(手を出す隙が無い。まるで詰将棋にあっている気分だ。こんなことできるのはあいつだけだと思っていたのに......)
烈が死の気配を感じ、冷や汗を垂らした。このまま受け続けていても体力を消費して自分の身に刃が届くのは時間の問題に思えた。
(仕掛けるしかないか......)
嫌な予感を残しつつも、烈の剣を取る手に力がこもった。
(立花流---昇竜!)
襲い掛かる二刀の一瞬の間隙をついて、烈は剣を下から上へ振り上げた......力を抜きつつではあったが......
「おっと!」
『魔剣』は冷静に見極めて、その剣を後方に下がりながら躱した。しかし、『魔剣』の体勢は崩れた。その瞬間、烈は剣を片手で持ち、全身の筋肉に力を込めた。こちらが本命であった。片手のまま剣を『魔剣』の肩口に向けて振り下ろした。
(立花流---飛爪!)
烈の膂力ならば片手であっても相手を切り裂くことができただろう。
しかし、『魔剣』は烈の顔を見ながらクスっと笑った。そしてまるで次に来る攻撃が分かっていたかのように、横に避けてみせた。
「何!?」
烈は信じられなかった。初見で躱すことはできないと自信があったのだ。
烈の剣はそのまま大地へと突き刺さった。烈の体が泳いでしまう。『魔剣』はその隙を見逃さず、横薙ぎに二刀を、まずは左剣から、次に右剣を振るった。
「くそっ!」
烈は体勢を崩しながらも、剣を振り上げて一太刀目を防いだ。しかし、その際に自分の剣が吹き飛ばされてしまった。
(二撃目が......来る!)
烈は右剣を避けようとした。大地を踏み込み、無理矢理体を地面と平行にして、横薙ぎの一撃から身を躱そうと......だが、烈の細胞がそれを拒否した。
(なんだ? 早く避けないと死んでしまう。なのに、どうして俺はこれを避けたほうがまずいと思うんだ? いや、なぜ俺はこの剣筋を知っているんだ!?)
烈の困惑を余所に、烈の体は記憶していた通りに動いた。あえて迫りくる剣を避けなかった。
結果は正解だった。迫りくる刃は烈に当たった瞬間、霧散した。闘気が見せた幻だったのだ。そして、一拍遅れて本物の刃が迫った。
「ぐおおおお!」
烈は今度こそ、自分の筋力を総動員して刃を避け、またも大地に転がった。すぐに『魔剣』の追撃が来る。烈は立って避けなければいけない。だが、彼の体は動かなかった。自分が今、剣を避けれたことの事実が彼に突拍子もない、しかし確信を持った真実を告げていたからであった。
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