運命の邂逅
「レツ! どうするんだ!?」
ラングが並走しながら烈に確認した。彼らは戦場を大きく迂回し、ミアが相手をしている軍団を避けて、奥の鉄百合団との戦いに直接乗り込もうとしていた。
烈はしばらく黙ったままだった。
(なんて軍だ。どこにも気のゆるみが見つからない。全員強固な意志をもって、クリスたちを追い込もうとしている。いや......)
烈は戦場をぐるっと反対側まで回り、そこから号令を出した。
「あそこから侵入する!」
「お!? 最初に見えてた本陣っぽい奴らか。 あそこが一番さくっといけるのか?」
ラングが何かを期待したかのように聞いた。だが、烈は首を横に振った。
「違う。あそこが一番激しく鉄百合団を攻め立ててる」
「おいおい!? ならどうしてあそこから行くんだよ!?」
「一番攻撃のことしか考えてないからだ!」
「あ!? こら待て! ちきしょう!」
いうやいなや、ラングの制止も聞かず、烈は一足先に馬を駆けだした。そのまま、ぐんぐんと速度を早め、敵を切りつける。他のものたちも置いて行かれまいと、次々と敵の中に飛び込んでいった。
「ぐおお! 敵が多いぃぃ!」
「ひええぇ! 飲み込まれますぅ!」
ラングとルルが悲鳴を上げた。近衛兵団に突撃した時と比べても段違いの敵の圧力だった。
「情けないこと言うな! 旦那が先頭切ってるんだ! お主らも続け!」
二人を鼓舞したのはモーガンだった。この前の戦いで、烈に心底惚れこみ、私兵を率いて付いてきていた。乱戦には一日の長があるのか、大斧を振り回せて、手強い敵をなぎ倒していく。
「何が旦那だ! 小僧呼ばわりしていたくせに!」
「はっはっはっ! そんな昔のことは忘れた」
「つい数日前のことじゃねねえか!」
「細かいこと言うな! 儂は旦那の行くところ付いて行くと決めたんじゃい!」
「二人とも、おしゃべりしてるとレツさんに置いてかれますよ!?」
ルルの忠告に言われずともと、悪態をつきながらも前方の兵士を蹴散らしていく。彼らも鉄百合団と烈たちの挟み撃ちのような形になっているはずなのだが、全く揺らぐことがない。よほどしっかりと訓練されているのだろう。
「なかなか、前に進めないな」
「前みたいに指揮官クラスをルルに射抜いてもらってってのはできないのかい?」
モルガンとじゃれ合っていたラングが烈に追いついて問いかけた。烈は敵を馬上から叩き落しながら、返答した。
「ああ、こいつら生半可じゃない。たぶん誰がやられても止まることはなさそうだ」
「教育がしっかりしてるのね......だが、ぼやぼやしてるとあの団長さん、やばいかもだぜ」
「分かっている。しかし......」
「どけどけぃ!」
二人の話にモルガンが割り込んできた。大斧と配下の中でも特に大柄な男たちを率いて、烈たちの前に飛び出した。
「お前ら! ここが手柄の立て時だぁ! 旦那にしっかり見てもらえよ!」
「うー-っす!」
モルガンの激に、屈強な男たちが威勢よく返事をした。しかし、焦ったのは烈だった。
「モルガン! 前に出すぎだ!」
「構わねえさ! こいつらの露払いは俺らの役目よ! 旦那は敵将のことを考えときな!」
「しかし!」
烈の制止の聞かず、モルガンたちは自分たちの体が傷つくのも意に介さずといった風に突撃を繰り返した。大斧が振り回され、敵が横薙ぎにされていく。
彼らの決死の攻撃は徐々に相手を削り出し、ついには敵と鉄百合団がぶつかっているところまで躍り出ることができた。
モルガンはそこで力を使い果たしたのか、馬上でぐらりと体を傾け落ちそうになる。それをラングが支えた。
「いらんわい、馬鹿者」
モルガンの悪態にラングは肩をすくめて笑った。
だが、眼前には双剣を携える一人の剣士と、その向こうで大地に膝をつき肩で息をし、剣で体をさせるクリスがいた。遠目にも鎧はボロボロで、体中から血が流れ、瀕死の状態であることが分かった。
「おや?」
双剣の剣士が振り返った。それは少女であった。ショートボブの黒髪に愛らしい唇、目元はぱっちりとしていて、鎧さえ着ていなければ美人この上ないだろう。黒い瞳でこちらを視認し、花のようににっこりと笑った。それだけでたいていの男はドキリとしてしまうような、少女には似つかわしくない妖艶さも漂わせていた。
「やあ、来たのか?」
そう言って少女は烈たちに問いかけた。烈は答えることができなかった。口を開けて、二の句が継げなくなっていた。烈がこの世界に引き込まれることになった、鏡の中にいた少女が自分の目の前にいた。
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