戦う意味
「妃殿下の盟友か......面白いな」
シーバスは自嘲気味に笑った。
(この国でもっとも尊き方を追い出した自分にとっては耳の痛い言葉だ)
シーバスとて言われたままにしてはおけない。烈のまっすぐな目を見返した。
「彼の方と思いは相容れぬとはいえ、一度は主家筋と仰いだ身、そのような物言いは不愉快よな」
「そんなに国王とペルセウスはあんたにとって魅力的なのか?」
「何?」
シーバスの眉がピクリと訝しげにはねた。
「どういう意味だ?」
「俺はこの国のものではない......」
「......」
「だから、誰が偉いとか、誰に従うべきとかそういうものは持ち合わせてない」
「......」
「俺のこの剣は自分が振るいたいと思った人のために使いたいと思う。それがミアだ。あんたにとっては国王やペルセウスがそうなのか?」
「......子供の駄々のような話だな」
「そうなのか?」
「無論だ。我らは近衛兵。国王陛下に仕えているものだ。ペルセウスがどうとかそういう話ではない」
「だが、あんた納得していないんだろう?」
「......」
ペルセウスは再度黙った。沈黙こそ何より雄弁な答えであった。
「国王とペルセウスの噂はここに来るまでに何度も聞いた。戦のために国民に重税をかけ、反対する国の重鎮はすべて幽閉し、政治も経済も混乱する一方だと。それなのに近衛兵というだけで国王の味方をするのか?」
「あるいは小僧の言っていることは正しいのかもしれんな......だが......」
シーバスは言いながら腰に佩いた剣を抜いた。
「主に忠性を誓い、手柄を立て、この先の末代までの誉とするのもまた騎士の本分よ。戦いを避ける妃殿下では我らの価値がなくなってしまう......この国はな......小僧! 傭兵国家だ! 戦場こそが我らの食い扶持よ! ガキの夢見で物事を語るな!」
膨れ上がるシーバスの殺気に烈も、追い付いてきたモーガンやルルたちも各々の武器を構えて対峙した。
「小僧とこれ以上問答をしても相容れぬことはわかった。ならばいざ! 剣によって雌雄を決しよう!」
そう言うのと同時にシーバスは馬を奔らせ、剣を大上段に振りかぶって烈に向かってきた。烈もまた受けて立つと言わんばかりに剣を構えた。
「おぉおおぉ!」
シーバスが袈裟懸けに剣を振り下ろし、烈がそれを冷静に受け止めた。ガツンっと金属の打ち合う音がした。そして、シーバスの後に配下たちが続く。いけ好かないくはあれど、総大将独り敵に向かわせるのはそれこそ騎士の恥であった。
「させるか!」
モーガンが吠え、ラングやルルも後に続き、烈の邪魔はさせまいと後続の近衛兵たちを牽制した。
しかし、周りの喧騒とは裏腹に、烈とシーバスの戦いは静かなものだった。最初の人たちでぶつかりあったあとは鍔迫り合いをしつつ、互いに距離を取り、数回打ち合っては離れるということを続けていた。
「どうした? その程度か?」
「ぐ......ぐぬ......」
理由は明白であった。烈とシーバスの間の技量があまりにも離れていたからであった。
(こ......この小僧!? なんという技術だ!? 私とて元は近衛の大隊長。剣の腕もそれなりに磨いてきたつもりだが......まるで相手にならん!?)
シーバスは驚きに包まれていた。まさかこれほどの人材が名を聞くこともなく、ミアの陣営にいるとは思っていなかったからだ。彼の耳にはまだ、バリ王国の剣闘大会で三剣の一人を破った少年の話は届いていなかった。知っていればこの戦いはもう少し変わった結末を迎えていたかもしれない。
「おのれ!」
シーバスの苦し紛れの剣を烈は丁寧に弾いた。
「この程度か! この程度であいつに剣を振るったのか!」
烈の攻撃が段々と激しくなっていった。シーバスは防戦一方となっていく。
「あいつは! ミアは! 泣いているぞ! 同国の民と戦うことになり、望まぬ戦をさせられて!」
烈は怒っていた。まるでミアの代わりに感情を吐き出しているかのようであった。
「それが騎士の本分だと? 傭兵国家がどうだと? 知るかぁ! 自分たちで共食いしてるやつらに未来なんぞないんだよ!」
「お......おのれ!」
烈の剣激に押されたシーバスは苦し紛れに剣を振るった。一合目と同じように袈裟懸けに剣を振り下ろす。
(立花流・龍尾返し)
対して、烈は下段からシーバスの剣を摺り上げるようにかち上げた。シーバスは体制を上段に戻されてしまう。その体躯に向けて、烈は振り上げた剣で斬りつけた。
シーバスが口からがふっと鮮血を迸らせる。そして虚ろな目のまま大地へと倒れ伏した。彼が最後に考えたことは大嫌いなはずのアメリアのことであった。
(アメリア......お前はまだ若い......逃げろよ?)
倒れたシーバスが死んでいることを確認したモーガンが斧を振り上げて叫んだ。
「勝ち鬨だぁ! 第三軍団長シーバスはレツ・タチバナが討ち取ったぞぉ!!」
敵本陣で味方の歓声が木霊していた。
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