シーバスの覚悟
最初に異変に気づいたのは、本陣の左端に配置された兵士たちであった。敵総大将を取り囲み、数で圧倒する自軍を遠目に見ていて、さしもの近衛兵団にも自分達の出番はないだろうと弛緩した空気が流れていた。
「ふぁ~......」
1人の兵士が大胆にもあくびをした。それを見咎めた隣の兵士が肘で小突いた。
「おい、流石に小隊長に目をつけられるぞ?」
「だってよ~、これもう勝ったろ? 作戦勝ちだよ、作戦勝ち。あーあ、これで俺らの上官はずっとシーバス軍団長様か」
「お前!? 誰かに聞かれたら警告じゃ済まされんぞ」
「知るかよ。俺はさ、オブスタイン軍団長に憧れてわざわざ第三軍を志願したんだぜ? なのに今更第三軍で1番慎重な人に指揮されてもね。お前もその口だろう?」
「うぐっ......」
言われて、咎めた方も口をつぐんだ。思いは皆同じだったからだ。
「無論、我らを真に率いるのはオブスタイン軍団長に他ならない。だが......」
「おい? あれはなんだ?」
近衛兵の理念を説こうとした兵士の声を、あくびをした方が遮った。
「待て待て、人の話は聞くものだ」
「違うって、あれだよあれ」
先ほどとは打って変わって焦ったような男の声に、つられて咎めようとした近衛兵も、あくびをした兵士が指を指し示す方向を見た。
確かに、何かが近づいてくる。最初は黒い影に見えた。それがこちらからの距離が800アージュ、700アージュと近づいてくるとともに姿が鮮明になる。その姿がはっきりとわかる距離になると、近衛兵たちは青ざめた。最初に気付いた近衛兵が大声で叫んだ。
「て......敵だぁー--!」
そこからはあっという間であった。兵から兵へ、情報は波のように伝わり、中心にいたシーバスの耳にもすぐに届いた。
敵襲の知らせを聞いたシーバスはカっと目を見開いた。
(なるほどな......兵たちをまんまと前線に上げられてしまった......おかげで本陣は丸裸だ)
シーバスは敵の思惑に乗ってしまった自分をふっと自嘲気味に笑った。
(第三軍の特性を突かれてしまったか......アメリアの言うことに乗らなければあるいは......)
半ば何かあると予想していたシーバスに焦りはなかった。待機していた馬にひらりと跨ると、敵が来ると言われた方向を見た。
(もう、100アージュほどか......防御は間に合わんな.......)
シーバスは陣形を整えることを諦めた。代わりに二つ指示を飛ばした。
「最前線に伝えろ。なるべく早く妃殿下と公爵を捕らえるようにと。それと、敵兵と本陣の間になるべく兵を入れろ。壁を作るんだ」
シーバスは愛用の剣をに手を掛け、首をゴキゴキと鳴らした。
「さて、来るがいい。妃殿下の必殺の刃よ。ここからは泥沼の戦いだ」
シーバスが見据える先では、自軍の端が敵の一団とぶつかり合い、瓦解するところが見えていた。
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