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森の中から突然に

 姿を木の葉の陰に隠す烈の眼前には、軍勢によって踏み鳴らされた大地と、軍勢が通り過ぎたことによる土埃と、そしてミアたちとの戦闘に加わらず残った敵の本陣約300人がいた。全員戦の趨勢を決するであろう目の前の戦いに集中しており、烈たちがいるなどとは考えてもいない様子であった。


 そして、烈の背後には精鋭100人の兵士たちが息を殺して彼の号令を待っていた。


「上手くいったじゃねえか」


 がしっと肩を回して、左隣にいたラングがひそひそ声で話しかけてきた。その顔はしてやったりという顔であった。


「モーガンのおっさんも、これなら文句ないだろ?」


 そう言って、ラングが声をかけたのは烈を挟んで右隣で事の成り行きを見守っていた、会議中に烈に怒鳴りつけたモーガンであった。呼ばれたモーガンは口周りのもじゃもじゃの髭を掻きむしり、歯ぎしりをしながら目の前の光景を見守っていた。


「ま、ここからは俺らに任せて休んでおけよ? あとはやっておくからよ」


 モーガンはこめかみに青筋を浮かべてギラリとラングを見た。若者たちの作戦が上手くいくわけないと、会議で最後まで言い張りついてきた手前、言い返すことができなくなっていたのだ。


「ラング、そこまでにしておけ」


「へいへい」


 ラングは烈に嗜められると、ぴゅーっと口笛を吹きそうな様子でそっぽを向いた。


「モーガン男爵」


「なんじゃい?」


 烈に呼ばれて、ラングに飛び掛からんとしていたモーガンはそちらを向いた。


「あなたの力が必要です」


「......」


「俺らは戦場の経験がありません。後ろのあなたの手勢に俺が行くぞと言っても本来の力は発揮できないでしょう」


「儂がここまで来て協力を拒んだらどうする?」


「ミアが死にます」


 烈が真摯な目でモーガンに語り掛けた。


「俺らもこの戦に敗れるだけです。シリウス公爵もクリスも男爵もみなペルセウス侯爵のいいなりになるしかなくなります」


「......」


「だから俺はこの戦で勝ちます。ただそのために男爵の力がどうしても必要だ。俺と一緒に並走してくれなければあの敵陣は突破できません」


「......言っても、この兵力差だ。儂が怖気づいたらどうする?」


 モーガンの言葉に烈はクスリと笑った。


「冗談でしょう? 『不死身の重戦士』が?」


「......よくその二つ名を知っておったな」


「男爵とこの作戦を行うに辺り、少しミアや他の人たちに男爵の話を聞かせていただきました」


「......どのような話だ?」


「先王の頃から数多くの戦場で一番槍を務めた練達の戦士だと。こういう不利な戦場で彼以上に信頼できる男はいないと」


「......」


「お願いします。俺と共に打って出てください。そうすれば......」


「そうすれば?」


「必ず、敵将を倒してみせます」


「......」


 モーガンは下を向いて数瞬黙ったままでいた。それからすっと上を向いて、烈に問いかけた。


「なぜそこまでする? お主、この国の生まれではないのだろう? 命を懸ける必要などあるまい」


「それは多分男爵と同じかと」


「儂と?」


「ええ、だってミアの王冠を被った姿、見たいでしょう?」


 モーガンは烈の言葉にぽかんとした。そして徐々に肩を震わせて、最後は大声で笑った。


「はっはっはっ! 確かにな! それが見たくて儂は戦っとるんじゃ!」


 モーガンはなおも笑った。烈も、そして隣にいたラングや、背後のルル、そして他の兵士たちもふふっと笑っていた。


「なあ、お主、意外と馬鹿じゃろう?」


「それはまあ、皆さんと同じくらいには?」


「違いない!」


 モーガンは背後を振り返って言った。


「おい! 貴様ら! 儂はこの若武者に乗ることにした! 貴様らもついて来い!」


 隠れていた兵士たちは鬨の声をあげることはなかったが、皆一様に目を輝かせて頷いた。


「さあ、これでこいつらはお主の号令に従うぞ?」


 最後はお前が決めろというモーガンの視線を受けて、烈は目を閉じた。


(空気が重いな......平和な世界に生まれた自分がなぜか戦場にいる。自分が何をすべきなのかまだわからない。だけど......)


 烈は辺りを見回した。ラングが、ルルが、モーガンと百人の兵士が自分のことを見ていた。


(だけど、今しなければいけないことは分かる!)


 烈は剣を抜き振りかぶって、ぴゅっと目の前に下ろして、切っ先を敵本陣に向けた。


「全軍! 突撃!」


 うおお!と百人が声をあげて、森から飛び出していった。

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