戦場へ向かう前に
レイアを自身の天幕に預けたシリウス公爵は改めて、烈たちの前に現れて頭を下げた。
「レツ殿。ラング殿。ラフィ殿。ルル殿。この度は本当にお世話になりました。我が娘の命を救っていただきまことにありがとうございます」
国の筆頭公爵に頭を下げられたラングたちはひどく慌てた。烈だけは身分と関係ない所から来たため少し反応が遅れたが、それでも身分の高い、自分の父親ほどの年齢の男性に頭を下げられたのだ。これが異常事態だということくらいはわかった。
「いやいや、勘弁してください。他人が見たらなんていうか......」
「ラング殿。ここには我が手勢しかおりませぬ。私のことを咎めるものな殿下くらいしかおりませぬよ」
「そりゃそうでしょうけども......我々は風来坊みたいなもんですよ?」
「はっはっはっ!」
シリウス公爵は腰に手を当てて、ラングの言葉を何をくだらないことをと言わんばかりに笑い飛ばした。
「確かに、君たちの身分は知れない。貴族呼ばれるものの中には、君たちを無為に蔑むものもいるだろう。ルル殿は例外かもしれないがね」
公爵は四人をゆっくりと、優しいほほえみと共に、まるで父のように眺めた。
「だが、君たちは娘を助け出してくれた。この国で強大な権力と地位を持つ私ではなく、君たちが成し遂げたんだ」
「......」
「ならば、私はこの国の貴族として君たちに敬意を払わなければならない。さもなければただ傲慢な存在となり下がってしまう。地位が上で、王族以外に敬意を示す必要がないからこそ、常に自分の立ち位置を振り返り、貪欲に辺りから吸収しなければならないんだ。それこそ真の『高貴』というものなんだよ」
そう言って公爵は悪戯っぽく笑った。ラングはぽかんとした後、毒気を抜かれたように苦笑した。
「......なるほどね。どうやら公爵は俺が知ってる貴族たちとは違うらしい」
「そういってもらえると助かるよ。これからも君たちの力は必要になるだろうからね」
「どうかな? あの妃殿下なら案外一人でどうにかしてしまうんじゃないですかい?」
ラングの言葉に公爵は少し寂しそうな顔をした。
「かもしれんな......あの方は、とても偉大な王になられる素質をもっています」
「何か問題があるのですか?」
ルルが無邪気に聞くと、公爵は首をゆっくりと横に振った。
「問題などないさ。ただ、あの方がもう少し凡愚であったなら、あるいは陛下がもう少し王としての度量を示すことができれば......この国の未来は変わっていたのかもしれないと思うとね......」
「国王様とミアさんはそんなに仲が悪いんですか?」
「そうだね......どうやらあまり馬が合うとは言えないらしい......」
「......私、この国の事情とかは詳しくないですけど......」
ルルは公爵を凛と見上げた。
「きっと、力を合わせたほうが物事はうまくいきますよ?」
ルルの言葉は元王女の言葉にしては少し幼すぎた。だが庶民でもわかる真理を面と言われて、公爵は恥ずかしそうに眼を伏せるだけであった。
「あー--っ!!?」
何か気まずい沈黙が流れる中、ラフィが突然大声を発した。
「ど......どうしたんだ、ラフィ?」
「ごめん! レツ! 俺ちょっとやらなきゃいけなかったこと思い出した!」
「そ......そうなのか? なんだか急だな?」
「うん! だからもう行くね!」
「あ.....ああ......」
唖然とする、一行にラフィは一人一人お別れの言葉をかけていく。そして、最後に烈の前に立って、ニコッと笑った。
「レツ、今回は数日だけだったけど、君とはまた会うことになると思う」
「そうだな、そんな気がするよ」
「ふふっ。だからレツ。君に一つだけ伝えておくね」
「ん? なんだ?」
そう言うと、ラフィは口を烈の耳に近づけて、辺りに聞こえぬように言った。
「最後、もし君が追い詰められるようなことがあったら、今まで紡いできた絆を信じてくれ。それが戦いの趨勢を決定づけることになる」
「どういう意味だ?」
「さあね!」
そう言って、ラフィは手を振って皆から離れていった。
「妃殿下によろしくね~」
烈はラフィの言葉の意味が分からず、首を傾げたが、今は考えても仕方ないと、ミアの待つ天幕へと入っていくことにした。
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