徒手格闘
森の中から男たちがぞろぞろと這い出てきた。いったいどこにいたのかと思うほど、気配がない。
烈たちはあっという間に傭兵たちに取り囲まれてしまった。
「まいったな。本職顔負けの気の消し方じゃねえか」
ラングが独り言ちると、目の前のゼスが笑った。
「当たり前だ。俺らは『暁の鷲』の第八部隊---奇襲専門部隊だぞ? これくらいできなきゃ俺が首を刎ねてる」
平然と恐ろしいことを言うゼスに、敵よりも味方の団員たちの方がうろたえていた。その様子を見てゼスはつまらなそうにふんっと鼻を鳴らした。その間も目線は鋭く烈の方に向けていた。腕にはめた黒鉄甲をだらりと下げて、まるで自然体に、しかし殺気は森を覆い隠すほど辺りにまき散らせて、烈たちの動きをけん制していた。
「ラング、ラフィとレイアは無事か?」
「ああ、とりあえずな。目を回してるがよ」
「そうか、そっちは頼んだぞ? 俺は手を離せそうにない」
「だよな。そいつ任せてもいいのか?」
「多分,,....な......」
烈の剣を握る手がじんわりと冷や汗で濡れる。
(とんでもないな......まるで暴力の化身みたいな男だ)
「いいね~。やる気になってくれる敵に会うのは久しぶりだぜ。じっくり楽しませてもらおう......か!!」
言うや否や、ゼスは一気に跳躍した。烈目掛けて、高速で詰め寄ってくる。烈は正面から突っ込んでくる。烈は多少面喰いながらも、流れに逆らうことなく、低めに下げられた頭目掛けて、剣を振り下ろした。
(避けるか? それとも、その鉄甲で受け止めるか?)
しかし、烈の予想はどちらとも外れることになった。ゼスは鉄甲の拳の部分で烈の剣を弾きつつ、そのまま烈の顔めがけて突きを放ってきた。
「なに!?」
これには烈も慌てた。必死に体ごと避け、その頬を鉄甲がかすめた。烈の頬がぴっと切れる。だが、行きつく暇もなく逆の鉄甲が、避けた先の烈の鳩尾に目掛けて飛んでくる。がきんと金属同士が鳴る音が聞こえた。烈は間一髪、剣の腹で鉄甲を受け止めた、が......
「ぐあっ!?」
烈は大きく吹き飛ばされた。烈は転がりながら、追撃を警戒して急いで体勢を立て直す。しかし、ゼスからの追撃はなかった、目の前には油断なく、しかし楽しそうに笑う獣がいただけだ。
「くっくっく、やるじゃねえか。俺の拳を二度も防いだ奴は久しぶりだぜ」
「そりゃどうも」
烈は皮肉に答えながら冷や汗を流した。
(まさに、神技だな。普通、拳で剣を弾くかよ。一歩間違えば腕を両断されて終わりだっていうのに)
烈は慎重に正眼の構えをとる。剣先をゼスの首筋に向けて、簡単には間合いに入れないようにした。
「あんた、なんだってそんな戦い方なんだ?」
「あん? どういう意味だそりゃ」
「あんたほど実力なら他にも戦い方なんて山ほどあるだろ? そんな危険な戦術を取る必要はないはずだ」
「おいおい? わざわざ他人のスタイルにケチをつけるのか? どう戦うかなんて俺の勝手だろうさ?」
「そりゃそうだ。ちょっと気になっただけさ」
「......別にわけなんてありゃしねえよ。これが一番性に合ってただけだ」
「へぇ? おっかない性分だな」
「くっくっく、てめぇが言うかよ?」
「なに? どういうことだ?」
「最初の一撃、わざわざ俺の手の内を見るために、わざとぬいたろ? そんな奴が俺のことをイカれ扱いするんじゃねえよ?」
「......」
「図星突かれて......黙んなよ坊主!」
今度はゼスの方から踏み込んだ。
登場人物紹介
★立花烈 (レツ・タチバナ)
本作の主人公。ある日、亡き妹の姿を追って、異世界に迷い込んだ少年。齢は18。黒い髪に、高い身長が特徴。実家が古流剣術の道場であり、そこで厳しく育てられたため、剣術の腕は比類なきものとなっている。なにやら暗い過去があるようだが、それについては口を閉ざしている。
★ミア・キャンベル
烈が異世界で目覚めてから初めて出会った少女。齢は18。赤髪に金色の眼、烈と同じくらいの高身長で、身の丈もある、幅広のバスターソードを軽々と振るう。その正体はドイエベルンの王女『ミネビア・アーハイム・キャンベル・ロンバルト』。実兄である現国王と、その腹心のペルセウス侯爵の専横を打倒するために奮闘している。『紅雌虎』の異名を持つ。
★ラング
烈とミアがバリ王国の山賊を退治した時に出会った男。齢は20。金髪で小麦色の肌を持ち、ノリもよく、いわゆるモテる男なのだが、何か秘密があり謎めいている姿も持つ。剣の腕は我流だが一流。
★ルル
モニカ王国の元王女。齢は13~14くらい褐色、黒髪の美少女。モニカ王国がバリ王国に滅ぼされ、奴隷に身をやつしていたところを、烈に解放されたため、その恩返しのために共に旅をしている。元々は『軍破弓』の異名を持つほどの弓の達人で、200m先の敵将を正確に射抜くことができる実力の持ち主。




