襲来
レイアを連れ出した烈たちは、砦のすぐ近くの森の中の道を疾駆していた。先頭からラング、烈、そしてレイアを背負ったラフィが留めてあった馬目掛けて、力の限り走る。
後ろから『暁の鷲』があってくる気配はなかったかが、それでもすぐにこの場から離れたかった。
「夜が明ければ、レイアが処刑されてないことに気付くだろうな」
烈が呟くと、ランタンをカシャカシャと揺らして、皆を先導して走るラングは笑った。
「そんな甘いもんじゃない。奴らは超一流。もうとっくに気付いているだろ」
「おいおい。それならやばいんじゃないか?」
烈は後ろを振り返った。今にも追手が現れるのではないかと冷や冷やした。
「かもな。だが、繋げてある馬の所までもう少しだ。ここまで来れば多少追いつかれたところで、烈と俺なら切り抜けられるさ」
「ちょ......ちょっと待ってよ~」
後ろでラフィがへろへろとよろめきながら足を鈍らせていた。それもそのはずである。砦からここまで、軽いとはいえ人間を一人担いでいたのだ。ラフィは肩で息をしながら、足を止めてレイアを担ぎ直す。右手には崖、左手には森が広がっており、片側を警戒する必要がない分、やりやすい地形で、烈たちは小休止をとることにした。
「ああ、すまん。ラフィ。お前にもずっと担がせて悪かったな。重かったろ?」
「公爵の令嬢になんてことを......いや、この中で俺が一番弱いから担ぐのは構わないんだけどね......ちょっと休んでもいいかい? 流石に腕がぷるぷるしてきた」
「なら、俺が担ぐよ」
烈が提案すると、ラングがそれを片手を突き出して制した。
「おいおい。あの『鉄甲鬼』が追ってきたときに、一番対抗できるのはレツなんだぜ? お前は力を温存してもらわないと困る」
「だが、それで二人が動けなくなっても......」
「舐めんなよ、レツ。流石に馬までだったら俺ら二人でどうにかなるさ。なあ、ラフィ」
「うん。俺は戦闘が専門じゃないからね! あ~いう連中の相手は君たちに極力任せるよ!」
ラフィがへらへら~と顔を緩ませて、片手を振るのと同時だった。突然、ラフィの背後で寒気がするほどの殺気が膨れ上がった。あまりにも夜の森に気配が隠れていて。烈もラングも反応が遅れた。
「危ない! ラフィ!」
烈が悲鳴を上げたときには遅かった。ラフィが振り向くよりも速く、何者かかが一瞬で間合いを詰め、背後からラフィの頭を横殴った。ラフィはレイアを抱えたまま、ラングの方へと吹っ飛んでいき、三人を巻き込みながら崖へと激突した。
「ラング! ラフィ! 大丈夫か!!?」
烈が悲鳴を上げる。強力な一撃に、ただただ戦慄した。
「いててて......」
吹っ飛んだ塊の中から一人が起き上がる。ラングだった。
「ラング!? 大丈夫か!?」
「気を抜くな! レツ!」
烈が振り向いたときには、先ほどラフィを吹っ飛ばした存在が肉薄していた。人間だ。男である。烈は咄嗟に剣を抜いて迎撃する。強烈な打撃が剣に加えられ、烈は衝撃を流しきれず、大きく後退することになった。
「おらぁ!」
男は気合一閃、水平チョップの要領で腕を振り、烈もラングたちの近くに吹っ飛ばされた。
「ぐっ!?」
「ほう、今ので剣が折れねえかよ。力を分散したな? そそるじゃねえか」
烈は剣を構え直して男と相対した。目の前には『暁の鷲』の第八部隊隊長、『鉄甲鬼』のゼスが腕をだらんと下げて立っていた。
登場人物紹介
★立花烈 (レツ・タチバナ)
本作の主人公。ある日、亡き妹の姿を追って、異世界に迷い込んだ少年。齢は18。黒い髪に、高い身長が特徴。実家が古流剣術の道場であり、そこで厳しく育てられたため、剣術の腕は比類なきものとなっている。なにやら暗い過去があるようだが、それについては口を閉ざしている。
★ミア・キャンベル
烈が異世界で目覚めてから初めて出会った少女。齢は18。赤髪に金色の眼、烈と同じくらいの高身長で、身の丈もある、幅広のバスターソードを軽々と振るう。その正体はドイエベルンの王女『ミネビア・アーハイム・キャンベル・ロンバルト』。実兄である現国王と、その腹心のペルセウス侯爵の専横を打倒するために奮闘している。『紅雌虎』の異名を持つ。
★ラング
烈とミアがバリ王国の山賊を退治した時に出会った男。齢は20。金髪で小麦色の肌を持ち、ノリもよく、いわゆるモテる男なのだが、何か秘密があり謎めいている姿も持つ。剣の腕は我流だが一流。
★ルル
モニカ王国の元王女。齢は13~14くらい褐色、黒髪の美少女。モニカ王国がバリ王国に滅ぼされ、奴隷に身をやつしていたところを、烈に解放されたため、その恩返しのために共に旅をしている。元々は『軍破弓』の異名を持つほどの弓の達人で、200m先の敵将を正確に射抜くことができる実力の持ち主。




