戦鬼のやり方
ザネの砦の主の間で、最も豪奢な椅子に座った一人の男が、酒を小さなガラスの器に注いで飲んでいた。周りにいる部下であろう者たちは、その男の一挙手一投足にびくびくしながら、いつ訪れるとも分からない、男の噴火に備えていた。
部屋の隅に控えていた者の一人が、ひそひそと隣の者に話しかけた。
「今日のゼスさん、いつにもまして不機嫌だな」
「そりゃそうだろう? 『紅雌虎』とやれるかもしれないっていうんで、南の争乱を蹴ってここまで来たんだ。なのに仕事が人質取って待機っていうんじゃ......」
「やべえよな? こんなに不機嫌なあの人も久しぶりじゃ......」
「ああ、根っからの戦闘狂だからな......」
部屋の中央にいる男---『鉄甲鬼』のゼスは確かにイラついていた。オールバックに野生を感じる顔立ち、浅黒く灼けた肌は、見るものを魅力的に感じさせる反面、開いた襟から見える大胸筋や引き締まった手足が、彼を戦えるものだと示していた。そして静かに酒を飲みながらも、鋭く獰猛に光る視線が、よりいっそう彼の野性味を引き立たせていた。
(やはり団長たちと一緒に行くべきだったか)
ゼスは「ちっ」と鋭く舌打ちをした。彼の周りの仲間の肩がびくっと跳ねる。
(まさか、こんなつまらねえ任務になるとは......いっそこの手勢で『鉄百合団』につっこむか? 王女の首を挙げりゃあ誰も文句言わねえだろう......)
ゼスがあまりにも物騒なことを考え始めたその時であった。団の格好をした者が部屋に入ってきて告げた。
「部隊長! 報告です! パバルの城に潜んでいた者たちからの連絡が途絶えました!」
「そうか......殺せ......」
「は......は?」
「聞こえなかったか? 殺せといったんだ」
「は......その......誰をでしょうか?」
「? 決まっているだろう? 公爵のレイアとかいうお嬢ちゃんだよ」
「し......しかし、彼女を弑逆すれば、公爵が向かってくるのでは?」
「だろうな......だが......」
ゼスはゆっくりと立って、伝令の男に近づいた。肩に手を回すように、伝令の首に腕をからめ、ぎりぎりと締め付ける。伝令の顔は段々と青ざめていった。
「ゼ......ゼス様......く......くるし......」
「いいか、よく聞け? 城に潜んでた奴らから連絡が途絶えたってことは、もうすでに捕まったか、やられたかだ。で、やったのは誰だ? 公爵か? まさか。あれだけ溺愛している愛娘だ。簡単には見捨てねえだろ? だったらやったやつらは他にいる。つまり......」
ゼスは伝令の首を持って、片手で体ごと持ち上げた。とんでもない膂力である。
「ぐ......ぐがっ......」
既に伝令は言葉を発することもできなくなっていた。
「つまり、王女殿下の軍の誰かがあの城に来てるってことだろうが!」
それから、ぶんっと腕を横に振るった。伝令の体はすっ飛んでいって、入り口近くの壁にたたきつけられた。伝令はすぐに立ち上がることができず、壁にうずくまっている。それをゼスはつまらなそうに見ていた。
「王女の軍はもうこっちに攻めてくるんだよ。こちらが気づいていることを悟られる前に、パバルの城を陥とす。公爵を捕虜にしたらそれを人質に公爵と王女殿下の軍を争わせて、俺らは勝って弱った方を踏み潰す。それでこの退屈な戦争は終わりだ。てめぇら、さっさと準備しろ。てめぇはさっさと地下に閉じ込めてあるお嬢ちゃんをやってこい」
「は......はいっ......」
冷徹かつ迅速な判断だった。それだけで、ゼスという男がただの戦闘狂ではないことを証明していた。哀れな伝令は、扉の外で待っていた仲間たちに肩を貸され、地下へと向かって行った。
ゼスはそれをつまらなそうに見ていた。
外でゼスに締め上げられた伝令は、ゼスの部屋から十分に離れたことを確認すると、盛大に毒づいた。
「くそっ! あの野郎、予想以上のいかれ野郎だぜ」
「大丈夫か。ラング」
「ああ、死にかけたぜ。だが、これでレイアってのの居場所がわかったな」
「無茶するな、まったく」
伝令の正体は、烈とラングであった。どこで手に入れたのか、『暁の鷲』の団服を着て、伝令のふりをして、砦の中を歩いていたのだ。そして、もう一人、ラングに肩を貸すものがいた。
「あとは頼んだぜ。ラフィ。お嬢様の顔を知っているのはお前だけだからな」
「はいはい~い。僕に任せて~」
二人と一緒に、謎の男が同行していた。
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