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追跡

 追手の二人は薄暗い通路を音もたてずに走っていく。


「もうすぐだな」


「あの野郎、舐めやがった礼はたっぷりしてやるぜ」


「やめておけ。俺たちの目的はあいつの背後を洗うことだ」


「んなもの、『紅雌虎』に決まってるじゃねえか」


「だろうな。だが、どこまで動いているかは探らねばならん。中途半端な報告はそれこそゼス様を怒らせかねん」


「ううっ。確かにな。あの人は味方にも容赦ねえからな」


「そういうことだ。見ろ。もうすぐ行き止まりだ」


 長い通路を抜けると、追手の二人は広間に出た。四方が高い壁に囲まれており、昼間になれば地元の子供たちの遊び場になっているのだろう。至る所におもちゃや隠れる場所が散見された。二人は慎重に辺りを見回した。


「おい! いねえぞ!」


「落ち着け。どこかに隠れる場所があるはずだ。探すぞ」


「くそっ! めんどくせえ!」


 二人はラングの気配を探しながら、隠れられそうな場所を見つけてはすすっと近づいた。


 探した範囲が半分くらいになったころだろうか。壁際に数個の木箱と、一本の木が立っている場所に近づいた。二人は木箱を蹴り飛ばして破壊し、木の周りをうろうろとしてみたが、人の姿形もなかった。


 ここも外れかと、二人のうちの騒がしいほうが何の気なしに木の上を見たのと同時だった。目を光らせて、獰猛に笑う男---ラングがひらりと猫のようひらりと木の上に舞い降りたかと思うと、そのまま追手の一人はばさりと袈裟懸けに斬られた。


「ぐあっ!」


「ちぃっ!!?」


 騒がしい男の断末魔にすぐさま反応した冷静な方の男が、剣を抜き打ち気味に振りぬく。がきんっと鋼が打ち合う音がした。


「やるねえ。仲間のことは気にもせず、まずは俺に攻撃してくるかよ」


「戦場ではすぐ隣にいる仲間が次の瞬間に死んでいるなんてことはよくあることだ。いちいち気にしていたら次は自分だ」


「へぇ? いい根性しているなあんた」


 鍔迫り合いの中で、駆け引きをしていた二人は、示し合わせたかのように、互いにばっと離れて仕切り直した。二人は剣を構えて正対する。


「『暁の鷲』のゼスね......確か『鉄甲鬼』だったか?」


「貴様......」


 男がぎりっと唇を噛む。


「聞かれていたのでは仕方ない。必ずここで死んでもらおう」


「やだな~痛いのは。代わってくれよ?」


「ほざけ!」


 男はだっと剣を振りかぶったまま、ラングへと突撃した。


「きえぇええぇぇ!」


 嬌声が夜の静寂を断ち切る。大上段の一撃がラングの頭上目掛けて振り落とされた。


「おっと♪」


 ラングはそれを余裕綽々といった様子でかわした。


「ぐえっ!!?」


 その瞬間、男から苦悶の声が漏れた。男は前かがみになり、胸を抑える。男の鳩尾からポロリと、何かが落ちた。どうやら目にも止まらぬ速度で、ラングが何かを指ではじいて、男に放ったようであった。


 男は自分の呼吸を詰まらせたものを凝視した。それは鈍色に光る、鉄の玉のようなものだった。烈が見たら、「まるでパチンコ玉みたいだ」といったかもしれない。その正体に気付いた男は驚愕の表情でラングを見た。


「これは!? 貴様まさか......」


 だが、その続きを言うことは叶わなかった。ラングの剣がばさりと男を切り裂き、その命を死神の如く確実に奪っていった。


「ふぅ。やれやれ......」


 ラングは一仕事終えたかのような表情で、物言わぬ死体を見つめ、それから死体の服で剣を拭った。


「悪いな。血をつけたままだと嫌われそうなんでな」


 「さ~て」と言って、ラングは逃げてきた道を戻った。その先には彼が最初に気絶させて男が倒れ伏していた。その男を見て、ラングはまたもにやりと、今度は凶悪に笑った。

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