鉄百合団
軍馬の嘶く声と、騎士たちの敵を打ち倒さんとする咆哮が聞こえてくる。不意を突かれた敵兵はなすすべなく薙ぎ払われていった。
「落ち着け! 体制を立て直して迎え撃つんだ!」
後方からマイコンの声が聞こえてくる。どこにでも忠臣はいるものだ。この期に及んでなお、主に忠誠を示そうというのであろう。
「あれなるは、ペルセウスに魂を売り飛ばした外道なり。全員ひっ捕らえろ!」
先頭にいた男がゴードウィン男爵に剣の切っ先を向けて叫んだ。その声を受けて、烈たちの後方から「ひぃっ!?」と彼の情けない声が聞こえてくる。指示を出している先頭の男はどうやら、この軍団の指揮官らしい。弓兵隊を綺麗に平らげた騎士団は、その勢いのまま、烈たちを素通りして、ゴードウィン男爵の手勢に襲い掛かった。
「殿下! ご無事ですか!!?」
「クリスか!?」
「は!」
クリスと呼ばれた男は、近くで見るとおよそ騎士に見えない男だった。
(まるで、学者だな。艶やかな金髪に、騎士とは思えないほど綺麗な顔をしている。もしかしたら、ラングよりも細いんじゃないだろうか?)
烈の素直な感想だった。そのクリスは馬上から降りて膝まづき、感無量といった表情であった。
「まことに、お迎えに上がるのが遅れまして申し訳ありません!」
「いや、むしろ早かったくらいだ。流石、鉄百合団の団長だ」
「勿体なきお言葉。しっかりとお話しさせていただきたいのですが、今は有事。私は戦闘で指揮を執らせていただきたく」
「ならん!」
「殿下?」
クリスはぽかんとした顔をしていた。
「私が先頭だ」
ミアはにやりと笑った。その顔を見て、クリスも頭を垂れて微笑する。
「では、ご一緒に」
「うむ!」
そして、クリスはひらりと再び馬上の人となり、声を張り上げた。
「紅の虎が突撃するぞ! 鉄百合団よ! 続け!」
「うおおおお!」っと騎士たちが再び咆哮する。
「レツ? 急展開だが、どうする?」
「どうするって?」
「勝ち戦っぽいぜ? このまま見てるか?」
「まさか」
そう言って、烈も馬の向きを変える。
「やられっぱなしは趣味じゃない」
烈はぴたりと、ミアの横に馬の轡を並べた。クリスは烈を誰かと思い、ピクリと眉を傾げたが、戦の最中だと判断したのか、そのまま何も言わなかった。




