地将の本意
「いやはや、三柱陣の弱点を見事につかれたのう!」
ウルライヒ将軍はしてやられてと言わんばかりに、額をぴしゃりと叩いて笑った。
「個々人の力はタチバナ殿にどうしても劣りますからな。先ほどのように、個々に分断されて、各個撃破されてしまうとどうしても勝てませんな」
「そうじゃのう。やはり突出したものを作るのも必要かもしれんの」
「ではやはりあの者たちを?」
「ああ、委細任す。進めてくれ」
「承知いたしました」
何やら、ウルライヒ将軍とモラント副官とで幾つか話し合った後、将軍はおもむろに席を立って、烈たちに近づいてきた。
「いやあ、流石だな! レツ殿! 武術大会で優勝したその腕、しかと見させてもらった!」
「恐縮です。将軍の兵たちも強かったです。彼女がいなければ負けていたかもしれません」
そう言って、烈はルルを指し示す。ルルは顔を赤らめて、烈の後ろに隠れてしまった。それを見て、ウルライヒ将軍も呵々と笑った。
「いや、まさに! 『軍破弓』の実力もこの目で焼き付けさせていただきましたとも! それに......」
ウルライヒ将軍は横目でちらりとラングのことを見た。
「どうやら、実力を隠しているものもいそうですしな」
ラングは肩をすくめて、答えなかった。詮索無用ということだろう。そして将軍は「うおっほん!」と一つ咳ばらいをした。そして先ほどまでの好々爺とした表情は消え、武人の顔を露にして、烈に聞いた。
「それで、レツ殿。改めて尋ねましょう。あなた方はドイエベルンへ行き、何をしようというのでしょうか?」
「......」
「三剣を打ち破るほどの男、旧モニカ王国の王女、そして謎の男......これだけの面子が、内戦中の敵国に行くというのであれば、関所の責任者として聞かないわけにはいかんのですよ」
「......わかりません」
「わからないとな? 自分の行先ですぞ?」
「ええ、ただ呼ばれたから行くのです」
「誰に?」
「同朋にです。助けを求められたから行くのです」
「ただ、助けを求められたから? それは恩や義侠心からですか?」
「それもあります。でももっとも大きな理由は、彼女がそこに行くからです」
「ほう?」
「戦いの場に彼女が行くというのであれば、俺もただ隣に在り続ける。そうあろうと決めたから、そうするだけです」
「ふむ......お二方もそうなのですかな?」
ウルライヒ将軍はラングとルルを見た。
「私は! 奴隷から救ってくれた、レツさんに恩返しがしたくて!」
「俺は興味本位かね? 付いて行けば色々と面白そうなものが見えそうでさ」
二人の話を聞いて、ウルライヒ将軍は深く沈黙した。そして、徐々に肩を震わせ始めた。
「ぐわはっはっはっはっ!」
ウルライヒ将軍は笑った。天まで届こうかという大きな笑い声であった。そして、ひとしきり笑った後、涙を拭って言った。
「眩しいのぉ。これが若さよ。これが情熱よ。のうモラント」
「ですな。我々も放っておいては置いて行かれてしまいます」
「うむ、まさに! レツ殿」
「はい!」
「どうやら、儂に貴殿を止めることはできんようじゃ。門の責任者として、通行を許可する」
「!! ありがとうございます!」
烈は一礼した。門への通行許可だけでなく、言外に含まれた、将軍からの助言---このまま進め、という老練の戦士からの言葉に対してもであった。
烈たちはその後、しばし将軍たちと言葉を交わして、門へと向かった。近くにはミアが待っていた。
「終わったのか?」
「ああ、問題ない」
「そうか。なら行こう」
ミアはふっと笑って、烈たちを促した。
「将軍はどうだった?」
「なんというか、強い方だったな」
「だろうな。でなければ、この国最古参の将軍ではいられん」
「ミアはあの人と戦いたいのか?」
「......いや、あれは骨が折れそうだ。」
ミアは烈へ背中越しに言った。
「ただな、見てもらいたかったのよ。お前にこの国の'強さ'というものを」
そう言う、ミアの顔を烈はついぞ見ることはできなかった。




