裏の動き
烈たちを見送った後、ミアは何食わぬ顔でその場を離れた。ゆっくりと、気配を消して物陰に入ると、彼女の後ろから声を掛けるものがいた。
「お久しぶりです」
男の声だ。ミアは後ろを振りむかなかった。誰だか声を掛けずともわかっているようであった。
「キースか。この前のあれは何だ?」
ミアの後ろにいたのは、長身で細身の、赤毛の男---烈とともに武術大会の予選を勝ち抜いた男、キースが膝まずいていた。だが、今の彼に予選の時のような軽薄な雰囲気はなく、ただ職務を全うしようとする裏の気配のする人間のそれだった。
「あれと言いますと?」
その時、ミアはゆっくりと振り返った。怒気によって、目が爛々と輝いている。その眼光の強さだけで、何人か殺せそうだった。キースが緊張で身震いする。彼は慎重に言葉を選んで答えた。
「申し訳ありません。差し出がましいことをしました」
「そうだな。言いたいことがあるならはっきり言えばいい」
「では、僭越ながら。御身は大勝負を控えた大事な身、徒に側に素性の知れぬものを置くのはどうかと思いまする」
「......なるほどな。それで?」
「それで? とは?」
「お前がそんなことを気にする男ではないことは知っている。キースとしての言葉を言えと言っているのだ」
「......ははぁ。流石、誤魔化せませんねえ♪」
そういうキースの表情は、武術大会の時のそれであった。
「まあ、どんな奴か見てみようと思ったのは冗談じゃありませんよ? なんたってこの一年、供のものを頑なに拒んできたのに、急に二人も連れる気になったんですからね」
ミアもキースの雰囲気が柔らかくなったのを機に、相好を崩した。
「まあ、色々あってな。タイミングというやつさ」
「ははぁ。ま、あのラングという男を取り込んだのはすぐにわかりますがね? レツは謎だったんですよ」
「どう思った?」
「レツのことです?」
「ああ」
「そうですね、どことなく貴方に似ているかと」
そう言って、ミアはにんまりと笑った。まるで悪戯が成功した子供みたいである。
「お前もそう思うなら、私の人を見る目は確かだな」
「なるほど......まあ、そこは置いておいて、本題に入らせてもらいます♪」
「うむ、で? どうだ?」
「はい、ハイデッカー公、ロンベルク伯、マヌア候を始めとした方々は殆どが軟禁状態で連絡も取れないです。また、東西南北の主要拠点の要人たちの殆ども抑えられ、動きが取れない状態です」
「ルードブルクはどうだ?」
その質問にキースはにやりと笑った。
「相も変わらずです。どうにか首都の要請を、のらりくらりとかわしていますよ♪」
「ふっ、流石だな。キース」
「はい」
「皆に伝えろ。近日中に反撃の狼煙をあげるとな」
「かしこまりました♪ 団員一同、今か今かと舌なめずりをしながら待っていますよ♪」
「ああ、楽しみにしていろ」
鮮烈なミアの笑みに対して、キースはぺこりとお辞儀をすると、静かにミアとは逆の方向へ去っていった。
それを見ながらミアは、遠くドイエベルンの首都、ベルンに思いを馳せた。
「待っていろ、兄上。もうすぐだ」
ミアはまた、猛獣のような、戦士の笑みを浮かべていた。




