地将
「がっはっはっは! いやぁ~噂に聞いてはいたが、中々どうして、大した御仁じゃないか? のうモラント!」
目の前の老人が豪快に笑いながら、烈の肩を叩く。
(禿頭に白い口髭。よく鍛えられた体としゃがれた声が、この人の戦歴を物語るかのようだな)
烈が目の前の老人をしげしげと眺めていると、隣にいた幾分か若めの---それでも40代くらいの男が口を開いた。
「はっ! まさしく! 『剣姫』殿を倒したという腕前に嘘偽りなきかと!」
「うむうむ。いやまさしく大したものじゃわい!」
そして、またがっはっはっと笑う。
(気持ちのいい人だな)
少し暑苦しい所もあるが、何となく烈は老人に好印象を持っていた。
「さて、レツ・タチバナ......」
急に老人の雰囲気が真剣な表情になった。その空気の差に、両隣にいたラングとルルは身構える。
「実はお主の腕を見込んで頼みがあるんだが......」
老人の異様な雰囲気に、ルルがごくりと喉を鳴らした。
「......脱いでくれんか?」
「......はい?」
烈の目が点になる。自分が何を言われているのか分からなかった。
「伝え方がよくなかったか? 服を脱いでくれと言ったのだが」
「いや、むしろ間違えであってほしいのですが......」
烈の背中に冷や汗が落ちる。
(まさか、この世界では普通なのか!? いや? ラングもルルも引いている......どうすればいいんだ?)
「将軍! 皆様、誤解されているようです!」
烈たちが困っていると、隣の副官---モラントが助け舟を出してくれた。
「皆様、誤解なきよう。将軍はその人物の体つきを見れば、ある程度の実力がわかる能力の持ち主なのです」
「あ~なるほど? しかし、このような所で脱ぐのは少々恥ずかしいのですが......」
「ならばワシの寝所で脱ぐか?」
「本当にそのような趣味はないんですよね!?」
烈の悲鳴にも、モラントは落ち着いてと、手をどうどうとなだめるように動かす。
「冗談じゃ。だが、お主の実力を見せてもらいたいのは本当じゃぞ?」
「ですが待たせているものもおりますので......」
烈が困った声をあげるも、将軍---『地将』ダミアン・ザック・ウルライヒも退く様子はなかった。
(どうしてこうなったのか.....)
烈は思わず天を見た。そもそもこうなった経緯は烈たちがエトワール門の検問に入ったからであった。
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「お~でかいな~」
烈は見上げて声を出した。エトワール門は遠くから見ても目立っていたが、近くで見るとさらに大きい。
「上にも兵士が配置されているはずなのに、全然見えないな」
「早くしないと、おいていくぞ?」
「待ってくれミア」
「ははっ。こういうものはあまり見たことないか?」
「こういうのって?」
「防御施設さ。ずいぶん物珍しそうにみているからな」
「これより大きい建物なら見たことあるさ。だが、兵士がいる分、物々しい雰囲気は珍しいかもな」
「兵士がいる分,,,,,,か......レツの国は平和なんだな」
「ん? まあ、どうなのかな? そう見えているだけで本当のところは分からなかったのかしれないし」
「ふむ、確かにな。上から見るのと、下から見るのでは見えるものも違うか」
「なんのお話をしているのですか?」
ルルが烈たちのところへ近づいてきた。
「手続きは終わったのか? ルル」
「いいえ、ミア。ラングがやってくれていたのですが、どうやら何か起こったようです」
「何か?」
みんながラングの方を見ると、そこには検問の受付の前で待ちぼうけを食らわされている、ラングがいた。
「どうしたんだ?」
烈たちがラングの方へ近づいて聞いた。
「ああ、レツか。シバ将軍の紹介状を見せたんだが、ここで待っていてくれと言われてしまってな。すんなり通してくれりゃいいのに」
ラングは口をとがらせて不満そうであった。
「あ、あの......」
すると、いつの間にか、受付の兵士がこちらに近づいてきていた。どことなく緊張した様子であった。
「レツ・タチバナ殿はいらっしゃいますか?」
「レツ・タチバナは俺です。何かありましたか?」
「は! マルサの武術大会でのご有名は伺っております! ぜひウルライヒ将軍がお会いしたいとのことです」
烈たちは顔を見合わせた。まさかつい先日の大会の結果がもうここまで知られているとは思わなかった。
「会った方がいいのか?」
烈がラングに聞くと、ラングは肩をすくめた。
「一国の将軍の誘いを無下にするのもよくないだろ。会うだけ会ってみてもいいんじゃないか?」
「なるほど。ミア、少し時間をもらうけどいいか?」
「ああ、構わん。会ってくるといい。私はここで待ってるよ」
「ミアは来ないのか?」
「来てほしいのか?」
「いや、それは......」
「まあ、将軍が会いたがっているのはお前なんだ。私はその辺で休憩でもしているさ」
「まあ、烈! 寂しいのは分かるが、ここは三人で行こうぜ!」
「お.....おう? わかった......」
そういって、兵士に案内されるまま、烈とルルはラングに腕を引かれて、将軍に会いに行ったのであった。烈が振り返ると、ミアが少し険しい顔をしていたような気がした。




