新しき仲間
明朝、烈たちはすぐに旅支度を整えた。目的地が決まった以上、彼らの行動は迅速だった。
「ったくよぉ。二人とも。もう少しゆっくりして行ってもいいんじゃないか?」
唯一未練たらたらだったのはラングだ。
「どうやら、烈と仲間だということで、昨日は色々といいことがあったようじゃないか?」
ミアがからかうと、ラングはすました顔で答えた。
「まあ、何事もとっかかりってのは必要だからな。ただその先は俺の魅力だぜ?」
「よく言う。烈の武勇伝をあることないこと吹聴していたのを聞いたぞ?」
「......ないことはやめてくれ......」
烈はげっそりとした。これから何をするのかはわからないが、情報がない以上、あまり無駄に有名にはなりたくなかったのだ。
「悪い悪い」
ラングが手を合わせて、烈に謝罪する。烈はため息をついた。
「あの!」
荷造りを終えて、さていざ行かんとしていると、三人に幾分か緊張しながら声をかけるものがいた。
「君は......」
烈が振り向くと、そこには弓を持った褐色の少女---旧モニカ王国の王女、ルルが立っていた。いつの間にか、昨日の奴隷たち、もといかつての親衛隊も後ろに続いている。
「ありがとうございました!!」
ルルが烈たちに頭を下げると、後ろにいたダストンたちを始めとする奴隷たちも頭を下げた。
「よかった。ちゃんと解放されたんだな」
「はい! レツさんには感謝しきれてもしきれません! まさか、賞金までくれるなんて......」
「へぇ? 烈はそんなことまでしてたのか?」
ラングは感心したように言った。よく見ると、闘技場にいたころと比べて、ルルは小奇麗な格好をしているし、他の奴隷たちも一応の衣類と装備一式は整えていた。
「ああ、奴隷から解放されたといっても、先立つものもあるだろうからな」
「へぇ。やっぱりお前は変わってるよ」
ラングの言葉に烈は肩をすくめるにとどめた。
「本来であるならこのような施しはいらんというべきなのだがな......」
ダストンが一歩進みで出た。
「誇りを傷つけたか?」
「いや、レツがそのようなくだらぬことをする人間ではないことはわかっている。ただただ我らが不甲斐ないのよ」
「そんなことはない」
ミアはダストンたちを見た。
「お前たちがルルを守っていたんだ。お前たちがいなければ、ルルは奴隷よりも、さらにひどい扱いを受けていたかもしれない」
「......そう思うか?」
「ああ、敗戦国の要人だとな......」
「であるならば、少しは報われたということだろうか......国王陛下を守れなかった我らが罪も......」
辺りに重い空気が立ち込めていた。烈もミアも彼らの思いを推し量っても、当事者である彼らに掛ける言葉は見つからなかった。
「そういや、あんたらわざわざ見送りのために来てくれたのか?」
ラングがその場の空気を変えるように話題を変えた。
「違います!」
その問いにルルが、答える。ルルはミアと烈の前に進み出て言った。
「私を! あなたたちと同行させてください!!」
烈とミアは顔を見合わせた。ミアが向き直ってルルと話す。
「今回のことは、レツの信念に従って行ったことだ。私が言うのもなんだが、亡国の姫君を連れまわすほどのことはしていないぞ?」
ミアの言葉にルルは首を振った。
「いいえ。私たちモニカ王国の人間は受けた恩をないがしろにするつもりはありません。あなた方は、滅びゆくモニカ王国の歴史すら救っていただいたのです」
「だが、流石に姫一人というわけにはいかんだろう。ダストン殿も反対なさるだろう?」
しかし救いを求めるミアの懇願は、ダストンにあっけなく却下されることになった。
「いいえ、姫様のいう通りです。あなた方は我らだけでなく、モニカ王国そのものを救ってくださった。このご恩に報いんとするなら、我らができることは、姫様にご助力いただくほかありません」
「......ここまで守ってきた王女を一人で向かわせる? 何か裏の狙いがあるな?」
ミアの目線がダストンを突き刺す。有無を言わさない強烈な意志は、ダストンすら後ずさりさせるものだった。冷や汗を垂らしながら、ダストンは降参した。
「......申し訳ございません。実は姫を守っていただきたいのです」
「守る? お前らで守ればいいだろう?」
「常ならばその通りです。しかし、今回我々は自由の身分を得、安住の地を探そうという身です。バリ王国から見れば、いつ反乱の火種となってもおかしくありません。だからこそ、我々以外でもっとも信用のおける、レツにお預けしたいのです」
「それで私たちに何の利がある。ただただ危険にさらされるだけではないか」
「......でしたら一つお約束させていただきます」
「ふむ?」
「この先、ミア殿とレツ殿の身に何か起こる兆しが見えたならば、モニカ王国の全てであなた方にご協力させていただきます」
「......なるほど、我らのバックに滅びたとはいえ、国が付くわけか」
「左様です」
「そんなことをただの近衛騎士団の団長であるお前が決めてしまっていいのか?」
「構いません。私以上の高官はすべて弑逆されてしまいましたから......」
「ふむ、であるならばレツ。お前はどうだ?」
急に話を振られて、烈は会話に戸惑った。周りの人間がこちらへ様々な思いを打ち明けて、烈に最終判断をくだす権を与えさせるのは、中々酷なことであった。
烈はラングやダストンたちを見て、泣きそうなルルを見て、最後に「早く答えろ」と言わんばかりに睨みつけるミアの姿を見た。烈はしばし逡巡したが、最後は己の心のうちに従って決めることにした。
「わかった、ルル。これからよろしく頼むよ」
「はい!!」
ルルはようやく年相応の娘らしく、満面の笑みで頷いた。烈はこの顔が見れただけでも、武術大会に出た意味はあったなと、感じたのであった。




