二回戦
既に二回戦の始めの鐘は号令はかかっていた。烈の二回戦の相手が目の前に立っている。
(まだ若い、20代くらいか? 背丈は平均男性のそれだ。 髪が白いせいでかなり年齢が上に見えるな。ここまで来た以上、凄腕なんだろうが、眼鏡をかけているせいか、兵士というより学士に見える)
その男は、明らかに不機嫌そうな表情だった。
「王国軍第三軍の副将を務めるパウロ・リージョだ」
「レツ・タチバナ。戦士だ。よろしく」
「うむ......試合前に、貴殿に幾つか言っておきたいことがある」
「はぁ......」
烈は気のない返事をする。
(俺からは特にないんだが......)
それが気に入らないのか、パウロは眉をピクリと動かした。
「まず、練習場での我らの非は謝罪しよう。あまりにも横暴であった」
「へぇ?」
「だが、予選中に将軍へ侮蔑の言葉を投げたのは謝罪してもらいたい。将軍は軍だけでなく、王国の英雄なのだ」
「あんたに謝ればいいのか?」
「いや、会場中の皆に宣言してもらいたい」
「......」
会場から、「そうだ! 謝れ!」とどこからともなくヤジが飛ぶ。
(どうやら、予選の戦い方で少なからず、敵を増やしてしまったみたいだな)
「どうした? できないか?」
「,,,,,,いや、それはいいんだが......だったらどうして昨日の彼らに、グッチたちは謝りに来ないんだ?」
「......」
「本当にそう思うのなら、当人たちがちゃんと来るべきじゃないか?」
「......」
「あんた、本当は悪いと思ってないだろ?」
「ちっ!」
突然、パウロは斬りかかってきた。烈は予想していたかのように、慌てずその剣を受け止める。突然、始まった試合に、観客は戸惑いながらも歓声を浴びせさせた。
そして、鍔迫り合いの状態でパウロは小声で烈に話しかけてきた。先ほどまでの知的な表情は消え、明らかに性格の悪そうな顔だ。
「我らが謝る? 奴隷にか? 馬鹿か貴様。将軍に頭を下げさせたこと自体、業腹物だというのに」
「あ~やっぱりあんたもそうなんだな」
「ふん。当たり前だ。くだらないことを言わせないでもらおう!」
ばっと、お互いが示し合わせたように離れる。そのまま、すぐに動いたのはパウロの方だった。
「はああぁぁぁぁ!!」
凄まじい数の連撃が右から左から烈を襲う。
「流石は、軍の幹部の剣だ。グッチやダストンの方が力はあるが、その分、手数が違う」
「お喋りしている暇があるのか!!」
一定のリズムで襲ってきた連撃が、途中でペースを変える。
(なるほど、そこに駆け引きを持つタイプか)
しかし、烈は動揺するそぶりも見せずに、その連撃を打ち払っていく。
「くっ!? こいつ!」
どれだけ手数を増やしても、どれだけペースを変えても、パウロは烈の鉄壁の防御を破ることができない。
「強いねぇ~、レツは。あの副官が子ども扱いか」
「ただ、実力差があるだけじゃないさ」
ラングとミアが腕組みをしながら、にやにやと笑って答える。
「というと?」
「予選の時もそうだったが、わざと挑発的な物言いをする。あれで少しでも判断力を失わせているんだろう」
「ははっ! 俺もよく使うよ。だが、あのレツがそんな駆け引きを使うなんて意外だな」
「あいつはその辺は強かだ。中々どうして......」
「ん?」
「いや、勝つために必要なことは心得ているということさ。無論、自分の流儀の中でな」
「なるほどね......歪だな」
「かもしれん。だが強い」
「ミアとどっちが?」
「さてな。合戦場なら私が。ただ、一対一だとどうかな?」
「有望だねえ......そんなの引き連れてどうするんだい?」
「何のことだ?」
「とぼけるのが上手なこと」
「ふっ......」
二人は薄く笑って目の前の試合を見届ける。既に終盤になっていることは明らかだった。
「くそっ!」
パウロはすべての攻め手を出し尽くしていた。肩で息もしている。少し強引な突きをするしかなかった。
「ふっ!」
烈は落ち着いて、それを受け流した。
「ぐおっ!!?」
パウロの体が前方へと流れる。烈は流れるように体の中心を軸に、独楽のように一回転した。そしてその流れのまま、パウロの首筋へと一撃を叩きこむ。
「ぐっ......」
パウロは苦悶の声を上げたまま、地面へと倒れ伏した。そしてそのまま動けなくなってしまった。
「勝者! レツ・タチバナ!」
係官が勝者の名前を高らかに叫ぶ。観客たちは歓声と、罵声を一斉に浴びせ、烈はそれを背中で受けながら控室に戻っていった。
控室で烈は「ふうっ」とため息をつく。余裕の勝利に見えたが決してそうではない。
(パウロの実力は本物だった。あんな相手が普通にいるのがこの世界か......)
烈は目を閉じる。
(殺しが日常の世界......慣れていかなければいけないのかな......)
しばらく思案していると、烈の耳に歓声が聞こえてくる。
(どうやら、準決勝の出場者が出そろったようだな)
烈は心を整える。
(たとえあの将軍であろうと、彼女であろうと、どんな相手でも今日俺がやることはかわらない)
烈の脳裏に昨日のミアの目と言葉とが蘇る。それが烈の羅針盤になっていた。
「レツ・タチバナ! 出番だ!」
管理官が烈を呼び出した。烈はゆっくりと立って。闘技場に向かう。烈が闘技場の入口へと近づくと、次の対戦相手が見えた。
烈は覚悟を決めて、徐々に近づいていく。小柄だ。褐色の肌に少し怯えた目、だがその目には仲間たちの自由を勝ち取るための強い意志が見え隠れしている。
(昨日ラングから聞いていたが、やはりな)
烈はある種納得していた。
(やはりな。練習場で見たときから頭一つ抜けていることはわかっていた......)
自然と構える烈の目の前には奴隷の少女---ルルが弓を携えて、こちらを見据えていた。




