目覚め
「ううっ.....」
少年の.....立花烈の意識を覚醒させたのは、壁から染み出る陽光であった。烈は重そうに瞼を開け、未だにぼーっとする頭で辺りを見回した。
「ここは? どこだ?」
烈はゆっくりと身体を起こした。そして自分の状況を理解しようと試みる。
「手や足は.....あるな。何か身ぐるみを剥がされたわけでもない.....」
身体をぱんぱんと叩くと、烈の鍛えられ、引き締まった体躯から、小気味よいリズムが返ってくる。烈はまた時間をかけて立ち上がり、辺りを見回した。
「随分と変なところだな。石畳に石の天井か...コケだの雑草だのが生えてるところを見ると、人は住んでいなさそうだが.....」
幸い壁の隙間から光が漏れているおかげで、ここが何かの部屋だということは分かった。だがそれ以上のことは物が無さすぎて分からない。
烈がふと正面を向くと、長い廊下が続いており、奥から大きく光が差し込んでいるのがわかる。
「あそこが出口か?」
烈は光へ向かって歩き出した。
(おっとっと。流石に廊下は薄暗いな。よく目をこらさなと足が引っかかってしまう)
烈は慎重な足取りで廊下を歩いた。彼の鋭敏な視力や聴力をもってしても、その廊下を踏破するのは苦労した。
ようやく廊下を抜け出し、光の向こう側へと烈が身を乗り出すと、目の前には清浄な空気があふれる森林が広がっていた。時々、小鳥のさえずりが聞こえる。普段、都会の喧騒の中で暮らす烈にとって、それは心地よく新鮮なものであった......普段であったならばだが......
今の烈にとってはそれすらも、現状を把握するための無機物的な情報でしかなく、彼の心を明るくするものとはならなかった。
「これは......何かの遺跡か? しかし、それにしては......昔、授業で習った古代のどの遺跡とも趣が異なるような? むしろ、まるで西洋や南米の遺跡みたいだな......」
烈は独り言ちる。目を覚ましたら外国にいたなどぞっとしない話だが、それにしても自分が暮らしている国のものと目の前の遺跡はかけ離れているように感じた。
「ん? 何か聞こえるな。 あっちか?」
烈はそう言って、森林の奥を見据えた。微かにだが何やら動物や人が騒ぐ声が聞こえる。これ幸いと、烈は音の方へと歩き出した。