練習場
翌日、朝食を食べ終えた三人は闘技場の近くにあるという練習場へと向かった。流石に武術大会を控えてるだけあり、多くの人が自身の最終チェックに来ている。
特に目に付くのは同じ鎧、同じ格好で統一された面々である。
「ラング。あれが、例の第三軍か?」
「ああ、そうっぽいな。レツはどう見る?」
「どうって?」
「勝てそうかどうかって話さ」
「そうだな......」
烈がざっと、誰にも気づかれないように辺りを見回した。
「強いのはちらほらいるな。その第三軍にも、一般の方にも。ただ、ミアやラングほど使えるのはいないような気がする」
「おいおい。俺はお前らに剣の腕なんか見せたことないはずだぜ?」
「でも。相当使えるだろう?」
「......参ったな.......」
ラングは苦笑しながら、後ろ頭をポリポリと掻いた。それを横目にミアはふっと笑う。そのミアの目に止まったものたちがいた。
「あの辺は......奴隷か.......」
「え?」
烈がばっとミアと同じ方向を向く。
(あれが......みんな第三軍の人と違って、どことなく汚れているな......それに、肩身が狭そうだ。他の人たちが好きに練習をしているのに、奴隷の人たちは隅にいるだけか......)
「あの連中、明日の大会で優勝すれば、晴れて自由の身らしいぜ?」
「そうなのか?」
烈がラングに聞いた。
「ああ、数こそ少ないが、奴隷の中でも選りすぐりの連中らしい」
「確かに、他の参加者と比べても見劣りしないな」
「そういうこと。普段から一日何戦もしてる連中だからな」
あまりじろじろ見てはいけないと、烈が視線をそらそうとしたその時であった。
「いてえな! 何ぶつかってんだ?」
誰かの怒号が彼らの耳に飛び込んできた。三人は何事かと声の方を振り向く。そこには鎧姿、第三軍の兵であろう男が、腕を抑えて、何やら目の前の人を睨んでいた。その男の目の前には少女がいた。
「あ...あの......」
「奴隷の分際でわざわざ俺の鎧に傷をつけやがったな?」
「私、避けて......ぶつかってきたのはそっちじゃ......」
「ああん? 聞こえねえな? なっていったんだ? こら」
(浅黒い......褐色の肌に、ぼろの着物。腕に抱えるように持っているのは弓か? 可哀そうに怯え切っている)
「どうやら、男の腕に少女がぶつかったらしいな」
ミアが冷静に状況を分析していた。
「情けないねえ。鎧に生身の少女がぶつかったからなんだってんだ?」
ラングが困ったように嘆息する。
「それに、男どもの後ろで囃し立てている連中。はっきり言って、不快だな」
「そうだねえ。からかってやろうぐらいの気持ちなんだろうが。ちょっと恥ずかしいな」
「まあ、だが危害を加える気はないのだろう。あれならば放っておいても......あ......」
「ん? どうし......あ......」
二人が気づいたときには遅かった。男の腕が怯えて涙目の少女に伸びたその時であった。
「やめろ」
横から男の腕をがっと掴むものがいた。烈だ。鋭い目線で男とその背後にいる連中をけん制している。
「なんだ? てめえ」
「恥ずかしくないのか?」
「何い?」
「こんな小さな女の子を大の大人の男が寄ってたかって......恥を知れ」
「うるせえ!」
男はばっと烈の手を振り払う。
「奴隷のガキがぶつかってきたんだ。明日の俺の大会に支障が出たらどうする?」
「知るかよそんなこと」
「なにい?」
男は烈にメンチを切る。鼻と鼻がくっつきそうなくらいまで近づき、睨みつけた。
「俺は泣く子も黙る第三軍第二師団第四大隊所属のグッチ様だぞ?」
「誰だよ。ほぼ下っ端じゃないか」
「てめえ、いい度胸じゃないか」
下っ端と言われて、鎧の男---グッチが切れた。取り巻きたちもにやにやと笑ってみている。
「事実だろう? 弱いから、自分より弱そうなものに吠えるんだ」
「おもしれえ。抜けよ。腰のものは飾りじゃないんだろう?」
そう言いながらグッチも腰の剣を抜く。流石に正規軍所属だからか、よく磨かれた剣の白刃が、陽光を反射してギラリと光っていた。




