星降る夜に
「ふふっ」
満点の星々が降り注ぐ夜に、ある城の一部屋で、中央の豪奢な椅子に座り、一人楽しそうに嗤うものがいた。顔は陰になって見えないが、かなり若い。恐らく少女と言って差し支えないだろう
「どうかされましたか?」
いつの間にか、そのものの傍らに、付き添うように初老の男性が立っている。しかし、二人とも只者ではない雰囲気を放っていた。明らかに、使える人種である。
「いや? ちょっと面白い報告がな」
「ほう? 見せていただいても?」
「ああ、好きに読むといい」
初老の男性は1通の手紙を渡されると、素早く目を通した。
「なるほど......すぐにシウバ伯には令状と軍を差し向けましょう」
「ああ、そうするといい」
少女は、そちらには興味がないといわんばかりに手をひらひらとさせる。
「そして......このミアという女性......まさか......」
「十中八九そうであろうな? まさかこのような所まで流れ着いているとは......」
「いかがいたしますか?」
「いかがも何も......放っておけばいい」
「しかし、何をするかわかりませんぞ?」
「この国でできることなぞほとんどないさ。せいぜい国境辺りでうろちょろする程度であろう」
「油断ではないですかな? 彼の者はあの......」
初老の男性はそれ以上言わなかった。嗤う人が人差し指を口に当て、しーっとジェスチャーをする。それ以上言うなという意味だった。
「下手な芝居はやめようじゃないか。もう刺客を差し向けたんだろう? それで返り討ちにあったと」
「......」
「少数の刺客で獲れるほど甘い相手ではないさ。あれは戦場でしか死ねない類のものだ。やるならば表ではないと」
「しかし、彼の者の身柄を抑えればそれだけで交渉のカードとなり得るかと......」
「無理さ。我らが隣人は愚鈍な男だ。戦場の猪に道理を説いても徒労に終わるだろう」
「ならば、こちらの大義名分として......」
「それも無理だ。虜囚の身となるくらいならばためらわず死を選ぶであろう。誇り高き、しかし怒れる獅子にはさっさと退場してもらわねばな。我らとてそこにかまけている暇はない」
「......かしこまりました」
「そうむくれるな。既に手は打ってある」
「はは! では私めは例の件がありますので。この辺で」
「ああ、王の護衛だったか。まあ適当にな」
「また、そのような......」
「今回、万が一は起こらない。ゆえに気にするまでもない。まあ休暇だと思って、ゆっくりしてきてくれ」
はあ、と一つ、ため息をついて、初老の男性はそれっきり気配を消した。嗤う人は先ほど渡した手紙を再度手に取って、内容を読み返した。
(ミア・キャンベルとレツ・タチバナなるものがシウバ伯の子飼いを打ち倒した。ミア・キャンベルについては件のものと思われる。レツについては不明。だが相当な剣の使い手であり、何者かの息のかかったものの可能性もある)
「ははっ。さて、紅い猛虎殿とそのお供はどう楽しませてくれるのかな? それとも......」
そう言って、また嗤い始めた。おもちゃを与えられた子供のように。




