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交差する疑惑

 烈がアイネに連れていかれるのを見届けたラングはすっかり出来上がったコースに絡まれていた。女性ならともかく、小太りの金髪男に絡まれるなどたまったものではない。ラングは露骨にため息をついていた。


「どうしたんですか、ラングの兄貴! もっと飲んでくださいよ!」


 陽気なコースにはぁっともう一度ラングがため息をついた。


「なんなんだ。その『兄貴』ってのは」


「いやね。兄貴。俺は惚れたんですわ。あの剣捌き! 颯爽と俺を助けてくれたあの身のこなし! そして強敵に対してのクールさ。いやぁ~痺れましたね~」


「......なんでもいいけどよお前。このままカイエン公爵に付いていくのか? それなりに武功があった扱いになったんだろ?」


「いや~そうしたいのは山々なんっすけどね~。いい加減うちの上司が戻って来いっていうんですよ」


「お前の上司ってのは誰なんだよ?」


「ままま。そんなつまんない話いいじゃないっすか~。ただのその辺の地方領主ですよ。それより『兄貴』の武勇伝聞かせてくださいよ~。あのゲルパって以外にも色々倒してきたんじゃないですか?」


「ねえよそんなもん」


「いや~俺は聞いてましたよ? この耳で。ゲルパに似た匂いがするとかなんとか? もしかして兄貴、闇の住人だったり? もしかしてアサシンとか? ここだけの話でいいんでちょろっと伝説とか教えてくださいよ」


 ラングの視線がすっと冷たくなった。


「仮にそうだったとしても、言うわきゃねえだろ? お前も工作員ならそれくらいわかるだろ?」


「......いつから気付いてたんですか?」


 ラングの言葉に今度はコースが先ほどまでの陽気な気配をなくした。ラングはそれでいくらか溜飲が下がったのかふっと笑った。


「ば~か。最初からに決まってんだろ。気絶した振りまでしやがって」


 ラングの言葉にコースはぽりぽりと後ろ頭を掻いた。


「参りましたね。どうやら俺より数段上みたいだ」


「まあな。お前、そっちは本職じゃねえんだろ?」


「そこまで気付かれてましたか......察しの通り、俺は元来騎士です。工作員(これ)はまあ、副業みたいなもんでして......」


「副業であれだけ自然にふるまえるなら大したもんだ」


「自然っていえばいいのか......まあうちの大将の意向ですわ」


「意向?」


「ええ、騎士がいらない時代が来たときに何でもできるようになっとけってね。側近連中はみんな各地に飛ばされてます」


「こえ~大将だな。この時代に騎士が要らなくなった時のことを考えてるのかよ」


「ええまあ、頭のいい男で。おっとしゃべりすぎましたかね?」


「ああ、工作員失格だ」


「なら今のは全部忘れてください。で? 実際のところ兄貴はこの国に何しに来たんで?」


「なにしに来たと思う?」


「そりゃ、殿下の暗殺とかですか?」


「じゃあそれかもな」


「おっかねえ人だ」


「もういいか? 腹の中探られるのは好きじゃねえ」


「じゃあ最後にもう一つ」


「あん?」


「仲間のこと好きですか?」


 ラングは露骨に嫌そうな顔をした。そして、何も言わずコースに背を向けてどこかに行ってしまった。コースはその背中を感情の読めない顔でじっと見守っていた。

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