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大剣の錆落とし

 ミアの元には100名の雷迅衆が集められた。ドイエベルン王国最強の部隊である雷迅衆の中でも、さらに武力に秀でたものたちが今この場に集まり、ミアの命令を待っていた。先頭にはミントレアもいる。


(生半可な覚悟ではいかんな。師匠並みの覇気を見せつけねば)


 ミアはその達人たちの視線を一身に受け止めて、そして腹の中に落とした。ふーっと一つ息を飲み込む。そして、かっと目を見開いた。


「聞け! 雷迅衆の精鋭たちよ!」


 ミアの声が味方の陣営にバリバリと雷鳴のように響き渡る。並の兵士であればそれだけで拳を握り固めてしまいそうな大音声であった。


「諸君らはかつてドイエベルン王国で最強ともてはやされたものたちだ! その武勲の伝説は枚挙にいとまがない! 諸君らが来るというだけで裸足で逃げ出すものがおったほどだ。それが今ではどうだ!」


 話の展開に雷神衆はざわつきだした。


「雷迅衆の名前を恐れるものは少なくなり、戦えば勝てるかも思う人間が出始めた。伝説を過去のものだと考える輩が出始めたのだ! あれを見ろ!」


 ミアがばっと敵陣で突撃を繰り返すバウワーを指差した。


「あの分不相応にも近衛総司令などという役職を手にした男は、次に雷迅衆とそれを率いる『雷鳴戦鬼』の首級が欲しいらしい。たかだが三倍の兵力差でそれができると思っている! 仲間がやられ、裸の王様になったにもかかわらず、まだ私たちの首が取れると思っているのがいい証拠だ。端的に言おう。()()()()()()()のだ諸君らは!」


 ミアの激に熱がこもり、雷迅衆の目は明らかに怒りを伴うものになってきた。


「私は許せない! 誇りある我が国の最強戦力があの程度の、戦略もわからぬ豚に見下されるなど! 諸君らも悔しいだろ! 怒りがこみあげて来るだろう! ならば私に続け!」


 ミアが大剣を頭上に掲げ、そして剣先をバウワーに向けて振り下ろした。


「雷迅衆が健在であると世に知らしめよう! 最強であるとわからせてやろう! 私は勝手にやる! 諸君らに誇りがあるのならば私について来い!」


 「おおおっ!」っと雷迅衆はミアの激に乗り、声をあげた。たった百人の声が万の戦場全体に響き渡るような気合の声だった。


 その声と共にミアと雷迅衆が突撃した。味方は道を開け、敵はその突撃をまともに食らった。


 少しづつ乱されていた前線はそれで完全に決壊した。ミアたちはバウワーの陣営をバターのように簡単に切り裂いていく。中でも圧巻だったのは先頭に立つミアであった。


「どけえ! 死にたくなければ道を開けろ! 我が目的はバウワーただ一人! その道を邪魔するならば誰であろうとこの大剣で両断してくれよう!」


 殺気のこもったミアの目に敵はたじたじとなった。段々と抵抗する気力もなぎ倒され、進撃にわが身をさらしたくないと道を開けてしまう。少し後ろでフォローに付くミントレアが遅れるほどの勢いだった。


 数刻ほどで、ミアはバウワーの姿を視認するまでに至った。ミアは虎の如き大声で吠えた。


「そこか、バウワー! 地位の簒奪者め! 近衛総司令という位が貴様にふさわしくないということを私が手ずから教えてやろう!」


 ミアの挑発にバウワーは簡単に乗った。棍棒を振り回して馬をミアの方へをと向ける。


「何を()()! 貴様こそ王宮で大人しくしておればいいものを陛下とペルセウス殿に逆らいおって! しつけてくれるわ!」


 かくして両者は急速に接近した。二人とも大きな獲物を構えた。先に手を出したのは意外にもバウワーの方であった。


「ほれほれ! どうした! 手も出ないか!」


 一合二合と棍棒を左右に振ってミアの剣に叩きつけた。流石の力でミアの剣に棍棒が当たるだけで、轟音が戦場に響き渡った。これはいけるのではとバウワーは段々と嗜虐的な笑みになっていた。


「降参するならば今のうちですぞ? 殿下! 女だてらに戦場に出て、そんな振れもしない大剣など持つからいけないのです! これでわかったでしょう!」


「......」


 ミアは黙っていた。その様子を見て、バウワーはこれまでの殿下の武勇は誇張されたものにすぎないと確信した。所詮自分の力には勝てないのだとさらに攻勢を強めた。


「さあ! もう腕も痺れたでしょう! 許してあげますから剣を収めなさい」


 その時、ミアは初めて、バウワーの棍棒を止めた。急に抵抗する力が強くなったことでバウワーは戸惑ったような表情を浮かべた。


「な......なんだ!? 急に! びくともしない!」


 バウワーは棍棒をいくら押してもミアの大剣は微動だにしなかった。それどころか徐々に押し込まれ始めた。ここへきて初めてバウワーは手加減されていたことを知った。


 焦り、押し込まれて仰け反るバウワーをミアは冷たい目で見下ろした。


「もしかしたら、貴様に何かとんでもない能力があり、それを買ってペルセウスは貴様をその地位に就けたのかもと疑ったのだが......どうやら本当にただの捨て駒のようだな」


「な......なんだと!?」


 バウワーは顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。筋肉が隆起し、額に青筋を浮かべる。それでもミアの大剣はまったく動かなかった。


「時間の無駄だな。貴様のせいで死んだ兵士たちにあの世で詫びてこい」


 そう言ってミアは大剣を持つ両手にさらに力を込めた。バウワーは棍棒ごと体を押し付けられ、棍棒はギシギシと悲鳴を上げ始めた。


「こ......こんな!?」


「はあっ!」


 ミアの気合と共に、棍棒もバウワーも大剣で両断された。どさりと落ちたバウワーに見向きすることもなく、ミアは大剣を掲げた。


「錆落としにもならなかったな」


 後を引き取ったのはミントレアだった。


「殿下が敵総大将を討ち取ったぞ! 我が軍の勝利だ!」


 バウワーの棍棒を拾い上げ、高々と勝利を叫ぶと、味方の歓声が戦場に響き渡った。

登場人物紹介


★立花烈 (レツ・タチバナ)

本作の主人公。ある日、亡き妹の姿を追って、異世界に迷い込んだ少年。齢は18。黒い髪に、高い身長が特徴。実家が古流剣術の道場であり、そこで厳しく育てられたため、剣術の腕は比類なきものとなっている。なにやら暗い過去があるようだが、それについては口を閉ざしている。


★ミア・キャンベル

烈が異世界で目覚めてから初めて出会った少女。齢は18。赤髪に金色の眼、烈と同じくらいの高身長で、身の丈もある、幅広のバスターソードを軽々と振るう。その正体はドイエベルンの王女『ミネビア・アーハイム・キャンベル・ロンバルト』。実兄である現国王と、その腹心のペルセウス侯爵の専横を打倒するために奮闘している。『紅雌虎』の異名を持つ。


★ラング

烈とミアがバリ王国の山賊を退治した時に出会った男。齢は20。金髪で小麦色の肌を持ち、ノリもよく、いわゆるモテる男なのだが、何か秘密があり謎めいている姿も持つ。剣の腕は我流だが一流。


★ルル

モニカ王国の元王女。齢は13~14くらい褐色、黒髪の美少女。モニカ王国がバリ王国に滅ぼされ、奴隷に身をやつしていたところを、烈に解放されたため、その恩返しのために共に旅をしている。元々は『軍破弓』の異名を持つほどの弓の達人で、200m先の敵将を正確に射抜くことができる実力の持ち主。

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