表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/197

『雷雉』アイネ・バーハルト

 迫りくる敵兵を白刃が容赦なく切り裂いていく。あまりの速さ、鋭さに敵は一瞬斬られたことを気づけない程だった。カイエン公爵の娘にして、『雷雉』アイネ・バーハルトはまるで機械のように感情もなくただ目の前の敵を斬っていった。


「こんなものか。弱いな」


 実はアイネは今回が初めての戦場であった。最初は空気の重さを感じていたが、敵を三人も斬るころにはそれにも慣れた。


(一人ではこうもいかなかったかもしれないな。だが、()()()の前で無様な姿を見せるわけにもいかない)


 アイネが「一方的に」敵視する男の姿をちらりと見た。視線の先では烈が同じように敵を退けていた。何か困った様子もないのがまたアイネには気に入らない。


「ふん。これで情けない姿の一つでも見せればまだ可愛げがあるものを......」


 烈の実力が恐らく自分を上回っているということが分かってしまうこともまた、アイネには腹立たしかった。


「剣の腕も、戦場での経験も、そして殿下の寵愛も、あのぽっと出の男になぜ負けなければいけないのか!」


 苛立ちながらもアイネは向かってくる敵をすれ違いざまに切り裂いていた。流石は『雷迅戦鬼』の娘だと味方からは徐々に尊敬の目で見られるようになっていた。


 それは烈も同様であった。アイネの視線に烈も一早く気づいていた。彼女の気もそぞろな戦い方に冷や冷やしながらも、その圧倒的な剣速に舌を巻いていた。


(雑兵じゃ相手にもならないな。性格はちょっとアレだがキョウカとやってもいい勝負をするだろう)


 烈はかつてバリ王国で武を競い合った将軍のことを思い出していた。


 そうこうする間にアイネはさらに敵陣へと突出する。烈が気づいたときにはだいぶ距離が離れたところにいた。そのアイネの前に大男が現れた。巨大な戦斧を握り、にやにやと笑いながらアイネを見ている。アイネはその男---マルカネンを見ただけで、実力が雑兵とは一線を画すことを看破した上で、不愉快な気分になった。


「何をニヤついているのですか? 変態野郎」


 急な罵倒にマルカネンは少し面くらったような顔をした。


「おお? 戦場に咲く一輪の花を見つけたかと思えば、とんだ棘付きの若葉だったぜ。お嬢ちゃん何者だい?」


「ふん。どうやら貴様もその辺の有象無象の輩と同じようですね。他人に名を聞くならまずは自分から名乗るべきでしょう?」


「はっはっは! これは失礼した。俺の名前はマルカネン。ドイエベルン北部領、アーギュストの領主だ」


「マルカネン? ああ、思い出したわ。大した実力もないのに殿下に逆らおうとするやつらの中でも、下っ端の男たちの中に名前があったわ」


「ほう? そんなリストが出回っているとは。俺の名前も多少は知れ渡ってきたということかな?」


 アイネの罵声にもマルカネンは気にした様子もない。


「それで? 名乗ったからにはお嬢ちゃんも名乗るのが筋ってものじゃないか?」


 アイネはちっと舌打ちをした。


「アイネ・バーハルト。カイエン・バーハルト公爵の娘よ」


「おお。御有名はかねがね。その剣の優美なこと、素早きこと、まるで雷を纏った雉の如しと言われた腕前、納得というものだ」


「貴様に褒められても何も嬉しくないわ」


「手厳しいな。だが、そんなお嬢様が戦場に出るとは。本陣まで下がった方が御身のためではないか? その体に傷などつけようものなら周りの男たちが嘆き悲しむであろう?」


 マルカネンの言葉にアイネは心底ぞっとした。そんなものは心から望んでいないのだ。


「不快極まるな。下半身でしかものを考えられない犬畜生の分際で。さっさと斬って次に進めさせてもらおう」


「いやいや。折角公爵令嬢とお知り合いになれたのだ。哀れな北部の小領主にもう少しお付き合い願いたいものだな」


 そう言いながら二人とも互いの手元の武器を構えた。アイネは相も変わらず軽蔑しきった冷たい目で、マルカネンもニヤついた表情を隠さずに互いの呼吸が合う瞬間を待っていた。

登場人物紹介


★立花烈 (レツ・タチバナ)

本作の主人公。ある日、亡き妹の姿を追って、異世界に迷い込んだ少年。齢は18。黒い髪に、高い身長が特徴。実家が古流剣術の道場であり、そこで厳しく育てられたため、剣術の腕は比類なきものとなっている。なにやら暗い過去があるようだが、それについては口を閉ざしている。


★ミア・キャンベル

烈が異世界で目覚めてから初めて出会った少女。齢は18。赤髪に金色の眼、烈と同じくらいの高身長で、身の丈もある、幅広のバスターソードを軽々と振るう。その正体はドイエベルンの王女『ミネビア・アーハイム・キャンベル・ロンバルト』。実兄である現国王と、その腹心のペルセウス侯爵の専横を打倒するために奮闘している。『紅雌虎』の異名を持つ。


★ラング

烈とミアがバリ王国の山賊を退治した時に出会った男。齢は20。金髪で小麦色の肌を持ち、ノリもよく、いわゆるモテる男なのだが、何か秘密があり謎めいている姿も持つ。剣の腕は我流だが一流。


★ルル

モニカ王国の元王女。齢は13~14くらい褐色、黒髪の美少女。モニカ王国がバリ王国に滅ぼされ、奴隷に身をやつしていたところを、烈に解放されたため、その恩返しのために共に旅をしている。元々は『軍破弓』の異名を持つほどの弓の達人で、200m先の敵将を正確に射抜くことができる実力の持ち主。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ