ラング対ゲルパ
「おっと!」
放たれた飛刀を喉元に当たる寸前で、ラングはさっと躱しゲルパに肉薄しようとした。対して、ゲルパもその動きに合わせながら自分が一方的に攻撃できる距離を維持しようとする。
「いったい何本持ってんだよ!」
さらに二本こちらへ向かってくる飛刀を剣ではじきながらラングは毒づいた。ゲルパはゆらゆらと幽鬼のように体を揺らしながら、ラングの動作を捉えていた。ラングが左に動けば右に、前に動けば後ろに、決して距離を詰めさせることもなければ離れることもなかった。そしてラングの動きが止まるとすかさず飛刀を放ち、大きく体勢を崩させた。
ラングが何本目かの飛刀を大きく避けると、ゲルパはにやり笑った。
「いいのか? そこで?」
「な......やべっ!?」
ラングが避けた場所の後ろには敵軍の兵士がいた。視界の端に兵士が剣を振り上げているのが見える。無防備なラングの背中に剣が振り下ろされようとしてた。
「ぐあっ!」
ラングを救ったのは、一本の槍だった。大型の突撃槍が敵を貫いていた。
「助かったぜ、コース」
ラングは起き上がってきたコースに礼を言った。コースの片手は飛刀が刺さり、血がどくどくと流れ、だらりと垂れ下がっていた。
「その手、早く治療した方がいいんじゃないか?」
「俺のことはいい。周りの敵兵は俺が牽制しておくからラングさんはあの敵将を!」
「ありがてえが大丈夫か? 片手使えねえんだろ?」
その言葉にコースはふんぐと突撃槍を片手で持ち上げた。
「問題ねえ! この程度の怪我、戦場ではよくあることだ。雷迅衆を相手にしてるんじゃないんだ。雑魚兵に負けてられるかよ」
「そうかい。じゃあ背中は任せたぜ?」
そう言って、ラングはゲルパに集中することにした。よそ見をしてて勝てる相手はなかった。
ゲルパは感情の読めぬ顔で再度飛刀を構えた。
「よもや卑怯などどいうまいな。戦場の理を利用させてもらっただけだ」
「当たり前だろ? お互い正々堂々という柄でもない」
「ほう?」
ゲルパが興味深そうにラングを見た。
「どうやらまだ何か隠しているのかな?」
「さあね?」
とぼけたラングの態度にゲルパは警戒心を強くした。
「出会ったときから感じていた」
「あん? 何をだい?」
「お前、戦士ではないだろう?」
「......」
ラングの目が細められ、気配がすっと冷えたようになった。
「『黒風』か?」
ゲルパは大陸全土にまことしやかに囁かれている暗殺組織の名をあげた。
ラングはその言葉にへっと笑った。
「俺がそいつらの一員なら、こんなところに出てきている時点で任務は失敗ということだな」
「ああ、そうだな。だがそいつらと同じ匂いがする。かつての俺のようにな」
「へえ。あんたあの組織と何か関係が?」
「直接の所属だったわけではない。だが師匠がそこにいた。その流れで幾つか仕事を手伝ったことがある程度だ......だが......」
ゲルパは体勢をさらに低くした。
「お前の方が匂いは濃そうだ」
言うと同時にゲルパは飛刀を放った。飛刀の陰に隠れてラングを追い込むつもりだった。今まで距離を保ち続けていたからこそ予想外の攻撃になるはずだった。
しかし、ゲルパの飛刀はラングに向かう途中でカキンと音がして何かに撃ち落とされた。
「何!?」
ゲルパは目を見開いた。何か流れ矢が当たったのかと思った。だが、自分の考えはすぐに間違いだと気づいた。何か、パチンコ玉のようなものが飛刀と共に地面にぽたりと落ちたからだ。
(あれは!?)
ゲルパはそのパチンコ玉に心当たりがあった。
(かつて師匠に聞いたことがある!? 確かにバリ王国の......)
だが、ゲルパの思考は中断された。目の前には剣を振り上げたラングがいた。
(しまった!)
慌ててゲルパは剣を両手の飛刀をクロスさせて受け止めた。だが元々ラングの剣は長剣である。強烈な一撃にゲルパの腕は完全に痺れた。次いでラングは横薙ぎに剣を振るった。ゲルパは飛刀を持っていることができず大きく吹き飛ばされてしまった。
無防備になり、両手をだらりと下げたゲルパにラングがぴたりと剣を突き付けた。ラングは普段の陽気な顔が嘘のように、ゲルパを冷たい目で見下ろしていた。ラングは静かに口を開いた。
「喋りすぎだぜ。暗殺者もどき」
ラングは一切の容赦なく、ゲルパを切り裂いた。ゲルパは一言も発することなく、地面に倒れた。
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