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始まり

 自惚れていたわけではない。むしろなぜこうも才能がないのかと自問自答していたくらいであった。


 大粒の涙のような雨の中を、少年は傘もささずに歩いていた。雨で黒髪は重く濡れ、遠目から見たらまるで野良犬のようである。


「どうして......」


 少年の足取りは重く、顔は生気を失ったかのように白かった。


「俺はどうしてあの時、止まれなかったんだ......」


 少年はじっと手を見つめる。


「まだ、あの時の感覚が残ってやがる......」


少年は自分の手を憎く感じていた。


「こんな手さへなければ」


 そういって、少年は手を目の前にかざした。自分と己の手を世界から隔離できないかと望むように。


「ん? なんだ?」


 光のない目で、少年は自分の手の向こうの異変に気付いた。


「これは? 鏡? こんなもの目の前にあったかな?」


 少年は手を下ろし、じっと目の前の自分の背丈程度の鏡をじっと見つめた。


「なんだ? どうして俺の姿が写っていないんだ?」


 少年は不思議だった。だが思考の停止した今の頭ではそれ以上のことを考える余裕がない。


「ん? 何か人の姿が見えるような?」


 少年はぐっと鏡の中を覗き込んでみた。


「あれは? 女の子?......泣いているのか?」


 鏡の中には一人の女の子が写っていた、顔を腕で覆っていてうまく見えないが、微かにふるえる腕と、漆黒の髪が揺れているのを見て取れる。その少女がすっと顔を上げた。


「!? 紗矢!?」


 少女の顔は少年の妹に似ていた。数日前に亡くした妹だ。真の()()と少年が認めていた唯一の肉親。


「紗矢! 紗矢なのか!!?」


 少年は届かぬことも理解できず、その状況の異常さも見えぬまま、鏡へと手を伸ばした。


「なんだ!? 光が!?」


 その瞬間、少年を閃光が包み込む。


「うわああああああ!!?」


 少年の絶叫も、困惑もすべて光がかき消した。光が落ち着いた後には、何も残っていなかった。少年も鏡も、雨さえも止み、後には普段と変わらぬ日常が世界を回し続けていた。

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