もっとも“時計”が注目される時
とある部屋の中に集められている、30人余りの男女。
その約半数の者達が、静かに、視線を1ヶ所へと集めている。
彼等の視線の先にあるのは、見た目には何の変哲もない、丸い壁掛け時計だ。
しかし、あの時計こそが、この部屋にいる者達に“闘争の始まり”を告げる使者でもあった。
ある者はソワソワと落ち着かない様子で。
またある者は、油断無く周囲を確認しつつ。
それぞれが、それぞれの思惑を胸に、時計の針がその数字を指すのを待っている。
刻一刻と迫り来る時間に、痺れを切らせた男が1人、先走って立ち上がろうとした――次の瞬間。
彼は前方から飛来した、白い弾丸によって額を撃ち抜かれ崩れ落ちた。
室内に充満する、バカな奴だと言う嘲りと、抜け駆けをしようとした事への憤り。
そして、そこまでする必要があるのか? と言う呆れ。
そうこうしてる間にも、刻は進み――ついにその時へのカウントダウンが始まった。
――後30秒
既に数人は戦闘態勢に入っているようだ。
自分の身の回りにある装備を確認し、背嚢へと収納していく。
――後15秒
残りの者達も、いつでも動けるように、姿勢を整えて、この後下されるであろう号令を思い、身構えている。
――後10秒
さっきの彼が再び先走り、またしても白い弾丸によってフロアへと沈んだ。
だが、もはやそんな彼に意識を割く余裕は、その場にいる者達にはなかったようで、ほぼ全ての者が、前方の時計を注視している。
――後5秒
――4
――3
――2
――1
――ゼロ
――――キーン コーン カーン コーン――――
戦闘開始の合図が響くと同時、学級委員の合図と共に全員が立ち上がり、礼をする。
直後。
我先にと背嚢を担ぎ上げ、教室を飛び出して行く数名の男子生徒。
背後からかかる「廊下を走るな」と言う制止の声に、一瞬だけ身をすくませたが、そのまま一気に走り去っていく。
「今日はドッヂボール組がボールいただくぜ!」
「うるせー!今日もキックベース組に負けはねーぜ!」
「ふん!漁夫の利で、僕らバスケ組の勝利さ!」
遠くから聞こえてくる声からは、激しい争奪戦の様子が目に浮かぶようだ。
「毎日毎日、よくやるよね。」
「ホント、よく飽きないよね、男子。」
飛び出して行った者達を、冷めた目で見つめる女子達。
私は、ゆっくりと帰りの支度を済ませながら、隣の友人に視線を向けて尋ねる。
「私達はどうする?」
「ドッヂボールなら、ちょっとだけ混ざろうかな。」
今日も、うちのクラスは平和なようだ。