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第三回なろうラジオ大賞用

もっとも“時計”が注目される時

作者: 城河 ゆう

 とある部屋の中に集められている、30人余りの男女。

 その約半数の者達が、静かに、視線を1ヶ所へと集めている。


 彼等の視線の先にあるのは、見た目には何の変哲もない、丸い壁掛け時計だ。

 しかし、あの時計こそが、この部屋にいる者達に“闘争の始まり”を告げる使者でもあった。



 ある者はソワソワと落ち着かない様子で。



 またある者は、油断無く周囲を確認しつつ。



 それぞれが、それぞれの思惑を胸に、時計の針がその数字を指すのを待っている。


 刻一刻と迫り来る時間に、痺れを切らせた男が1人、先走って立ち上がろうとした――次の瞬間。


 彼は前方から飛来した、白い弾丸によって額を撃ち抜かれ崩れ落ちた。



 室内に充満する、バカな奴だと言う嘲りと、抜け駆けをしようとした事への憤り。

 そして、そこまでする必要があるのか? と言う呆れ。



 そうこうしてる間にも、刻は進み――ついにその時へのカウントダウンが始まった。



 ――後30秒



 既に数人は戦闘態勢に入っているようだ。

 自分の身の回りにある装備を確認し、背嚢へと収納していく。



 ――後15秒



 残りの者達も、いつでも動けるように、姿勢を整えて、この後下されるであろう号令を思い、身構えている。



 ――後10秒



 さっきの彼が再び先走り、またしても白い弾丸によってフロアへと沈んだ。

 だが、もはやそんな彼に意識を割く余裕は、その場にいる者達にはなかったようで、ほぼ全ての者が、前方の時計を注視している。




 ――後5秒




 ――4




 ――3





 ――2





 ――1






 ――ゼロ






 ――――キーン コーン カーン コーン――――



 戦闘開始の合図が響くと同時、学級委員の合図と共に全員が立ち上がり、礼をする。




 直後。




 我先にと背嚢(ランドセル)を担ぎ上げ、教室を飛び出して行く数名の男子生徒。


 背後からかかる「廊下を走るな」と言う制止の声に、一瞬だけ身をすくませたが、そのまま一気に走り去っていく。


「今日はドッヂボール組がボールいただくぜ!」

「うるせー!今日もキックベース組に負けはねーぜ!」

「ふん!漁夫の利で、僕らバスケ組の勝利さ!」


 遠くから聞こえてくる声からは、激しい争奪戦の様子が目に浮かぶようだ。


「毎日毎日、よくやるよね。」

「ホント、よく飽きないよね、男子。」


 飛び出して行った者達を、冷めた目で見つめる女子達。


 私は、ゆっくりと帰りの支度を済ませながら、隣の友人に視線を向けて尋ねる。


「私達はどうする?」

「ドッヂボールなら、ちょっとだけ混ざろうかな。」


 今日も、うちのクラスは平和なようだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)ネタバレを言うと懐かしい光景を思い出すようです。ですが、そこに至るまでの演出がとても巧みでした。そこが凄く良くできている作品。 [気になる点] ∀・)白い弾丸(笑)でも結構痛そう(笑…
[良い点] まさに漫画的な世界ですね。現実を誇張したら、確かにこれが子供の実態だよなあと思ったりしながら、闘争の描写を楽しませて頂きました。 [一言] こういう「時報を合図」を分かってくれて、このお話…
[一言] 背嚢=ランドセル シビれました、カッコいい!笑 なんだか懐かしくなっちゃいますね^^ ほっこり素敵な物語でした。
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