相変わらずのカンケイ
久しぶりに中学のときの仲間達と会うことになった。
ちょうど、皆の休日が重なったからだ。
既に皆、それぞれ会社に勤めたり、実家の家業を手伝ったりして、ばらばらになってしまっていたが……。
「くわあああ、これ、難しい……!!」
恵美子がコントローラーを投げ出した。恵美子がやっているのは、VRで有名なゲーム。ヘッドセットと二つの特殊なコントローラーを使って矢印のついたキューブを切っていくというものだ。
ちなみにここは、晴美の家。一人暮らしな上に、部屋が広いからと、晴美の家に集まって、お泊り会をやっている。
「たしか、このゲームって……ダイエットに良いんだっけ?」
眼鏡を付けて、読書にいそしんでいるのは、美弥。そう言いながらも、目は本を離さない。
「そうだよそうだよ! ほら、恵美子も感じてない? ほどよく運動されてるって感じ!」
「うーん、そうなのかな? それよりも初体験なことがいっぱいで目が回りそう」
ふわふわな笑みを浮かべながら、美弥に同意するのは、この家の主である晴美だ。晴美の言葉にゲームをやっていた恵美子が耐えかねて、ヘッドセットを外したようだ。……あれ? なら、どうして太ってるんだ?
「夕もやんない? 面白いよ?」
交代しようと言わんばかりに、恵美子からヘッドセットとコントローラーを受け取る。
「どれ……初めてだけどやってみようかな」
中学時代はこれでも、卓球部に所属していたことがある。……とはいっても、部員と大喧嘩して、4か月でやめてしまったが。
「じゃあ、つけてあげるよ。ほら、これ持ったままねー」
パソコンのモニターと同じ世界が目の前に広がった。
「うわあ……本当に後ろも前も見えるんだね」
「夕、こっちこっち。そこで動いたら反応しないから」
恵美子が私を誘導してくれる。ヘッドセットを付けたら、現実世界は見えなくなるからね。
「ありがと……それにしても、立体に見えるのもすごいね」
「すごいよー。他にもね、遊園地とかもあるんだけど……そっちは酔っちゃって」
マジか。遊園地も遊べるとは恐るべし、VR……。
「あ、それじゃあ……よいしょ。これやってみて。イージーってあるでしょ? それが初心者用」
「ん、了解」
しかし、私はうっかり操作を間違えて、その隣のハードのクラスを……押してしまった。
「「あっ……」」
恵美子と晴美の声が、重なった。
リズミカルな曲と共に、キューブが流れてくる。
「わわ、これ斬るんだよね!」
斬るというより振るというべきか。しかし、斬った感覚はそれと似ている。気持ちよくキューブが真っ二つに斬れていくのが楽しい。
「よっ!! はっ!! とうっ!!」
でっかい壁は、身を翻して避けて、目的のキューブを音楽と共に切り裂いて。
「……ある意味、芸術的かも」
「……だねぇ」
「ん? 何があったの?」
無事、クリアしたのを見届けて、私はヘッドセットを外した。
「はいこれ。芸術的なプレイ」
恵美子が自分のスマホを見せてきた。
「ぶっ……」
変な格好で巧みにプレイしている。いや、ちゃんとクリアできたからあれだけど、外から見たら、ある意味、芸術的な格好になっていた。
「なんだか、私もやりたくなっちゃった。選手交代してもいい?」
晴美は私のプレイに誘発されたのか、慣れた手つきで一人でセッティングを終えると、私よりも上のエクストラステージを、楽しげにプレイしていた。
「こっちはそんなに芸術的じゃないね」
見てないと思っていた美弥が声をあげた。
「読み終わったの?」
「ん。このくらいの文庫だったら、1時間あれば十分」
私たちの隣に座って、晴美のプレイを見る。
「そっか、あれは腕を回してやるのか……」
「いや、知らないとわからないし」
「ハルちゃんすごい……」
口々に言いながら、次々とステージをクリアしていく晴美に、おおっと歓声をあげる私たち。
「ふふふ、こっちはみんなよりもやってるからね!!」
得意げな顔で晴美は、私たちを見て一言。
「運動したら、お腹すいちゃった! ご飯たべよー?」
どうやら、あのゲームはダイエット……ではなく、食欲増進にいいようだ。
「今日はね、みんなと一緒に食べようと思って、デパ地下で買ってきた……ステーキ丼!! あ、海鮮丼もあるよ」
「流石は食欲の権化……いえ、グルメな晴美様!!」
「ん、最初の部分は聞かなかったことにするね♪」
こうして私達は美味しい夕食タイムへと突入したのだった。