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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

突然覚醒した俺、チート能力「言ったことが現実になる」で嫌いな奴らを全滅させる

作者: ネオウニ丼

言霊。

それは言葉による霊的な力のこと。古来より言葉には現実にする力があるとられていたという。つまり、言ったことが現実になるということである。雨が降ると言えば、本当に雨が来る。地震が起きると言えば本当に地震が起こる。言葉の力を使えば、何でもできる。人を殺すことも可能である。故に言霊は生半可な覚悟で使うべきものではないということである。


「そんな力があったらマジで欲しいわー」


とネットで調べた言霊を見て、佐々木裕太は覇気のない声で呟いた。


佐々木裕太。

とある田舎町にある病院で働く新人病棟男性看護師である。看護学校を卒業し、憧れの看護師になった。そして今年の春に入社して一ヶ月が経過した。憧れだった看護師の仕事は今の佐々木にとって苦痛なものだった。


「はぁ、マジで辛い…」


今は昼休みの時間で、佐々木はナースステーションの休憩室で昼ごはんを食べていたが、食事はまったく進んでいなかった。原因は日頃からの先輩看護師からのパワハラである。佐々木は入社してからまともに指導されず、聞いても何も教えてくれない先輩たちの働きを見学し、覚えようと日々の仕事に励んでいる。しかし、わからないことがあり、動けずにいると「役立たず」と罵られ、教えてもらおうと聞くが「聞く前に勉強しろ」と結局何も教えてくれない。裏では「使えない、無能」とバカにされる。憧れていた看護師という仕事は、佐々木にとって地獄だった。


「ホント、やめたい…」


佐々木がそう呟くと、休憩室に一人の看護師が不機嫌そうに入ってきた。先輩看護師の藤野という年配の看護師だ。


「佐々木、あんたまだ休憩してんの?」


「は、はい…」


「早くこいよ。仕事あんだから」


「え、でも、まだ休憩時間中…」


「あのさ、新人に休憩とかないから。たくさん働かないと技術身に付かないのわかんないの?」


「すいません」


「早くして。この時間がもったいないから」


休憩に入って十分ほどしか経っていないが、佐々木は食事をやめて、すぐに病棟に出た。しかし、出てきたのはいいものの、何をしていいかわからない。佐々木は近くにいた先輩看護師の村田に「何か手伝えることありますか?」と尋ねるが、村田は明らかに不機嫌そうな表情を浮かべて「それくらい自分で考えて探せないの?」と返される。佐々木は村田に謝り、自分のやれることを探すが、結局何をしていいかわからず、病棟内を歩いていると、「おい、佐々木」と看護師長に呼び止められた。


「あんた、何してんの?」


「えと、やれることがないかと探していて…」


「それで、やれることはあったの?」


「いや、わからなくて…」


「あのさ、わからないことあったら聞くとかできないの?ねえ、もう子どもじゃないんだよ!」


「あの一応村田さんに声かけたんですけど…」


「その前に今アタシが喋ってんのわかんない?黙って話も聞けないの?」


「すいません」


「それは何に対しての謝罪なの?」


「黙って聞かなかったことですか?」


「そう。新人は口答えしないこと。あんたはいつも無駄口が多いの。黙って言うことを聞きなさい」


「はい…」


「あんたに今できる仕事ないから、休憩してなさい」


「でも新人に休憩はないって、さっき…」


「はぁ、もういいわ。好きにしな」


呆れた表情で看護師長は去っていった。佐々木は今にも泣きそうなくらい感情的になっていた。


(俺が悪いのか?俺が、全部…)


人の話を聞かない先輩たち。佐々木への理不尽な対応。佐々木のストレスは凄まじく、どうして自分がこんな目に遭わないといけないのか、悔しかった。


「ホント、死ねばいいのに…」


看護師長の顔を思い出しながら、憎しみの思いを込めて佐々木は呟いた。すると突然、どこかの病室からガシャンと大きな音を鳴らし、悲鳴のような声が聞こえた。佐々木はすぐにその部屋に行くと、そこには口から大量の血を吐き出している看護師長がいた。佐々木の後からすぐに数人の看護師が来て、佐々木に「邪魔!!」と言って佐々木を突飛ばし、看護師長の安否を確認する。


「し、死んでる…」


先輩看護師の有田が心臓の音、瞳孔、脈を確認してそう呟く。看護師長は大量の吐血による出血で死亡した。



看護師長が死んでからは、「役に立たないからどっか行ってて」先輩看護師たちから言われて、佐々木は病棟をふらふらして、一日の勤務は終了した。今は帰りのバスに乗っていた。


(ホントに死んじゃった)


佐々木は無意識に微笑んでいてた。心の底から看護師長が死んだことが嬉しかった。そして、同時に、なぜあんな変死が起きたのか疑問だった。


(まさか、俺が言ったからか?)


佐々木は言霊のことを思い出す。言ったことを現実にする力。言霊の力で看護師長は死んだのか、佐々木は半信半疑だった。


(偶然だよな。言霊なんてあるわけがない…)


そう思いながらも、検証してみたいという思いもあった。佐々木はバスの中にいる乗客を見る。一人、ずっと電話をしている女子高生がいる。佐々木はターゲットをその子に定め、「電話やめろ」と呟く。すると、女子高生は急に電話をやめた。


(やめたな。俺の言霊は本物ってことか?)


それでも半信半疑の佐々木は別のことで試そうと考える。佐々木は外の様子を見る。外は曇っていてどんよりとしている。


「晴れろ」


佐々木がそう呟くと、とたんに雲は風で流れていき、バスの乗客たちも何が起きたのかわからず、天気に釘付けになっていた。この状況を見て、半信半疑だった言霊の力を佐々木は信用した。佐々木はバスを降りて、そして、まわりに誰かいないか確認し試しに言ってみた。


「俺の嫌いな看護師全員、死んでしまえ」


強く、恨みを込めて佐々木はそう言った。




次の日、アパート暮らしの佐々木は出勤しようと玄関を出るとすぐに、スマホに電話がかかってきた。


「はい、佐々木です」


「看護部長の成田です。朝からすまないけど、しばらく休んでもらえないかな?」


「え、どうしてですか?」


「実はね。君の病棟の君以外を除いた看護師全員が昨日亡くなってね。今病院はバタバタしてて君を指導できる人がいないんだ。そういうことで、準備ができたらまた連絡するから、ゆっくり休んでいてくれ」


と看護部長は用件を言って電話を切った。そして、佐々木は満面の笑みで「いやっほー!」と叫んだ。


「やった!やった!あいつら全員死にやがった!ざまぁみろぉ!」


佐々木はすぐにアパートに戻り、冷蔵庫にあったビールを取り出し、ぐびぐび飲んだ。


「うめー!今日は一日宴だ!!」


佐々木がそう叫ぶと、玄関のドアが急にドンドンドンと叩く音が聞こえた。佐々木は一旦冷静になり、玄関の扉を開いた。


「うるせーぞ、テメー!朝っぱらから叫んでんじゃねえぞ!!」


そこにはとなりに住んでいる今井というおっさんだった。無職で働かず、佐々木が帰ってくるといつも大音量のアニメの音が聞こえてきて迷惑していた。


「テメーのせいでアニメに集中できねえーんだよ!死ね!」


「うるせー。お前が死ね」


「なんだと!テメー!!」


と今井がそう言った瞬間。今井は急に倒れ、過呼吸になる。首を抑えて苦しそうにもがき、最後には動かなくなった。


「いやー、言霊って便利だな」


目の前に死体があるが、佐々木は気にせず部屋に戻り、外出する準備をした。


「また変なの来るかもしれないし、外食しよ」


佐々木は玄関で倒れている今井の死体を見て「消えろ」と一言呟く。すると、今井の死体は跡形もなく消えてしまった。


「さて、寿司でも食べに行こっと」


佐々木は上機嫌で外食しに行った。




「ふぅ、食った食った」


寿司を食べた佐々木は現在アパートに戻ろうとしていた。寿司を食べにいくときも、食べ終わったあと「無料で頼む」と言い、お金を払わずに寿司屋を出ていった。そのあとコンビニに入って酒を買うときも「無料で」と言って金を払わず酒を持ち出した。


「言霊最高だな。今の俺マジで無敵」


佐々木がアパートの前に行くと、突然数人の男に囲まれた。


「な、何なんですか!」


「警察です。今井信行さんの件でお話聞かせてもらえますか?」


(ああ、なるほど…)


佐々木はある程度察した。朝の今井のとのやり取りを誰かが見ていて、通報したのだろうと佐々木は予想した。


「はぁ、めんどくさ」


「めんどくさいとはどういう…」


「お前ら、消えろ」


と佐々木が言うと、数人の男たちは跡形もなく消えてしまった。


「はい言霊便利ー。さ、帰ろ」


佐々木はアパートに戻り、いつも通りの調子でテレビをつけて、冷蔵庫にあるキムチをおかずに買ってきた酒を飲み始めた。


「はぁ、今俺の人生のなかで一番楽しいかも…」


嫌なこと全て言霊の力で消し去ることができる。今の佐々木に怖いものはなかった。


「これから何しようかなぁ。最近旅行してなかったし、久々にするのもいいなぁ。あとは買いだめしてるゲームをずっとやってるのもいいなぁ」


これからの生活を妄想しながらテレビのチャンネルを切り替えていくと、番組は今日の新型コロナウイルスのニュースのところとなった。


「ふーん、今日もたくさんいるんだな…」


新型コロナウイルスの感染者数を見ながら佐々木は呟く。


「マジで人数増えてきてるな。人類滅亡するなこれ」


と佐々木は冗談でそう独り言を呟いたが、それが大きな過ちだった。テレビを見ていると、突然ニュースのアナウンサーが苦しそうに悶え始め、テレビが突然消えた。


「え、何、急に?」


何が起きたのかわからず、佐々木はスマホを確認するが、ネットが繋がらない。


「まさか…!」


佐々木はすぐに部屋から飛び出し、アパート全部の玄関チャイムを鳴らす。しかし、誰も出てこない。開いている部屋があったので入ってみると、そこには死んでる女が一人いた。佐々木は嫌な予感を感じて、部屋を出て、人通りの多いところに向かって走り出した。


その嫌な予感は的中した。佐々木のまわりには死体がたくさん転がっていた。店の中、車の中、バスの中、駅の中、病院の中。どこにいっても死体、死体、死体。生きている人はどこにもいなかった。


「嘘、だろ…」


佐々木が呟いた人類滅亡。それが言霊の力で現実となってしまった。


「お、落ち着け俺。言霊でまた元に戻せばいいだけだろ…」


あはは、と佐々木は笑う。


「人類滅亡はなし!元に戻してくれ!」


と佐々木は言うが、死体はなくならなかった。


「な、なんで?言霊の力がなくなったのか?」


佐々木は「燃えろ!」と死体の一つを見てそう言うと死体は激しく燃え上がった。言霊の力はまだあると、佐々木は確信する。


「言霊の力はまだある!なのになんで、人はいきかえらないんだよ!!」


佐々木は絶望し、その場に座り込む。


「嘘だろ?このまま一人で生きるのか?い、嫌だ。そんなの嫌だ…」


ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。


佐々木は叫ぶ。すると、後ろに何かの気配を感じた。後ろを振り向くと、そこには見たことがない老人が立っていた。


「ひ、人…!」


「口は災いの元」


「は…?」


「聞いたことがないか?不用意な発言が災難を招くという意味じゃ。今のお前さんにぴったりだと思わんか?」


「な、何を言って…」


「お主は調子にノリ過ぎた。自分の力で周りを変えようとせず、言霊の力で全て解決しようとした。それで関係のない、罪のない者も消えた」


「な、何が言いたいんだよ!」


「さっき言ったであろう。口は災いの元じゃ。お前さんのせいで人類は滅亡した」


「すまなかった。もうそんなこと口にしない。だから頼むなんとかしてくれ!」


「ならば罪のない人を消してしまったことも悔い改めるか?」


「改める!改めるから頼む!!」


「…よかろう。では人類滅亡はなかったことにする。だが、忘れるな。口は災いの元だ」


老人が言い終わると、佐々木に突然頭痛が襲いかかる。佐々木は意識が遠くなり、その場に倒れ、意識を失った。




佐々木は目を覚ました。そこは自分の部屋だった。


「夢…?」


佐々木は起き上がり、テレビをつける。番組は普通に放送されていて、人が生きている。そのことに佐々木は安堵した。


「あ、言霊は?」


佐々木は窓から顔を出し、空を見ててきとうに「雨降れ!」と言う。すると、突然雨が降り始めた。これで言霊の力はまだあることを確信した。


「なんだ夢落ちかぁ。めっちゃ焦ったわ…」


佐々木は安堵し、横になると、家のチャイムがなった。「はーい」と言って佐々木は玄関を開けた。そこにはスーツの男がいた。


「警察です。昨日あなたを訪ねた警察官何人かが突然失踪してまして、何か知りませんでしょうか?」


「はぁ、ここは夢落ちじゃないのかよ」


「夢落ち?」


「消えろ。二度と俺の前に現れるな」


邪悪な笑みを浮かべ、佐々木は言霊の力を使う。しかし、目の前にいる男は消えなかった。


「悔い改める気はないようじゃな」


男がそう言うと、佐々木は急に吐血し始めた。佐々木自身何が起きたか分からずにいると、目や鼻、耳からも血が流れ出てきた。


「ごべぁ、ふぁにがほき…!!」


「調子に乗った報いを受けよ」


佐々木は全身から血を拭き出し、その場に倒れ、力尽きた。その姿を見下ろす男の姿はいつの間にか老人になっていた。


「看護師を消すだけで気がすめばよかったものの、人の欲というのは怖いものじゃな…」


老人は死体に背を向け歩き出す。次第に体が透けていき、老人は完全に消えていった。



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