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5回目の結婚記念日

作者: 佐野健次郎

結婚記念日を家族と過ごすため、定時で会社を上がろうとしたら、なんと仕事のトラブルが発生した。

市川市に所帯を持って3年目になった。

そう、今日は5回目の結婚記念日だ。最近、仕事が忙しかったけど、今日は早く帰るつもりなんだ。

仕事の合間に、コーヒーブレイクしていたら、メールの着信だ。先月3歳になった娘の写真が笑ってる。このところ娘が起きている時間に帰れなかったから、今日は娘と一緒にお祝いだな。

さあ、テキパキ片付けるぞって、デスクに戻ったらオフィスの空気がざわついてる。なんだろ、いつも温厚な課長が大きい声を出してるじゃないか。

自分の席につくと、同僚が声を掛けてきた。

「大変だよ。トラブル発生だ。今日はみんな帰れないぜ」

どうやら、取引先と納期の件でミステイクがあったようだ。取引先は自分の担当ではなかったけど、全社的な問題になってる。課長の顔も蒼くなるわけだ。

そうこうしている内にも、営業が次々に外に飛び出していく。仕入れ先に緊急のお願いに行くためだ。

バタバタとみんな出て行ってしまったから、オフィスの中は課長と数人しか残っていないので、ガランとした感じだ。時間は4時を過ぎている。

これは、とても帰りますなんて雰囲気じゃない。ごめん、みんな。顔が浮かんでくる。

営業からの連絡が次々に入ってくる。

「A社はだめだ。B社に回れ、こっちから連絡しておく」

「あー、わかった。すぐに行かせる」

時計が5時半を回った。

私も腹を決めた。

真顔の課長が電話口で「うん。うん」うなずいている。

よし、俺も交渉に出るぞ。そう思っていたら、課長と目が合った。

課長が私に、「よし、これを○○物産に持って行け」と茶封筒を投げてきた。残っている仲間がざわめいた。トラブルのあった取引先だったからだ。

はい、と封筒の中身を確かめるため開けようとすると、

「グズグズするな。すぐに行け」

課長の目が怖かった。

駆け足でオフィスを出ると、東京行きの東西線に乗った。


大きな川を越える頃、封筒の中身を確かめると、一枚のオフィス用紙が入っていた。

そこには、

「トラブルは解決した。

 残務整理がもう少しかかる。

 お前は、このまま帰れ。

 結婚記念日だろ」

と走り書きされていた。

そういえば、彼女を最初に紹介したのが、課長だったなと思った。

仲人にもなってもらったっけ。

心が少しほっとして、その紙をそっと封筒の中に戻した。

明日もがんばろう。

部下思いの課長に感謝しなきゃ。

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