腐女子姉とゲイ弟が異世界転生で夢想する
姉と弟が異世界転生。ブラコンシスコン的。
@短編その65
「ねーちゃん、だよな」
「おとーとなのね・・・イケメンだと思ったら、あんたなの」
ねーちゃんと言われたのは、年齢は16歳の貴族の娘、イルミネ嬢。侯爵家の令嬢だ。
おとーとと言われたのは、年齢は21歳の従者、アルス。伯爵家の3男坊で、イルミネのお付きだ。
令嬢の買い物にお付きと共に出掛けて、突然前世の記憶を、ふたり同時に思い出したわけだ。
「なんだよ、俺だってガッカリだよ。可愛子ちゃんだと思ったのに、腐女子とか。しかも姉とか」
「あんたなんか、ゲイじゃん、ゲイ!この世界のガンだわ、死ね。私がこの世界に来たのは、あんたみたいなゲイからイケメンを守るために転生したのね」
「普通腐女子って、男のカップルを愛でるもんだろ?生暖かくでいいから見守ってくれよ」
「あたしはノマカプ派で、ノンケのイケメンとこじらせ女子のジレジレを楽しむ派なのよ。そんなディープな腐女子ちゃうわ」
「まったニッチな性癖だな。俺はノンケを蟻地獄のように引き込んでハメるのが」
「ガンだ!!やっぱりっ貴様はガンだ!!!」
「おい!やかましいぞ!!往来の邪魔だ!!」
突然怒鳴られ振り向くと、背の高い騎士が二人を睨んでいた。
ここは街の大通り、確かに邪魔になっている。しかも二人は白熱して大声を出していた。
「あ、すいません」
「どーもどーも、あだっ!突くなよぉ・・ケツ突き返してやるぞ。俺の好みじゃねえけど、イケメンだな」
「ばかっ!!あ、すみません、馬鹿な弟で・あ。今はおとーとじゃ無いわね」
騎士が剣の鞘で突くので、すごすごと前世姉弟は道の端に寄る。
「もう騒ぐなよ。今度騒いだら投獄するからな!」
ふたりに警告すると、騎士は去って行った。
「さて。前世を思い出したのはいいけど・・とりあえず屋敷に戻りましょう」
「ミートゥー。俺も同じく」
屋敷に帰った二人は日頃使われない部屋で『話し合い』をするだった・・・
この世界に転生したきっかけは、弟が運転する車が事故に巻き込まれ、同乗していた姉もろとも多分・・即死した為だ。
姉は享年29歳、弟は享年24歳。
両親は姉が高校2年、弟小学6年に火事で死亡した。
姉は弟の親代わり、バイトに、学業にと頑張ったつもりだった・・でも弟は家で一人、寂しかった。
そのせいで悪い仲間と付き合うようになって・・・こじれた恋愛の果て、男が好きになってしまった。
あろう事か、男と援交までしていたのだ。
それを知った姉は呆然とした。腐女子にはゲイが好物という子もいた。でも姉はその辺りはノーマルだった。
「おとーさんおかーさんごめんなさいぃ、おとーとをちゃんとそだてられなかったぁ!!」
仏壇の前で号泣した姉を見ても、彼にとっては今更だった。
姉のせいで、男が好きになったのだ。姉イコール女。女は嫌いだ。
最悪に反発したのは彼が二十歳くらいまで。
流石に社会人になると、ガキだったと弟も思うようになり、姉と話をするようにもなっていた。
姉は仕事がバリバリ出来て、女で28で課長に出世すると、弟はいじけるよりも、素直に姉を尊敬した。
仕事のことも相談するようになっていた。
女というより、男前な姉だった。いつも彼の面倒を見てくれた頼もしい姉だった。
高校3年からバイトをするようになって、家で寂しい思いをするようになる前は、姉に頼りきりだった。
何の事は無い、姉大好きっ子だった訳だ。姉に放って置かれ、いじけて反抗して男に走ったのだ。
今思えば馬鹿なことをしたとは思うが、姉はそんな彼でも、困った弟として扱ってくれる。
対する姉だが、突然両親が死に、遺産目当ての親類が取り巻く中、弟を守って父方の祖母の家に逃げ込んだ。
祖母は既に鬼籍で、空き家のオンボロな家だったが住むには十分だった。
高校の転校は弟の小学校の転校よりも勉強が厄介で、友人もいない中必死で勉強とバイトで家を開けがちになってしまったが、姉は必死だったから弟の事まで考えられなかった・・自分も友人と離れたのだから、弟も友人と離れて寂しい事に。
気が付いた時には、自室で男と一緒に・・いた。男は大人だった。援交だと、姉は即座に知る。
姉は目眩で目の前が真っ暗になった。
同人とか、アニメとか、ノベルとか、そんな話で聞いたことも見たこともあるが、まさか弟が?
だが落胆、悲観している場合では無い。瞬時に頭を切り替えると、男を携帯で写真を取り、
「はい、証拠。携帯を取り上げてもデータは他に転送した。嘘だと思うなら、この携帯を壊してみろ」
そしてそばに落ちている男の鞄から名刺をひったくり、
「2度と弟に近寄らなければ、写真を『ばら撒く』事はしない」
男の服を2階から放り投げる。男は慌てて姉に近寄るが、姉は鞄から男の携帯を握った。
「これ、預かる。弟の写真や住所、全部を消したら名詞の会社に送って返す」
男が反撃しようとしたが、姉は冷静だった。窓から身を乗り出して大声で叫んだのだ。
「だれかーー!!だれかーーーー!!変態ですーーー!!」
そして男に振り返り、ニヤリと笑ったのだ。恐ろしいほど豪胆で、頭が回る。
「今から警察を呼ぶよ。どうする?」
男はもう逃げるしかなかった。玄関でもたもたと着替えると、駅の方へと駆けて行ってしまうのを見終えると、窓を閉めてカーテンを引き、ベッドにいる弟には目もくれず、姉は階段を降りていく。
そして、仏壇の前で号泣したのだ。
「おとーさんおかーさんごめんなさいぃ、おとーとをちゃんとそだてられなかったぁ!!」
あの時弟である彼は、なにを今更と思った。俺を一人にしてたくせにと。
でも大人になって、姉が自分にどうしてくれていたのかが、だんだんと分かると・・・
もしも自分が姉と同い年だっとして、同じ事が出来ただろうか。多分出来なかっただろう。
両親の保険金を、親類達に持って行かれ、途方に暮れたに違いない。
大人になっていくにつれ、彼は姉の頼もしさ、有能さに憧れた。
いつしか姉に、家族以上の愛情を感じるようになった。彼は元来、禁断の愛にハマる質だ。
姉が男だったら、いや、他人だったら。男でも女でもどっちでもいいから、そう思った事は何度もあった。
でも姉は流石に姉弟での恋愛は拒むだろう。出世にも関わる。人生まで壊すのは、彼も不本意だ。
手に入らないなら、姉として側にいてくれるだけで我慢する事にした。
もちろん姉にも恋人らしき男が、何人か出来そうな雰囲気になったこともあるのだが、弟がゲイと知るとお流れとなった。彼も積極的に邪魔をしたものだ。
その姉と、転生した。
同じ貴族で、他人だ。
俺は、姉を手に入れる事が出来る。身体は赤の他人だが、姉の魂を手に入れたい。
手に入れられなくても、姉の従者だ。ずっと側にいる努力をするだけだ。
弟は・・・ニヤリと笑った。
今姉と話をして分かったが、まだしっかりと前世の記憶が戻っていないようだ。
姉は知らない。彼は、姉と仲直りしたあたりで・・バイになっている。
というか、ゲイからも離れている。バイというよりはノンケ寄りというところか。
この世界に転生して、彼は21歳、5歳年上だ。姉は16歳、まだ記憶が戻ったばかり。
彼の方は記憶は既に鮮明に戻っていた。今は彼の方が人生経験がある分優位である。
さあ、俺は姉の弟だ。有能な因子はちゃんと持っている。
弟・・いや従者アルス、伯爵子息として今から動く事にした。
姉・・イルミネ侯爵令嬢・・次女だから家から出る事になる。早く婚約を申し込むのだ。
その後は、彼にぞっこんになるようにすれば良いのだ。
『その手』の技は、姉と違って『お勉強』している。
姉と弟の禁断の恋愛?いやいや。
生前姉は、『幼馴染と俺が入れ替わって恋に落ちました!』なんてノベルを読んで面白い!って言ってたクチだ。
なあに、禁断の蜜の味、姉にも存分に堪能してもらおうか。
表の顔、従者はにこりと微笑んだ。
弟が邪な思いを膨らませている時、姉といえば・・・
ああ、アルスは弟だったのね。
でも、彼をずっと好きだったのよね、元の私。
・・・・・・。
中身が弟になってしまったから、アルスに近寄る男の人に気をつけなくちゃ。
アルスは元の弟よりもイケメンだから、すぐに引っ掛けちゃうわ。
まあ、私が側にいれば良いかしら。
元の世界でも、私の彼氏(候補)は弟を見ると惚れてしまって、ちょっかいを掛けようとしたものね。
あの頃もかなり『フェロモン』放つ子だったもの。彼らには制裁として降格したり、取引やめたりしちゃったけど。
私が守ってあげなくちゃ。
今度こそ、私が守る。
・・・・・・。
というか、離したくないというか。
私ったらブラコンかも。
・・言えないわ。
弟が、この世で一番大事だなんて。
独占欲がヤバイわね。
弟に知られたら、嫌われちゃうかしら。
さあて、姉と弟、この後どうなるのかは・・・神のみぞ知・・・りたくないそうです。
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。
ほぼ毎日短編を1つ書いてますが、そろそろ忙しくなるかな。随時加筆修正もします。