第6話 廃墟の戦闘
「何の御用ですか?」
目標建物の敷地内に入った途端、無人のはずの建物から警備員風の男が三人現れた。
全員ダークグレイの制服に身を包み、右腰に長さ一メートル程の金属製の警棒を下げていた。
よく見ると、砂色の頭髪からは狼を思わせる耳が生え、アクアマリンのような瞳の奥で白い光の輪がくるくる回転していた。おまけにみな同じ顔だ。
ヒューマノイドの警備員は珍しくないが、俺は彼らに違和感を感じた。
〈なぜ人間がいないんだ?〉
通常、警備業務ではヒューマノイドは人間とコンビを組む。
確かにヒューマノイドは腕っぷしは強いが、人工知能基本法の制約で、人間を傷つけることができない。
だから人間がその弱点を補う必要があるのだ。
「ここの工場の所有者に頼まれて建物の点検に来た。通してもらうよ」
影森社長が口から出まかせを言った。
俺は社長を見直した。なかなかどうして修羅場慣れしている。
「あ~、悪いね」
ユウマが砂色の獣耳のヒューマノイドたちを押しのけて建物の中に入ろうとした。
「このヒューマノイド、ロシア製のT二六型、軍用です」
シェパードが低い声で唸った。
本来、日本にいてはいけないヒューマノイドだ。
「なんだって」
動揺する影森社長の甲高い声が後ろから響く中、軍用ヒューマノイドが滑らかな動きでユウマの頭部に警棒を振りおろした。
軍用と民生用の一番の違いは人間に危害を加えることができるか否かだ。
軍用ヒューマノイドなら敵と識別した人間を殺すことができる。
「けっ!」
ユウマは太った身体からは想像がつかない素早い動きで、ヒューマノイドに組み付いた。
頭部を一撃するはずの警棒は間合いを潰され分厚い脂肪に覆われたユウマの背中を叩いた。
ユウマは相手の攻撃にひるまず、軍用ヒューマノイドを抱えあげ後方に反りかえり、後頭部から地面にたたきつけた。
〈フロントスープレックス!〉
ストリートファイトで、こんなプロレス技を見たのは初めてだった。
「!」
他人の様子に目を奪われている場合ではなかった。
軍用ヒューマノイドは三体。
うち一体が警棒で俺の首筋から鎖骨の辺りを狙ってきた。
ヘルメットを避けて相手にダメージを与えるにはいい場所だ。しかし。
甲高い金属音が響いた。
俺は右腕を頭上にかざし、敵の攻撃をはじいていた。
そのまま、前に出て左拳を相手の右脇腹に叩き込んだ。
コンクリートの壁でも殴ったような衝撃が拳、手首、肘、肩を襲った。
俺は奥歯をかみしめて痛みに耐えると、相手の顔面に向け、今度は右ストレートを放つ。
超硬合金製の拳が相手の顔面にめり込み、何かが砕けるような感触が右肩に伝わってきた。
相手は俺の攻撃の衝撃でぐらついた。人間ならこれでジ・エンドだ。
しかし、軍用ヒューマノイドは顔面を破壊されながらも、ひるむことなく左の中段回し蹴りを俺の右脇腹に放った。
俺は慌てて右腕でその蹴りをブロックする。
右腕ならヒューマノイドにもパワー負けしない。
俺は警棒を左手に掴んだ。
こいつで頭部に電撃を喰らわすことができればヒューマノイドの電子頭脳は機能を停止する。
ただバッテリーが貧弱なので長時間スイッチを入れ続けるわけにはいかない。
とどめの一撃、切り札的な使用に限られる。
「こんなの聞いてないぞ!」
影森社長がシェパードに守られながら、言っても仕方のないことを甲高い声で喚いていた。
〈いいから、戦闘に参加しやがれ!〉
「いててててて」
ユウマは投げた相手に馬乗りになりマウントポジションをとっていたが、下から腹部の余ったぜい肉を鷲掴みにされていた。
ロシア製の軍用ヒューマノイドの握力がどれくらいあるのか知らないが、どうせ馬鹿げたパワーに違いない。地味だがとても痛そうだ。
おまけに余った片方の手は警棒を無茶苦茶なスピードで振り回し、同じく警棒を振り回して防御するユウマにじわじわとダメージを与えていた。
「うっ!」
人の様子を見ている場合ではなかった。
顔面を破壊されたヒューマノイドが、俺の左脇腹に警棒の一撃を叩き込んできた。
俺は慌てて警棒で受けたが姿勢を崩された。
ここぞとばかりにラッシュをかける相手の攻撃を右の義手と左の警棒で必死に受けとめる。
どうも俺の右手が普通ではないことを学習したらしく、攻撃が身体の左側に集中し始めた。
「くそ!」
じり貧になるとわかっていたが、俺は後退せざるを得なかった。
「こいつめ!」
甲高い声がした。
影森社長がシェパードに掴みかかろうとする軍用ヒューマノイドに警棒で殴ろうとしていた。
しかし、攻撃が当たる気配が全くない。
やっぱり予想通りお荷物だ。
一方、シェパードと軍用ヒューマノイドのスピードはほぼ互角だった。
ただ、パワーには差があった。当然パワーが上なのは軍用の方だ。
距離を取ろうとするシェパードに対し、軍用ヒューマノイドは距離を詰めようとし始める。
はっきり言って俺たちは劣勢だった。
このまま戦い続ければ、疲れを知らない軍用ヒューマノイドの勝利は確実だ。
「レイチェル!」
俺の指示を聞いてくれるかどうかわからなかったが、俺は車の中で待機しているレイチェルに助けを求めた。
ヘルメットについている通信装置で俺の声はレイチェルにも聞こえたはずだ。
「ぐっ」
注意がそれた瞬間、相手の右上段回し蹴りを警棒で受け損なって、頭部に蹴りを喰らった。
衝撃でヘルメットが弾き飛ばされ体勢が崩れた。
地面を転がるヘルメットはへこみ、バイザーが砕かれていた。
ヘルメットをしていなかったら死んでいただろう。
ヘルメットで衝撃が緩和されたとはいえ、くらくらした。
ガードが下がり頭部が無防備になる。
〈やられる!〉
敵は俺の脳天に警棒を振りおろそうとした。
その瞬間、何かが空気を切り裂く音が響いた。
敵の軍用ヒューマノイドの頭部が破裂する。
そして、シリコンや金属やプラスティックの破片が周囲に飛び散った。
〈何だ? 頭が爆発した?〉
頭部を失った軍用ヒューマノイドは糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。
よくわからないが助かった。
「シェパード!」
周囲に視線を巡らせるとシェパードが片手で首を絞められていた。
俺はヘルメットが脱げた状態のまま、シェパードのもとに駆け寄った。
ヒューマノイドは首を絞められても窒息することなどないが、首の部分はボディを動かす配線が集中し、構造も脆弱だ。
俺は警棒を振りかざした。
相手は俺を迎撃しようと横蹴りを放った。
その瞬間をシェパードは見逃さず、相手の手首をつかんで横方向に体勢を崩した。
横蹴りの威力は死に、俺は相手の足をブロックしながら、渾身の一撃を軍用ヒューマノイドの頭部に放った。電撃のスイッチを入れながらだ。
金属製の特殊警棒の周囲に青白い光が小さな蛇のようにまとわりつき、軍用ヒューマノイドの頭部に当たって火花が散った。
「がっ」
軍用ヒューマノイドの目から光が消え、動かなくなった。
ゆっくりと地面に倒れたヒューマノイドの頸部をシェパードは渾身の力で上から蹴りつけた。
軍用ヒューマノイドの首はおかしな方向に曲がり、シリコンの皮膚が裂けて千切れた配線が顔を出す。
「シェパード! 建物の中へ!」
「菖蒲くん! 名栗くんは?」
シェパードを誘って建物へと駆け出した俺を影森社長が呼び止めた。
「社長とレイチェルで助けてあげてください」
ちらりと視線を送ると、ユウマは泡を吹きながら地面に組み敷いた軍用ヒューマノイドと警棒でどつきあっていた。
俺は泥仕合に巻き込まれるのが嫌だったので、後のことは社長とレイチェルに押し付けた。
社長はあてにならないが、レイチェルならきっと何とかしてくれるだろう。
警棒を油断なく構え、警戒しながら建物に入ると、立派な玄関ホールなどはなく、安普請のパーテーションのような水色の壁が狭い玄関を囲んでいた。
床のピータイルは所々割れており、天井の一部では蜘蛛が巣を張っていた。
照明はついていないので薄暗く、ほこりっぽい空気が淀んでいる。
「右だったな」
ガラス窓のはまったスチール製の扉が手前と奥に二つ並んでいた。
俺は手前の扉の窓から部屋の中をのぞいた。
「あれか」
部屋の中央部分に理科実験室に置いてあるような厚みのある大きな机が設置され、その机の上に銀色のスクール水着のような服を着せられた女性らしき人影が仰向けになっていた。
距離があり、薄暗いのでよくわからなかったが、恐らくあれが盗まれたヒューマノイドなのだろう。
扉を開けて中に入ろうとしたが鍵がかかっている。
「シェパード!」
「了解!」
俺とのコンビが長いシェパードは、たったそれだけの会話で、安っぽいスチール製のドアを蹴破った。
俺は床に散乱する発泡スチロールでできた梱包材のかけらを蹴散らしながら、机の上の人影に駆け寄った。
人影の頭上には、横になったまま画面を見ることができるように十九インチぐらいの大きさの液晶モニターがフレキシブルアームで設置されていた。耳元には指向性スピーカーも置かれている。
さらに人影の腰の部分からは充電用のケーブルも伸びていた。
どうも初期設定の準備中だったらしい。
人影は黒髪セミロングの小柄な女性で、ヒューマノイドであるはずなのに獣の耳がついていなかった。これは明らかに違法な仕様だ。ヒューマノイドはひと目でヒューマノイドと識別できるようにしなければならないと法で定められている。
ナカジマ重工が表沙汰にしたくなかったのは、ひょっとしてこれが理由なのだろうか。
「ん?」
薄暗い中、横たわる人影の顔をよく見ると、俺は胸が締め付けられた。
多少大人びてはいるものの、俺がよく知る少女にそっくりだったからだ。
「まさか……」
「起動しました。管理者を登録してください」
抑揚のない若い女性の声とともにヒューマノイドの目が開いた。
ヒューマノイドであるはずなのに瞳の奥で光のリングが回っていない。
人間と全く同じ目をしていた。黒目がちの優しい眼差し。
「ミヅキ……」
彼女は、そうつぶやいた俺の目をじっと見つめ返した。
たまたま似ているなどというレベルではなかった。
その女性型ヒューマノイドは俺が一方的に好意を寄せていた吉川ミヅキに瓜二つだった。
「どけ!」
男の怒鳴り声と銃声が響き、俺は背中を殴られたような衝撃を感じて膝をついた。
「カケル!」
シェパードが俺の背中側に移動したことが分かった。
恐らく銃から俺を守ってくれているのだ。
制服の胴体部分は防弾機能が高かったから助かったが、頭を狙われていたら終わっていた。
足音と銃声が響いた。
立ち上がって振り返り、シェパードの背中越しに見ると黒いスーツ姿の男が小型の自動拳銃を撃ちながら俺たちに迫っていた。
切れ長の眼に黒い瞳、高い鼻、短く刈り上げた襟足に長い前髪、よく整った顔だが、冷たい印象で、おまけに人に向けて銃を撃つことに慣れているように見えた。
手足が長く、恐らく身長は一八〇センチを超えているだろう。
シェパードが一気に間合いを詰め、男から銃を奪い取ろうと手を伸ばした。
男はその手を避けるように急に身を沈め、独楽のように回転した。
長く細い足が大きくしなり、男の踵がうなりをあげてシェパードの側頭部に襲い掛かった。
男の履いている黒い革靴は特殊な補強でもしてあるのか、ヒューマノイドであるシェパードを軽々と蹴り倒した。
「登録しました。次の管理者を登録してください」
抑揚のない女性の声が響いた。
一瞬そちらに目を向けた俺の頭部を頭上から降ってくるような上段回し蹴りが襲った。
かわしきれないと悟った俺は逆に前に出て両腕を十字に交差した。
当然、直接相手の蹴り足を受けるのは右腕だ。
「うっ」
痩せた身体からは想像がつかないほどの衝撃が俺を襲い、俺は膝のバネも使って身体全体でその衝撃を受け止めた。
俺が態勢を整えようとしていると、銃口が俺の頭部に向けられた。
「ちっ」
俺は反射的に右手を開いて銃口を遮る。
銃声が轟き、俺の右手で火花が散った。
そのまま右手を伸ばし、銃を相手の指ごと渾身の力で握りしめた。
嫌な音が響き、男の顔が苦痛で歪む。
〈勝った!〉
だが、俺の腹部に衝撃が走り、一瞬息ができなくなった。相手の前蹴りだ。
俺は腹を押さえて後退した。
「オレ……イ・テソンが管理者だ」
黒いスーツの男がミヅキにそっくりのヒューマノイドに顔を近づけて叫んだ。
「登録しました。次の管理者を……」
「管理者は以上だ!」
黒いスーツの男、イ・テソンは俺に握りしめられた指を押さえ、額に脂汗を浮かべて叫んだ。
指の骨が折れたのだろう。引き金を引くそぶりはまったく見せなかった。
「管理者登録を終了します」
「キム・ドンジェ、後は頼むぞ!」
再び立ち上がったシェパードを睨みつけながら、何者かに声をかけ、イ・テソンは後退した。
そして、恐らく指の骨が折れた右手から左手に、うめき声をあげながら銃を持ち換えた。
「敵味方識別情報を入力してください。まず、味方から」
こんな設定が必要ということは、このミヅキそっくりのヒューマノイドは軍用だ。
「入力は以上ですか?……では敵の情報をお願いします」
〈なんだ!〉
イ・テソンは、少し離れたところで左手で俺たちに銃を向けようとしていた。
それなのに、着々と設定作業が進んでいた。
俺はモニターが光を放ち、ミヅキそっくりのヒューマノイドの顔を照らしていることに気付いた。
恐らくあのモニターと耳元に置かれた指向性スピーカーを使って、別の場所にいる人間が情報を入力しているに違いない。
「次にターゲット情報を入力してください」
俺は右手を頭の前にかざしながら慌てて立ち上がった。
設定作業を終わらせてはマズいと思った。
銃声と衝撃を感じたが突進し、モニターのついたフレキシブルアームにとりついて、方向を変える。モニターの画像が俺の眼に一瞬入って消えた。
見えたのは、どこかで見覚えのある黒いセルフレームの眼鏡をかけた角顔の男の画像だ。
〈誰だ?〉
「生きてっか! クソチビ!」
荒々しい足音が響き、ユウマと社長とレイチェルが部屋の中に入ってきた。
俺はユウマのことを常々いけ好かない野郎だと思っていたが、この時ばかりは頼もしかった。
「初期設定終了」
ミヅキそっくりのヒューマノイドの静かな声に俺の背筋は凍った。
イ・テソンの口元が一瞬歓喜に歪んだように見えた。
「M2、スタンダップ!」
イ・テソンの声を受けて、机の上に横たわっていたミヅキそっくりのヒューマノイドが音もなく優雅に立ち上がった。
腰に充電ケーブルをつけたままだったが、小柄で均整の取れたプロポーションで、驚くほど姿勢がよかった。
「何、この子、すっげーかわいいじゃん。早く連れて帰ろうぜ」
ユウマが目を輝かせ、荒い息を吐いている。下衆な欲望にあふれているようにしか俺には見えなかった。
〈前言撤回、やっぱりクソ野郎だ〉
「警備用のヒューマノイドはどうしたんだ」
イ・テソンはこれ見よがしに拳銃を顔の横でチラつかせながら、新しく現れた三人に静かな声で質問した。
「残念だったな、俺たちが全部片づけた」
影森社長が偉そうに答えたが、多分彼は一体も片付けていない。
「やはり、型落ちの中古品はダメだな」
イ・テソンは、さほど驚く様子もなく、自嘲気味につぶやいた。
「逃げられませんよ」
レイチェルの声は優しかったが、有無を言わさぬ迫力が感じられた。
「お前たちがな」
気味の悪いことにイ・テソンからは絶対的な自信が感じられた。
「けっ、馬鹿が!」
「二対五だ。勝ち目はないぞ」
そう言ったもののユウマも影森社長も表情に余裕がなかった。何か不穏な空気を感じているのだろう。
「シェパード! ミヅキ……いや、目標のヒューマノイドを確保だ」
俺も正体の分からない不安に駆られながらシェパードに指示を出した。
「了解」
「味方のヒューマノイドが全滅ということであれば躊躇する必要はないな」
〈なんだ、こいつ、何をする気だ〉
「M2、電磁パルスだ」
「なっ?」
「レイチェル逃げろ!」
イ・テソンの発言の意図に真っ先に気付いたのは影森社長だった。
彼はレイチェルを庇うように両手を広げた。
「はい!」
レイチェルは出口に向かって一目散に駆け出した。
「イエス、マイ、マスター」
ミヅキそっくりのヒューマノイドの目が怪しく光る。
俺の左腕の携帯端末が熱を帯び、火花が散った。
右腕が急に重くなり、指先が動かなくなった。
ミズキそっくりのヒューマノイドを確保するため彼女の腕を捕ろうとしていたシェパードはそのまま転倒して動かなくなった。
「レイチェル!」
影森社長の悲痛な声が響いた。
視線を返すとレイチェルも床の上に倒れて動かなくなっていた。
「キム・ドンジェ、引き上げるぞ!」
イ・テソンの声に応じて、小柄で丸ポチャの眼鏡をかけた青い作業服姿の男が隣の部屋から恐る恐るといった様子で現れた。
「これで三対三だ。まもなく三対〇になるがな。M2、こいつらも片付けろ」
イ・テソンは、嗜虐的な笑みを浮かべた。
俺は咄嗟に身構えた。
ミヅキそっくりのヒューマノイドは俺たちに襲い掛かるわけでもなく悠然と立っているだけだった。
だが……
「くはっ」
「がっ」
ミヅキそっくりのヒューマノイドに見つめられた影森社長とユウマが頭を押さえて膝をついた。何が起こっているのかよくわからないが見えない力で攻撃されているらしい。
「やめろ! ミヅキ! 殺すな!」
俺は思わず叫んでいた。
悲痛な思いで見つめる俺を、ミヅキそっくりのヒューマノイドは不思議そうな表情で見つめ返した。
「カケルくん?」
俺の周りが一瞬静寂に包まれた。
その声はミヅキそっくりだった。
おまけに何で俺の名前を知っている?
困惑の渦に巻き込まれていた俺の耳が、次第に大きくなってくるパトカーのサイレンの音をとらえた。
「長居は無用だな」
イ・テソンは俺に銃口を向けた。
俺は咄嗟に左手で右腕を持ち上げ、頭部を庇った。
銃声が立て続けに響き、俺は、みぞおちに殴られたような衝撃を感じて膝をつく。
「ミヅキ……」
激痛で意識が遠のいた。
遠ざかっていくミヅキそっくりのヒューマノイドの背中が見える。
「行くぞ」
イ・テソンたちは、ミヅキそっくりのヒューマノイドを連れて慌ただしく部屋を出て行った。
後には身動きのできなくなった俺たちだけが残されていた。