8話 波乱の体力測定
ランキング投票、ブクマよろしくお願いします!
体力測定の残る種目を順調に終えた私は、あとはハンドボール投げを残すのみとなっていた。
私はサークル内に小型の投石機を建築すると、ハンドボールをセットして──。
──発射した。
文明の力によって放たれたボールは軽くアンリの頭上を超え、忘却の彼方へと──。
私は両目を瞑りドヤ顔し──た所でアンリに叫ばれた。
「うおぉぉい! 何やっちゃってんのさ! 才能の使用は禁止だよ!? さっきからずっと使いっぱなしじゃん!」
そう、私は先程からずっと才能を使ってズルしていた。
アインが使っているなら私もと思い、更には先生がアインが才能を使わないよう監視に付いているため、私は迷わず才能を行使した。
しかし、先程からアンリがずっと邪魔をしてくる。
どうして私に悪い記録を出させたいのだろうか。
私は釈迦ポーズをとり神仏スマイルを浮かべ、手にミニサイズのお釈迦様を建築し──。
「アンリさん、日本には古来から、こんな言葉があります。『才能も実力の内』と……」
「才能じゃなくて運ね! てか、そうじゃなくて! 才能の使用は禁止! ほら、気持ち悪いことしてないでやり直して!」
優しく告げている途中に遮られた。
悟りを開いた私に向かって気持ち悪いとは何事か。
男性の陰部の形をした鏡山道祖神でも建築して押し付けてやろうか。
そうこうしている内に、いつの間にかアインもハンドボール投げを開始していた。
むぅ……。
アインならワームホールを使って数十メートルは余裕で出すだろう。
全く、才能を使ってズルするなんてけしからん。
ここは私がガツンとやってやらねば……。
船坂先生と私たちが見守る中、アインは大きく振りかぶって──。
「行っちゃえい! ワームホール!!」
目の前にワームホールを呼び出しそこに投げ入れた。
そして、ボールはグラウンドの端に繋がれたワームホールから現れた。
「はい、やり直しでありますよ」
新しいボールを渡しながら、アインが先生に小突かれた。
アインは口を尖らせながらも渋々ボールを受け取り……。
再びボールをワームホールに投げ入れ──
「壁を建築!」
「ッ!?」
──ようとして、私が建築したコンクリート壁に阻まれた。
壁にぶつかり跳ね返ったボールは、重力に引っ張られ落下し、結果は1mとなった。
「はいざまぁ! 1m! 1mじゃん! 才能使ってズルしようとするからこんな結果になるんですぅ!」
「どの口が言ってんのさ……」
アンリが小さくつっこむ中。
「よくもやってくれたわね! これでも喰らいなさいな!」
アインはそう叫ぶと、ワームホールを手元に呼び出し、そこに手を突っ込んで……。
「ああああああああああああ!」
私の脇をくすぐった。
「あひゃっ! ちょっ、やめっ! ふひっ!」
目に涙を浮かべ、地面をのたうち回り叫ぶ私に、アインの容赦ない攻撃が続く。
ちょっ、ほんとにやめて!
くすぐったい!
「ざまぁみなさいよ! これが偉大なるアインシュタイン様の実力よ! 私を侮辱したらどうなるか、よく覚えておく事ね! このまま失禁するまでくすぐり続けてあげるわ!」
アインが悪役の笑みを浮かべながら、私をくすぐり続け、アンリがそれを見て溜息をついていると。
「アイン殿、ガウディ殿、そろそろ真面目にしないとどうなるか……分かっているでありますよね?」
若干キレ気味の先生が真顔で私たちに告げてくる。
だが……。
「残念ながら私たちは権力なんぞには屈しないのだ! いつまでも私たちは才能を使い続けるよ!」
「そーだ、そーだ!」
アインの宣言に同調した私は、アインと見つめ合い笑い合うと……。
「それでは、2人は体育落単ということでありま──」
「よし、ガウディ。そろそろ真面目にやろうか」
「だね、アイン。体力測定に才能なんて不要だよね」
光速を超えた掌返しに、アンリと先生が溜息をついた。
先程から溜息ばっかり失礼じゃなかろうか?
私はそう思いながらも、ボールを手に取り投げる準備を始めた。
ふと視線が移った先に、グラウンドで地面に寝転び眠りこけるヒトラーの姿があった。
ヒトラーはどこでも寝れるんだなぁ……。
流石に風邪をひくだろうと思いながらも、無視して大きく振りかぶり……。
私が投じたボールは、落下地点にいたアンリの頭に直撃した。
「ッ!? アンリごめん、大丈夫!?」
頭にボールが直撃し、倒れ込んだアンリの元に、私は急いで駆け寄った。
しかし、当のアンリは。
「あはは、大丈夫だよ。ちょっと痛かったけど、まだまだだね。もうちょっと強くてもよかったかな」
才能を使い、自分で傷を癒しながら、笑顔のアンリがそんな事を……。
……まだまだ?
アンリはいったい何を言っているのだろうか。
ボールがぶつかった衝撃で頭がおかしくなってしまったのだろうか。
「アンリ、頭がおかしくなったみたいだから、保健室に連れて行ってあげるよ」
「なに真面目な顔して辛辣なこと言っちゃってくれてんのさ。私の頭はおかしくないよ」
裾を払い立ち上がりながら、アンリが答えた。
「ささ、記録を測れなかったから、もう一度投げて来てね。今度はもっと強くね」
アンリに背中を押され、無理矢理投げる場所まで連れていかれた私だが、どうにもアンリの言っていることが理解できない。
もっと強く、とはどういうことだろうか。
若干……いや、かなり疑問に思いながらも、私は再びボールを握り。
全力で放り投げると……。
またしても、アンリの頭に直撃した。
「アンリィィィ! ほんっっと、ごめんね!!」
また自ら傷を癒しているアンリに、私は再び急いで駆け寄ると……。
「はぁはぁ……あ、ガウディ。今回のはなかなか痛かったよ。もう一度お願いね。まだまだ強くていいからね」
アンリは顔を紅潮させ、温かい息を吐いていた。
あぁ…………。
私は分かってしまった。
私はアンリの性癖を見抜いてしまった……。
アンリはあれだ。
ドMだ。
「……アンリ、頭が悪いみたいだから、保健室に行こうか」
【偉人紹介8 アンリ・デュナン】
〈作中〉
肩口までの銀髪を持ち、額と服に赤十字が記された、クラスで1番背が低い女子。
純白のナース服を着用している。
才能で治せるためか、痛いことが大好きなドM。
マイブームは、タンスの角に小指をぶつけて治療する、マッチポンプ。
〈才能〉
どんな傷でも癒すことが出来る。
死者の蘇生は不可能だが、息さえあれば傷の大小は問わない。
怪我の度合いが大きい程、治すのに時間がかかる。
保険教師のナイチンゲール先生も同じ才能。
〈史実〉1828~1910
スイスの実業家で、国際赤十字社を創設し、「赤十字の父」と呼ばれた。
それにより、第1回ノーベル平和賞を受賞した。
赤十字社の父と呼ばれ、彼の誕生日である5月8日は、「世界赤十字デー」となっている。