53話 落雷
「あのあの、ガリバルディさん、いつまで逃げるんですか?」
私に手を握られ引っ張られるヒトラーが、一生懸命ついてきながら聞いてくる。
いや待て、私はガリバルディじゃなくてガウディなんだけど。
「私はガウディよ。ビスマルクたちを適当に敵陣地から引き離して、倒すか倒されるかしようと思ってるんだけど……」
筋骨隆々な肉体のビスマルクが、時折石や巨木を投げてくるのを躱しながら、私は答えた。
「でもでも、これって試験なんですよね? 先生たちが見てるんですよね? 成績は大丈夫なんでしょうか……?」
なるほど。
ヒトラーの言うことにも一理ある。
「しかもしかも、これってインクを撒き散らすイカのゲームみたいに、通った土地の面積で得点が加算されるんですよね? だったら、私たちが今通った土地を、後ろの人達が上塗りしてるので……」
あー……それもそうだな……。
私は足を止めることなくどうやって倒すべきか、そもそも倒せるのかを考えた。
ビスマルク1人でも仕留めきれなかったのに、本多光太郎まで居るとな……。
その時、唸りながら走る私の視界が、急に暗くなっていった。
思わず足を止める私たちは上を見上げると、いつの間にか黒い雲が空を覆っており、雨でも降り出しそうな雰囲気だった。
ビスマルクたちも空を見上げ、慌てたように退散していった。
なぜ奴らは逃げていったんだ?
もしかして、私たちの才能だと勘違いでもしたのかな?
ゴロゴロと雷鳴を轟かせる黒雲を見上げていると、蹄の音が森のほうから聞こえてきた。
木々の隙間から出てきたのは、愛馬の赤兎に股がったアンリなどなど、試験開始直後に突撃していったクラスメイトたちだった。
「お、ガウディじゃん。こんなところで何してんの?」
「なにしてんのはこっちのセリフよ。それより……」
それよりも、ドMの癖に三角木馬に股がっておきながら顔を赤らめないアンリの方が気になるのだが……。
病気にでもなったのだろうか。
これ以上おかしくなったらもう絶望的だろう。
「……? なんなのさ、可哀想な目で見てきて。それより、ここにいたら危ないよ。敵に追いつかれる前に逃げないと」
アンリが来た方向を指さしながら、拠点の方角へ戻るよう促してきた。
「敵? 敵ならさっき逃げてったけど? そいつらは本多光太郎とビスマルクだよ。今後の参考にね」
アンリたちについて行きながら、私は先程得た情報を話し始めた。
「それが誰だか知んないけど、その人たちは天気に関係ある?」
アンリが曇天を見上げながら聞いてきた。
やはりこの才能は敵の偉人が行ったものか……。
なら、ビスマルクたちは誰の才能か、どんな才能かを知っており、その上で逃げていったと……。
もしかして……めちゃくちゃ強いやつ?
「ビスマルクと本多光太郎は気象学にあまり関係ないと思うよ。気象学なら……」
私がそこまで言った時、私の目の前を歩いていたヒトラーに、雷が直撃した。
「なっ! ヒトラー、大丈夫!?」
衝撃で吹き飛ばされた私が直ぐに駆け寄り抱き上げたが、ヒトラーは無傷のまま驚いていた。
「えっ、なんですか今の? 何が起きたんですか?」
ヒトラーには認識外の攻撃は効かない。
なら問題ない、無事だな。
私が上空を見上げてみると……。
空に浮かぶ1つの人影が見えた。
「やっと見つけたました。先程から逃げてばかりの貴方達」
女性の声で上から聞こえて来る声を聴きながら、私の目はその女性が振り下ろす右手を追っていた。
その右手が振り下ろされた時、私たちの周囲に幾筋もの落雷が地を穿った。
「存じます。あなた方はここで死ぬと」
【偉人紹介18 本多光太郎】
〈作中〉眼鏡をかけた平凡な男。
ビスマルクの才能の相性が良いため一緒にいることが多い。
敵と真正面から戦うことが好き。
〈才能〉
鉄製品なら、なんでも生成できる才能。
主に、攻撃用の剣、防御用の鎧や盾などを生み出す。
もう一つは、二物体間に磁力を働かせる才能。
ニュートンと似た才能ではあるが、磁力の大きさは格段に劣る。
引力と斥力を使いこなして、剣で攻撃する戦法を取っている。
〈史実〉1870~1954
「鉄の神様」と呼ばれた科学者。
日本人初のノーベル物理学賞の候補に上がるも、受賞は逃してしまう。
1917年に、世界最強の永久磁石のKS鋼を発明する。
その後、KS鋼を上回るものが発明されるも、1934年、KS鋼の4倍近くの強さを持つ新KS鋼を発明し、再び最強の磁石を生み出した。
「今日のことを今日できない者は、明日のことがまた明日できないのです」




