51話 変質
飛びかかってくる男の胸に、私は建築したナイフを投げつけた。
私の素晴らしい投擲術により、そのナイフは寸分違わず男の乳首に命中した。
男のHPバーがやや減少し、攻撃を受けグラついたところを、建築した槍で正中線上を的確について追撃した。
男は後ろによろけながら、攻撃を受けた箇所からダメージエフェクトを散らした。
私は後ろに飛んで距離をとり、鎧男を閉じ込めた部屋を指さし、ヒトラーの元によって耳元で囁いた。
「いま、私が1人あの箱の中に閉じ込めてるの。もう1人が最後の敵なんだけど、ヒトラーの才能で相手の名前と才能を見抜いてくれない?」
「分かりました、了解ですっ!」
立ったままウトウトしていたヒトラーは、私に言われて目を覚まし敬礼した。
私はヒトラーの才能で視線を合わせて思考を読み取って貰うまで、牽制でナイフを投げ続けた。
高確率で命中するナイフ群から、敵は逃げることなく距離を詰めてくる。
敵はナイフを避けることなく突っ込んでくるが……それだと直ぐにHPが削られてしまうぞ?
何も策が無いのに突っ込んで来るか?
私は目を凝らして敵のHPバーを見てみると、一撃あたりのダメージが最初より確実に減っていた。
どういうことだ?
なぜ一撃のダメージ量が減っている?
まさか、相手の防御力が上がっている?
だとしたらなぜ?
私の頭をいくつかの疑問が駆け抜けながら、確認のためにナイフを投げるが、敵のHPバーはやはりミリしか減らなかった。
そして私がもうひとつ気づいたことは、先程投げて命中し刺さっていたナイフが、やはり消えている。
ナイフを消し、自己を強化する才能?
それはいったいどんな偉人なんだ……?
敵が私たち二人に近づいたとき、ヒトラーが大きな声で叫んだ。
「分かりました! あの人の才能は鉄血政策、っていうやつです!」
鉄血……政策…………。
そうか、そういうことか!
私の中で全てがひとつに繋がった時、距離を詰めた敵の放った拳が私の目の前に飛んできた。
私は前後にスポンジの壁を建築すると、後ろに飛んで衝撃を減らしつつ体勢を直した。
「どうやって俺の才能を解したか知らねえが……さっさと朽ちてもらうぜ」
男は殴りつけたスポンジの壁を投げ捨てながらそう言うと、構えをとった。
その体は明らかに会った時とは違い、固く変質していた。
恐らく、才能で肉体を変質し強固にしているのだろう。
明らかに人間のそれではない肉体になっているが、そこまで強化できる才能か。
私は余裕を持った風に演じ、ヒトラーを指さしながら敵の男ブラフを吐いた。
「彼女の才能は全てを把握する才能でね。全知なのよ。隠されている事だって直ぐにバレるから無駄よ、ビスマルクさん?」
私にビスマルクと呼ばれたその男が、一瞬だけ眉をひそめたのを私は見逃さなかった。
やはりこの男はオットー・フォン・ビスマルク。
ドイツの宰相で鉄血政策を打ち出した人物。
才能は恐らく、『鉄や血を消費して自己を強化する』ものだろう。
私が投げた鉄製ナイフが消え、敵が攻撃を受ける度に硬くなったのはそういうことなのだろう。
「まあいいさ。たとえ俺の才能がわかったところで、お前らに俺を倒すことはできない」
「それはどうかしらねー。まだこちらには隠してる技があるかもよ?」
更に肉体を変質させ硬化させるビスマルクに、私はまたしてもブラフを吐いて相手を焦らせることにした。
確かに相手の言う通り、才能は相手の方が有利だ。
だが、こちらの情報を漏らさねば、いつかは好機が生まれるかも……!
鉄剣を建築し構える私に、戦闘系の才能を持たないため少し離れたところにいるヒトラーが呼びかけてきた。
「ガウディさーん、頑張って倒してくださいねー!」
どうして名前を言うんだあああああああああ!!
私は背を向けたまま、残念な頭のヒトラーに頭を悩ました。
「ガウディさーん? もしもーし、聞こえてますかー? もしもーし、アントニオ・ガウディさーん!?」
なぜか私の名前をフルで連呼するおバカなヒトラー。
もうやめてくれ……やはり私がフラグを建ててしまったのが悪かったのか……。
「おい……ガウディとやら。なんか呼ばれてるぞ。応えてやれよ」
終いにはビスマルクにも気を使われる始末。
もうお終いだ……私の才能も予測されて負けるかもなあ……だとしたら、せめて相打ちに……。
「ところでアントニオ・ガウディってどんな偉人だ? プロレスラーか何かか?」
痛む頭を抑える私に、答えるわけもないのに何故かビスマルクが聞いてきた。
…………こいつもバカでよかった!




