4話 眠り姫 アドルフ・ヒトラー
〈クラスメイトおさらい〉
アークライト
アドルフ・ヒトラー
アルフレッド・ノーベル
アントニ・ガウディ
アンリ・デュナン
伊能忠敬
沖田総司
ジャンヌ・ダルク
ジョシュア・エイブラハム・ノートン
グロリア・ラミレス
面白ければ感想などよろしくお願いします!
桜が舞い散る春のグラウンド。
そんな幻想的な情景に、突如として轟音が鳴り響いた。
「何やってんのよおおおおおお!」
教室で眠るヒトラーの元にダイナマイトを置き、それを校舎ごと爆発させてしまったクソ爆弾の肩を、私は掴んで揺さぶった。
「ままま、待て建築娘! 俺のダイナマイトが勝手に爆発する訳ないだろう!? これはおかしい!」
おかしいのはあんたの頭よ!
私に揺さぶられながらクソ爆弾が抗議するが、他の生徒達は吹き飛んだ校舎を呆然と眺めていた。
いや、生徒だけでは無く、船坂先生までもが呆気に取られ眺めていた。
しかし、校舎と言っても、各クラスごとに校舎分けされているため、被害者はヒトラー独りだけだろうが……。
今日友達になったばかりのヒトラーと、だった数時間で別れてしまうことになるなんて……。
「い、いったい、何事でありますか……?」
呆然と眺めていた船坂先生が、気を取り戻したように呟いた。
うちのクソ爆弾がやらかしました、すみません!
私はヒトラーの安否を確認するべく、校舎跡地へ向かって駆けだし、
「クソ爆弾、あんたも来なさい これはあんたの責任なんだから!」
私がクソ爆弾を無理やり引っ張っていくと、渋々と言った表情で付いてくる。
「アンタねぇ! ヒトラーになんてことしてくれんの!? ホント頭おかしいわね!!」
「だ、だっておかしいだろ!? ダイナマイトは火をつけなきゃ爆破しないだろ!? よって俺は悪くない!」
「黙らっしゃい! ダイナマイトなんて危険物を意味なく放置した時点でアンタはクソよ!」
私がクソ爆弾の腕を掴んで引っ張りながら説教するも、クソ爆弾は全く反省の素振りを見せない。
「おーい、ガウディ! 私も行くよ。もしヒトラーが生きてたら、私の才能で少しは治療できるからね」
声のした隣を向くと、アンリが私と併走していた。
やはりアンリは赤十字社を組織しただけあって、治療系の才能を持っているようだ。
私はアンリに頷くと、3人で校舎に向けて駆けて行った。
お願いヒトラー、無事でいて──!
「──生きてるね」
「ほら、生きてるじゃん。俺言ったじゃん」
「言ってないでしょ、黙ってろクソ爆弾」
私たちが校舎跡地に着くと、瓦礫に埋まり、傷ひとつない気持ちよさそうな笑顔でスヤスヤと眠るヒトラーが居た。
「んん……むにゃむにゃ…………ガウディ、人参は流石にその穴には入らないと思いますよ……」
赤い顔で馬鹿な寝言を口にしだしたヒトラーを、私は叩き起した。
「ヒトラー、起きて! ほら起きて! 大丈夫、怪我は無い!?」
私が寝起きのヒトラーに無事かどうかを尋ねると、虚ろな目をしたまま。
「えっと……何がですか……? ええっ、いつの間に教室が荒地に!? 」
立ち上がりオロオロしだしたヒトラーに向け、クソ爆弾が神妙な面持ちで。
「ヒトラー、先程まで見ていた夢の内容を詳しく」
私は、そこまで言いかけていたクソ爆弾の顔面を拳で殴り、地に埋めさせた。
「アンタはまずヒトラーに謝んなさい!」
「もーガウディ、私の手間を増やさないでよ……」
アンリがブツブツ言いながらクソ爆弾に才能で治療を施す中、私は気になっていたことをヒトラーに尋ねた。
「そういえば、クソ爆弾がこの爆発騒ぎを起こしたんだけどさ、ヒトラーはどうして無傷だったの?」
すると、再びウトウトし始めていたヒトラーは。
「あー、それはですね……ほら、ヒトラーって何回も暗殺計画を企てられじゃないですか? そのどれもを生き残ってきたから、私の才能は『認識外の攻撃を無効化する』っていうのもあるんです」
認識外の攻撃を無効化か……。
それで、寝ている間の爆破攻撃は受け付けなかったというわけか。
確かにヒトラーは何度も暗殺計画を企てられたが、どれも彼を死に至らしめることは出来なかった。
それなら、その才能はあっても当然かもしれない。
しかし、ヒトラーは視線を合わせた相手の思考を読み取れる才能と合わせて2つも才能を持っているのか……。
羨ましい限りだ。
私達がヒトラーの才能について聞いていると、爆発騒ぎを聞きつけたノイマン先生がやってきた。
「ちょっ、これはいったい何事ですか!?」
先生の叫び声に、私たちは。
「「「ノーベルがやりました」」」
「ノーベル君、今すぐ生徒指導室にいらっしゃい」
角を生やし、悪魔の暗い笑みを浮かべた先生が、再びクソ爆弾を生徒指導室へと連れていった。
「ねぇねぇ先生、いまから2人きりで何するんすか? 密室でエッチなことでもするんすか? ねぇねぇ?」
先生に引っ張られながらもセクハラするクソ爆弾。
これで、今日はアイツは生徒指導室に2回目だ。
全く……初日から懲りないヤツだ。
「それじゃ、私たちはグラウンドに戻りましょうか」
私がヒトラーとアンリに呼びかけると、2人は苦笑しながら頷いた。
3人でグラウンドに向かって歩きだそうとすると、私は先生に呼び止められた。
「あ、そうだ、ガウディさん。壊れちゃった校舎、新しく綺麗なのを建てておいてくださいね。ガウディさんはノーベル君と仲がいいみたいなので、よろしくお願いしますね」
「ちょっ、ちょっと待ってください先生! 私はそいつとは仲が悪いです!」
私が先生に抗議するが、クソ爆弾が。
「おい、なんでだよ! 俺たちは廊下で抱き合って激しい運動をした仲だろう!?」
「ちょっと止めて!」
怒られている最中に、また馬鹿なことを言い出したクソ爆弾は、先生に引きずられて生徒指導室に連れて行かれた。
……若干、嬉しそうな顔をしていたのは気のせいだろう。
「「それじゃ、あとは任せたよ」ましたよ」
ヒトラーとアンリは口を揃えて私に全てをなすり付け、グラウンドへと走って逃げていった。
「ちょっ、待って! 私ひとりに復旧させるつもり!?」
私の叫びに何も言わず走り去っていく2人を眺め、私は溜め息をついて膝から崩れ落ちた。
【偉人紹介4 アドルフ・ヒトラー】
〈作中〉
才能による安全の保険があるからか、いつでもどこでも寝るマイペースな性格。
あだ名は「眠り姫」。
身長も胸もガウディより小さいが、心はガウディよりも大きい。
〈才能〉
視線を合わせた相手の思考を読み取れる。
目を閉じられたら無効になるが、その隙に非力なボディブローをかますことが出来る。
また、認識外の攻撃は無効化される。
視覚や聴覚を封じていれば、実質無敵状態。
〈史実〉1889~1945
オーストリア生まれの、ナチス・ドイツの独裁者。
伍長から総統まで上り詰めた大出世人。
ユダヤ人などに対する大量虐殺を引き起こしたり、アウトバーンの建設などで多くの失業者を救ったりした。
彼への暗殺計画は、少なくとも42回企てられたが、彼はその全てを生き延びた。
「私は間違っているが、世界はもっと間違っている」