★3話 クラスの自称皇帝
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変態なノーベルが生徒指導室に連行され、教室に残された私たちは思い思いに遊んでいた。
私が机の上にミニサイズのホワイトハウスを建てて遊んでいると、隣の先のヒトラーに話しかけられた。
「さっきのノーベルさんの発言……最低な人でしたね……」
「ホントそれ。あいつの頭はダイナマイトだし、脳みそがつまってないのかもね」
ヒトラーは自らの体を抱きかかえながら、ドン引きの表情で鳥肌を立てていた。
私も同じ気持ちだ。
私たちがクソ爆弾の陰口を言い合っていると、気づけば教壇に立っていたノートンが。
「皆の者、我を見よ! 男子生徒を2人きりの密室に連れ込んだ、淫乱なノイマン先生がいない今、学級委員である我がこの場の指揮を執る!」
マントを翻しそう高らかに宣言するも、私たちは聞こえぬ振りをして遊び続けた。
ついでに、あらぬ風評被害を受けたノイマン先生も可哀想だ。
やはり痛い子ちゃんだ。
聞こえない振り聞こえない振り。
「き、聞き給え皆の者! …………これは勅令である! 我を見よ!」
ノートンが勅令と言って叫ぶと同時、彼の王冠が光り輝き、私たちの視線が強制的に自称皇帝に向けられた。
突然自分の視線を曲げられ、私も含め慌てる素振りを見せるクラスメイトだが、すぐに落ち着きを取り戻してそれぞれが元通りの会話を始めた。
「な、なぜ視線を元に戻すのかね諸君!」
ノートンが大きな声で抗議するも、誰も聞く耳を持つ様子が無い。
いいぞみんな、それでいい。
私がノートンの悲しそうな表情を見てほくそ笑んでいると、ヒトラーが。
「あ、あの……ガウディ……? なんか顔が怖いのですが……もしかしてガウディってかなり性格悪いのですか? Sだったりするんですか?」
するかも知れない。
私はノートンにバレないように手で隠しながら、視線を彼に向けた。
今私たちが視線を強制的に誘導させられたのは、自称皇帝の才能だろうか。
勅令と銘打って命令すると、相手はそれに強制服従されるといったところだろうか。
私は自称皇帝の才能について話し合おうとヒトラーに話しかけようとして……。
「すかー」
いびきをかいて寝るヒトラーの姿があった。
この子、こんな状況でも一瞬寝るなんてマイペースな子だなぁ……。
どこぞの、のび太くんより早いかもしれない寝付きの速さに、私は感服の思いだった。
ヒトラーが寝たことで暇になり、ミニサイズの凱旋門を建築しようとしていると、再び自称皇帝が叫んだ。
「さあ次の時間は体力測定だ! そこで、淫乱教師がいない今、我が皆を誘導しようと言う訳だ! さぁ、素早く着替えてグラウンドに集合するぞ!」
自称皇帝がそう叫ぶと同時にチャイムが鳴り、仕方がないといった感じで生徒たちは席を立った。
「さぁ、休憩時間は短いぞ! 女子は更衣室に行かねばなるまい? 時間がかかるだろうから急ぎ給え!」
自称皇帝のお節介に耳を塞ぎながら、私は体操服を手に更衣室へと向かった。
──更衣室への道すがら。
私は王様気取りの自称皇帝の痛々しさに胸が苦しいばかりだった。
高校生にもなってあんな痛い生徒と同じクラスになるなんて思いもよらなかった。
誰も反応してあげない自称皇帝は、大衆に支持された史実のノートンとは大分違うようだ。
更衣室に着き、私は制服を脱ぎ始めた。
そして体操服に着替えていると、いつの間にか隣に来ていた小さな女子が話しかけてきた。
「キミはガウディだっけ? 私はアンリ、よろしくね。そういえば……ヒトラーと仲がいいみたいだけど、ヒトラーはどこ?」
アンリと名乗った子は、肩口までの銀髪と、額に赤十字の印が刻まれている女の子だった。
さらに、制服ではなくナース服のような物を着ており、そこにも赤十字の印が付いていた。
アンリということは……彼女は恐らく、国際組織赤十字社を組織したアンリ・デュナンだろう。
私はその子にヒトラーについて聞かれたが……。
「こちらこそよろしくね。あぁ……ヒトラーは多分教室でまだ寝てるかな」
私は苦笑しながらそう返すと、アンリは。
「そっか、授業が始まるまでに起きるといいんだけどねぇ〜」
アンリさん、人はそれをフラグと呼ぶんです。
偉大なる建築家の私でも、フラグは建てないように気を付けているんです。
私たちは着替え終えると、グラウンドに集合した。
グラウンドには、旧日本軍の第三種軍服を着用している、先生らしき人物が立っていた。
チャイムが鳴ると、その先生が、
「私が体育教師の舩坂弘であります。む……生徒が2人足りないようでありますが?」
敬礼をしながら舩坂弘と名乗った。
舩坂弘と言えば、不死身の分隊長の異名を持つ、旧日本軍の兵士だ。
死んでもおかしくない傷を何度も負いながらも、それでも戦い続けた不死を感じさせる軍人だ。
船坂先生が、先生に怒られているノーベルと、教室で寝ているヒトラーの居場所を聞いてきた。
その時、校舎からクソ爆弾が走ってやってきた。
「すみません、遅れました! ちょっと着替えに手間取って!」
ぬけぬけとそんな事を口にするクソ爆弾に、先生は特に何も言わず、無言で頷いた。
そしてそのままヒトラーについては言及せず、授業を始めだした。
すると、隣に来ていたクソ爆弾が。
「いやー、教室に戻ってもみんな居なかったから、焦ったよー」
頭をかく仕草なのか、頭のダイナマイトをボリボリとかきながら言ってきた。
目や鼻、口といったパーンつが無いため、かなりシュールな光景だ。
私はクソ爆弾の発言を疑問に思い、尋ねてみた。
「誰も居なかった? ヒトラーは教室で寝てなかった?」
私に尋ねられたクソ爆弾は、あぁそうかと思い出したように。
「あぁ、ヒトラーなら教室で寝てたよ。だから目の前にダイナマイトを置いておいてきたよ。起きたらビックリするだろうね」
「何やってくれてんの?」
全く意味がわからないクソ爆弾の発言に、私は秒でツッコんだ。
寝起きで目の前にダイナマイトなんて、トラウマものだろう。
私なら漏らしちゃうかもしれない。
いくら勝手に爆発することは無いとはいえ、目の前に爆弾を置かれて気分のいいものでは無い。
それに、ダイナマイトを使う時点で自らが犯人だと公表しているようなもので……。
私はクソ爆弾の頭の悪さに痛む頭を抑えながら、一応確認してみた。
「一応聞いておくけどさ、そのダイナマイトって勝手に爆発したりしないよね?」
私の質問に、何言ってんだとばかりに笑いながらクソ爆弾が。
「当たり前さ! 勝手に爆発するダイナマイトがこの世にあってたまるか! だからとびきり火薬を込めたダイナマイトを置いておいたぜ!」
何が”だから“なのかよく分からないが、HAHAHAと笑いだしたクソ爆弾に溜息をついていると──。
────校舎が轟音を立てて爆発した。
【偉人紹介3 ジョシュア・ノートン】
〈作中〉
ボサボサの黒髪に金の王冠を被り、顎髭を生やしてコートを羽織っている男。
何かと一番位の高い地位に着きたがる男。
周りに相手にされなくても気にしない、強いメンタルの持ち主。
自分の事を本当に皇帝だと思い込んでいる、痛い子ちゃん。
〈才能〉
『勅令』と宣言して命令すると、相手は強く抵抗しない限り、その命令に強制的に従わせる。
対象は動植物問わず、自然に対しても使用可能。
命令が軽いほど、持続時間は長い。
〈史実〉1819?~1880
皇帝ノートン一世と自称した、アメリカの王位僭称者。
新聞社に合衆国皇帝に即位する旨の手紙を送り、ジョークとして新聞に掲載された。
意外にも、大衆に広く支持されていた。
奇妙な人間というだけではなく、国際連盟の設立を命じるなど、視野の広い人物だった。
「ジョシュア・ノートンは、この合衆国の皇帝たることを自ら宣言し布告す」