21話 異臭
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私とクソ爆弾は、ノイマン先生と沖田さんに連れられ、校長室の前にやってきていた。
「それでは沖田さん、付き添いありがとうございました。もう大丈夫ですよ」
先生がクラスに戻るよう促すと、沖田さんは会釈だけして何も言わずに去っていった。
「なんか……カッケェな……」
「ホントにね……女の私でも惚れそうになったわ……」
クソ爆弾とノーベルが、沖田さんの後ろ姿に惚れて呟くと……。
何か言いたそうな半眼で私たちをチラリと一瞥し、ため息だけついて帰っていった。
ったく、沖田さんといい、アンリといい、私にため息つきすぎじゃない?
失礼だよね、そんなの。
「それじゃあ、ノーベル君は教頭室で船坂先生と私と。ガウディさんは校長室で。それぞれお話しましょうね。それじゃあ、ノーベル君、行きますよ」
ノーベルはその手を先生に引っ張られ、隣の教頭室に連れられていった。
クソ爆弾は握られた先生の両手を撫で回し、先生の顔が真っ赤になっているが……放置でいいか。
さて……今、私を監視している人はいないから……逃げてもいいのだが……。
それだと、また怒られるかもしれない。
ここは素直に従った方が良さそうだ。
私はゆっくりと校長室の扉を開けると……。
開けるや否や、何か臭い匂いが漂ってきた。
「し、失礼しまーす。うわ臭っ」
私は後ろ手で扉を締めながら、ノックもせずに校長室に入っていった。
「お、ガウちゃんじゃーん! なになに? ガウちゃんも怒られに来たの? ウケるー」
「あ、黒パン娘! お前も怒られに来たのか。ウケるー」
謎の匂いにより、鼻をつまんでいた私は。
昨晩校舎で遭遇した、アインシュタインと、唐草紋様の髪をし、腰に巻いた大縄が特徴的な下着泥棒と再開した。
見れば、2人は校長先生のダ・ヴィンチ先生の前でソファに寛いでいた。
私は3人座りのソファの端、アインの隣にボスっと飛び座り、アインの周りを回る光り輝く公式を手で払い除けながら。
「で? 2人とも怒られに来たの? それにしては寛いでるようにしか見えないけど?」
「ガウちゃんがそれ言う!? 今完全に実家のソファに座る感じだったよね!?」
前が開いた白衣からの主張が激しい、アインのたわわなおっぱいを睨めつけながら尋ねると、何故か耳元で叫ばれた。
「し、諸君。ここは私、校長の部屋なんだ。もう少し静かにだね……」
ふざける私たちに、校長先生がやっと口を開いたので顔をマジマジと観察してみる。
校長先生は、万能人と名高いレオナルド・ダ・ヴィンチ。
入学式の時に壇上で挨拶をする校長を遠目では見ていたが、広い校長室とはいえ、ここまで近くで見るのは初めてだ。
校長はシワだらけの顔に、おでこのあたりは少なくなった白髪。
目尻にはいくつかのシミがあり、度の強そうな眼鏡をかけた、頑固なおじいさんといった印象を受ける。
一クラス分の広さはありそうな、広い校長室の真ん中。
そこにある客人用のソファにゆったりと座る私たちは、3人で校長の顔を眺め続けていた。
しかし、それにしても……さっきから何か匂うのだが……。
どこかで嗅いだことのあるこの匂い……なんだったっけな?
私が記憶を探っていると、床の絨毯でマルバツゲームを始めたアインと下着泥棒を遮り、校長が話し始めた。
「君たちは昨晩……こら、調度品ばかり見ていずに、私の方を向きなさい」
高価であろうソファに座って、ソワソワと落ち着かない私たち問題児3人に、校長はいかにもな苦労人の表情でため息を吐きながら座るよう言った。
頑固な老人に見えていたが、実は優しいおじいちゃんみたいな人なのだろうか。
もっと言いたいことはハッキリと言った方がいいのに。
私たちがやむなしといった感じで姿勢をただして座ると、校長は再びじゃベリ出した。
「君たちは昨晩、校舎に侵入して職員室の資料を漁ったらしいね。これは本来、いけないことだとは君たちもわかっているはずだ。教頭の作戦で行った警備も、君たちの才能で無茶苦茶にされたしね……」
校長はふぅ、と息を吐いて、眼鏡をかけ直した。
ん?
今どこかで、カシュッと音が聞こえたのだが……。
真面目な話の最中だし、音源を探して校長室を探検するのは後にしようか。
この匂いの素とか、なにかとてつもないものか眠っているかもしれない。
「私は君たちに酷い目に合わせるつもりはなくてね。教師たちが護る職員室に、恐れることなく侵入し、最後はトラップにかかって偽のクラス名簿を盗んだ訳だが……その度胸は讃えよう。だが、いくらウチが自由な校風だとはいえ、限度があるということは、今回の件で学んで欲しい」
校長は机の上で両手を組み、私たちに優しい笑顔で教え諭してくれた。
説教されると聞いていたが、これくらいなら適当に聞き流してあとは遊べるし、楽チンだな。
私がそう楽観して、鼻歌でも歌いそうになった時、校長の言ったフレーズのひとつに引っかかった。
「あれ? 校長先生。いま、偽のクラス名簿って言いました?」
私の言葉に、アインと下着泥棒はギョッとして私の方を向き、校長は眼鏡を掛け直した。
「偽物って……まじかよ! せっかく俺だけ盗めたと思ってたのに!」
下着泥棒がアインの隣で悔しそうにしているので、心の中で『ざまぁ!』と繰り返し叫んでおく。
「そうだよ。ジュラルミンケースに入れ、私の机の下に置いておいたものは、全て偽物だ」
校長がそう言うと、下着泥棒はさらに悔しがり、唇を噛んだが……。
クラス名簿の自クラスの部分を見れば、それが偽物かどうかはすぐに分かると思うのだが……。
どのクラスの生徒が盗るか分からないんだ。
あるひとつのクラスだけでも偽情報にしていたなら、そのクラスの生徒に盗られた時点で直ぐに、偽物だとバレる。
例えば、2組のクラス名簿の私を、別の偉人に変えていたとする。
そして私が偽のクラス名簿を盗ったとする。
すると盗った瞬間に、それが偽物だとわかる。
これを防ぐためには、全クラスの生徒情報を本物にしておかなければならない。
しかし、それでは本末転倒になってしまう。
…………もしかして、盗られた後のことを考えてなかったのだろうか……。
もしかしてもしかすると、校長や教頭はバカかもしれない。
私が我が校の校長たちに呆れていると、いつから居たのか、私たちの後ろから男が一人。
片手に何かを握り、ゆっくりと私たちの前に現れたその人は。
明らかに成人している見た目。
つまり先生なのだろうが……。
「3人とも、悪いと思ったら、すぐに謝りんさいな。校長先生も許してくれるじゃろうよ。…………カーッ、朝から飲むビールはうめぇなぁ!」
無精髭を生やし、クソニート親父といった顔の男が、缶ビール片手に登場してきた。
ビールを飲んでいるからか、この男の顔はリンゴのように真っ赤だった。
広島弁のようなものを喋るこの男。
先程からの匂いや音は、この先生が缶ビールを飲んでいたからか。
ていうか、これはアウトだろう。
レッドカード一発退場、無期限出場停止だろう。
私はそのアルコール臭い男に対峙して。
口元には笛を建築し咥え、胸ポケットにはレッドカードを建築。
不思議そうな顔をするその先生に向けて。
ポケットから取り出したレッドカードを高く掲げ、私は笛を思い切り吹いた。
ぴぴー。
レッドカードでーす。
【偉人紹介13 レオナルド・ダ・ヴィンチ】
〈作中〉
偉人学園校長。
顔にはシワが溢れ、白髪頭を持つ老人。
目尻のシミと、度の強い眼鏡が特徴。
よく頑固な人だと間違われるが、実は優しい。
人に厳しく怒ることが出来ず、誰に対しても甘々な態度で接するため、子供たちからの評判はいい。
〈才能〉
万能人と言うだけのことはあり、全ての”才能“を所持しているような存在。
森羅万象不可能はなく、練習すれば、異常な上達度で瞬く間にプロの域に届く。
人類史上最も優れた人物に、最も近づける才能である。
〈史実〉1452~1519
音楽、建築、数学、解剖学、天文学、気象学、地質学、物理学、光学、力学 etc.
と、数多くの分野で活躍し、「万能人」の異名を得た人物。
イタリアのルネサンス期に生まれた芸術家で、『モナ・リザ』『最後の晩餐』などの名作を産み出した。
「飽くなき探究心」と、「尽きることの無い独創性」を兼ね備えた人物と評されている。
数多くの分野の偉人が天才であると讃えた、人類史上最も優れた人物の一人。




