1話 偉人の再来
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偉人学園──という名の学校がある。
昨年やっと校舎が完成したばかりの真新しい高校で、私が入学を強く願っていた学校だ。
偉人学園には、他の高校とは大きく違う点がある。
それは、入学と同時に偉人に成り代わるという点だ。
学校のホームページ曰く──。
偉人たちのDNAを遺品等から抽出し凝縮、それをアンプルに込めて生徒に撃ち込む。
注射された生徒は、DNAが書き換えられ、偉人そのものになり代わる。
そうして偉人に成り代わると、生前の功績に由来する異能力を扱えるようになる。
それらは“才能”と呼ばれ、人智を超えた事象を起こすことが出来ると──。
そうして世に再来し、“転生した”偉人たちを学校で教育し、卒業後は才能を用いて、社会に新たな功績を残す人材を輩出するわけだ。
また、偉人に成り代わっても、それまでの記憶も残るものらしい。
私が私で無くなることは正直怖いが──。
私は目の前においてあるアンプルを震える手で握り、深く深呼吸した。
これが──偉人に転生できるアンプルだ──。
──去年、中学三年生の私は、進路の事でずっと悩んでいた。
その折、日夜勉強に励んでいた私に朗報が届いた。
それは、偉人学園という高校が設立したというニュースだ。
その偉人学園という学校は入学試験を行わず、入学希望者から抽選で40名の生徒を選出するという。
学力においてはどんな難関高校でも受かると言われていた私だが、この学校の方針が魅力的であり、「猪突猛進の史愛」と呼ばれた私は、親に相談することも無く直ぐさま応募した。
学費も必要なく、生徒は寮で生活、私としては非の打ち所のないパーフェクトな学校だった。
実際、我が家は裕福な家庭ではなかったので、家庭的にも楽ではあっただろう。
しかし応募した後に、先生や親に報告したところ、なんでそんなことしたんだと怒られれてしまった。
そんな胡散臭い学校じゃなく、なぜもっと実力に見合った学校に行かないのかと嘆かれた。
当選者の発表は夏休みに行われるから、もし落ちたら他の高校に行くよと言ったら、今すぐ応募を取り消してこいと怒られた。
しかし、当然ながら私は応募を取り消さなかった。
夏休みになり、当選者の発表の日が訪れた。
私はなんと見事に当選し、晴れて偉人学園の生徒になれた。
その事を親と先生に報告に行くと、声を上げて号泣された。
なぜ泣かれるのかよく分からなかったが、お前ならどんな難関だって行けただろうに、と先生に嘆かれたことは覚えている。
今思えば、娘が胡散臭い学校に行くことが、泣くほど嫌だったのだろう。
お陰で『親泣かせの史愛さん』とか、『先生泣かせの史愛さん』なんて不名誉な渾名を付けられてしまった。
また、親には抽選が外れてくれればよかったのにと泣かれた。
まったく、愛しい娘の不合格を祈るとは、親失格じゃないのか。
その後、私ひとりで必要な書類を提出などを行い、この春から学園の寮に移り住んだ。
そして昨日が入学式だった訳だが、その時はまだ誰も偉人になっていなかった。
なぜなら、入学式後にアンプルが配られるからだ。
校長先生はレオナルド・ダ・ヴィンチ先生だった。
偉人学園では生徒だけでなく、先生までもが偉人に転生しているらしい。
校長はさすがは万能人と言われただけはあり、生徒を眠たくさせないような丁度いい長さの話をされた。
そして、今日から高校生活の開始だ。
私は目の前のアンプルを手に取り、説明書をよく読みそれを腕に刺し────。
────アンプルの中身を注入し終えた私は、なんだか生まれ変わった気分でいた。
前の自分の名前も思い出せる、斎藤 史愛だ。
そして、新しい自分の名前も分かる。
アントニ・ガウディ──。
スペイン出身の建築家で、かの有名なサグラダファミリアの設計者である。
そして私の才能も把握できる。
『半径2m以内に限り、自由に建築可能』だ。
……正直あまりパッとはしないが、使い方次第では大いに化ける才能だろう。
使い手が私なら、この才能で学園一になれるかもしれない。
私はそう思いながら制服を着て部屋を出て、校舎へと向かった──。
──教室の前に着くと、掲示板に貼られている座席表を確認した。
1クラス10人で、一学年は4クラス。
教室には横5列、縦2列に机が並び、私は窓際後列という最高の席だった。
座席表には出席番号しか書いておらず、クラスにどんな偉人がいるのか分からないが……不安に思いながら、私は教室の扉を開けた。
すると、教室にはまだ生徒は1人しかいなかった。
その生徒は私の隣の席の女の子で……机に突っ伏しヨダレを垂らして寝ていた。
その子は制服シャツの上に軍服を来て、黒タイツと長靴を履いていた。
見るからに明らかな軍人。
私は怯えながらも席につき、その子をマジマジと観察しだした。
私は偉人になって黒髪から茶髪に変わったが、この子は金髪になっている。
ロングの金髪に軍帽を被り、強そうな格好をしてはいるのだが……ヨダレを垂らし、いびきをかいて寝るせいで全てが台無しだった。
まだ先生が来るまで時間があるので、机の上に高さ20cm程度のサグラダファミリアを建築して遊んでいると、教室の後ろのドアが突然、盛大に爆発した。
「ッッ!? 何っ!?」
私は何事かと思い、急いで振り向くとそこには──頭の部分がダイナマイトになった男の人が──。
「まったく、教室に扉なんて付けんなよ。開けるのが面倒くせえから、うっかりダイナマイトで爆破しちゃったぜ、HAHAHA!」
あ、この人はすぐ分かる。
ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルだろう。
私は訳の分からない発言をするこの男を半眼で眺めていた。
「お、なんだ、嬢ちゃん? この俺がイケメンすぎて惚れたかな?」
ノーベルらしき人物が、目が合った私に話しかけてきた。
ダイナマイトにイケメンも何もないと思います。
頭がダイナマイトになったせいで、こいつは脳みそを失ってしまったのだろうか……。
可哀想に……。
「いえ、扉が壊れたので、私が新しく建築しようかなと……」
私はそう言って立ち上がり、扉があったところに歩いていった。
私は床に手をかざし、脳内で壊される前の扉をイメージしながら才能を行使した。
すると、元の扉と同じものを建築することが出来た。
なるほど、これは便利な才能だ。
「おぉ! 凄いな嬢ちゃん! 嬢ちゃんはなんて偉人かい?」
「あ、私はガウディです。あなたはノーベルでああああああああ!」
私が一応名前を聞こうとすると、目の前のコイツはまたしても、扉にダイナマイトも取り付けて爆破しやがった。
大きな爆破音と共に、小さな破片かいくつも飛び、それらの幾つかが顔にあたる。
「お、そうだ。俺はノーベルさんだ、よろしくな」
「なんでせっかく建てたものおおぉぉぉおお!」
私がノーベルの肩を掴んでガクガク振って叫んでいると、爆破音が大き過ぎたせいか、金髪の女の子が目を覚ました。
それに気づいた私は落ち着いて溜息をつきながら、ノーベルの元を離れ、女の子の元へ歩いていった。
「ごめんね、あのアホタレが大きな音を出したせいで起こしちゃって」
「なぁ、アホタレってもしかして俺のことか? それより、また扉建ててくれよ。新品の綺麗な扉を爆破するのにハマっちゃってさ」
ノーベルの言葉を無視しながら、私は未だ虚ろな目をした女の子に挨拶をした。
後であいつの尻にチョークをぶっ刺してやろう。
「おはよう。私はガウディ、よろしくね」
ようやく眠気から解放されたのか、目を大きく開いたその子は。
「私はアドルフ・ヒトラーです。ガウディさん、よろしくお願いします」
彼女は、薄く開かれた両目に鉤十字が刻まれた、歴史的独裁者だった。
隣の席の子が独裁者だなんて……。
「あ、私はヒトラーと言いましても、史実の彼とは全くの別人ですからね、ご安心を」
ヒトラーが、私の心を読んだかのように、微笑みながら言ってきた。
「私の才能は、視線を合わせた相手の思考を読み取れるものなんです。だから、今あなたが考えていることも…………いま、え、エッチなこと考えてますね?」
「待って違う」
赤らんだ顔を手で隠しながら、恥ずかしそうに告げてきたヒトラーに私はツッコんだ。
謎の自爆をしてきたヒトラーが落ち着くと、こちらの方を真っ直ぐ向いて。
「いまの私はヒトラーになっていますが、性格は穏やかで平和を好む人間です。な、なので、こんな私でも、友達になって頂けませんか?」
偉人に成り代わると言っても偉人そのものになる訳では無いのだ。
彼女も、ヒトラーと言えど優しい女の子なのだろう。
おずおずと出してきたヒトラーの手を握り、私は微笑んだ。
「もちろん、これからよろしくね!」
私が高校に入り、初日から可愛い友達を作れて浮かれていると、いつの間にか他の生徒や先生が教室に集まっていた。
喧騒に包まれたクラスに、チャイムの音が鳴り響く。
これから、初めてのホームルームの時間だ。
「それでは、今からホームルームを始めます。私はこのクラスの担任、ノイマンと申します」
ノイマンと名乗った女性は、頭から2本の角を生やしていた。
この女性は、悪魔の頭脳を持つと言われたジョン・フォン・ノイマンだろう。
AVに出てきそうな女教師の格好をした貧乳のノイマン先生は、さっそくクラスメイトの点呼をとり始めた。
アドルフ・ヒトラー
アルフレッド・ノーベル
アントニ・ガウディ
アンリ・デュナン
伊能忠敬
沖田総司
ジャンヌ・ダルク
ジョシュア・エイブラハム・ノートン
グロリア・ラミレス
リチャード・アークライト
以上の10人が2組の生徒のようだ。
聞いたことのある名前がズラリと並んでおり、この並びだけでもなかなかのものだ。
他のクラスには、どんな人がいるのだろうか。
私が妄想に耽っていると、先生が静かな声で。
「ところで……教室の後ろのドアが壊れているのは……」
「はい、ノーベルがやりました」
私は素早く手を挙げて答えた。
クラスのメンツを見るに、ノーベルしか破壊できそうな人は居ないし、信憑性は高いだろう。
しかし、私の不意打ちに、ノーベルが反撃を繰り出してきた。
「なっ、お前っ! 二人でやったのに、俺だけのせいにするのか!? お前も共犯だろ!?」
「わっ、私はやってないわよ! あんた1人で怒られてきなさい!」
私とノーベルが言い合っていると。
「ノーベル君、ガウディさん」
冷たい声のノイマン先生に呼ばれ、私たち二人はビクリと肩が跳ねた。
「2人とも、後で職員室に来ること」
「「…………はい」」
「やーい、初日から怒られてやんの!」
教室の誰かが放った言葉にカチンときた私は、椅子を蹴って立ち上がった。
「今言ったの誰よ!」
「ガ、ガウディさん、落ち着いて!」
【偉人紹介1 アントニ・ガウディ】
〈作中〉
茶髪のセミロングで、真面目に制服を着ている優等生。
中学生時代から成績がよく、高校でも高い成績を残しそう。
しかし、性格はサバサバしており、怒りやすい。
最近の悩みは、胸の成長が止まったこと(Aカップ)。
〈才能〉
半径2m以内に限り、複雑な形でも瞬時に建築可能。
構成物質は問わず、解体も可能。
だが、建築物の性能(時計の秒針の動きなど)は反映されない。
つまり、ハリボテ。
〈史実〉1852~1926
スペイン出身の建築家。
サグラダ・ファミリアを初めとする、ガウディの作品群は世界遺産に登録されている。
ガウディが設計したサグラダ・ファミリアは、1882年に着工し、未だに完成していない教会である。
「世の中に新しい創造など無い。あるのはただ発見である」