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虫と女神と異世界転生  作者: 木原 柳
7/9

道と人

森の中を進む。

森の暖かさが血の匂いを一段と不快にさせた。

恵美がその匂いで何度も嗚咽を催すとカディがその度に心配そうな様子で恵美の顔を見る。

そんな事を何度かしているうちに川へとやってきた。

綺麗な川だと恵美は素直に思えた。

手で掬って見ると森の暖かさに比べて冷たく感じた。

静かに掬った水を喉に流すと渇いた地面に染み込むように身体を潤した。

まだ冷たい水で顔を洗うと血が混ざり澄んだ川に混ざって流れていった。

流石にこの冷たい水にはまだ入れないだろう、恵美はそう思うと髪と顔をゆっくりと洗う。

血の匂いが消えた気がした。

服も洗いたかったがそれは無理な事だろうと諦めるも不快な匂いが消えただけ喜ばしかった。


「川沿いを歩いて行くの?」

恵美がそう聞くとカディが首を振る

「川沿いには水を飲みに魔物が来ますので危険です。」

カディがそう答えた。

少し未練が残るも次襲われたら命はないかもしれない。

恵美の背筋に悪寒が走るしょうがないと潔く諦めた。


川からまた離れ道無き道を行く。

途中また果物がありそれを食べながら進む。

喉の渇きも空腹も両方満たしてくれた。

ストックにと服のポケットにも果物を何個か新たに詰め歩き出した。


日が沈むとまた広い場所に陣取り、カディを枕に眠る。

今日襲われたらどうしようかと考え中々寝付け無いが疲れていたのか気づけば寝てしまっていた。

寝ている間何事も無かったのか起きるとカディが寝た時と変わらないままの形でそこにいる。

ホッとしながら起き出しポケットに入っていた果物を食べまた歩き出す。


半日程歩くと視界に入る木が少なく感じる。

「あと少しで出口ですがそこからは一人でお進み下さい。東へ進むと村が有りますので」

そうカディが言うと恵美はたちまち不安になった。

「私何も分かんないんだけど…」

そう弱みを漏らす。

するとカディの優しげな声が響く、

「大丈夫です。

魔物と違い人は理由も無しに襲ってきませんよ。魔族と分からないその外見なら子供と思い保護してくれる筈です。」

そう恵美に声をかけると少し安心した様子で頷いた。

「ねぇ一人になれたり困ったらまた呼ぶから来てね?」

寂しそうに恵美が言う。

「ええ直ぐにでも」

カディの弾む声が響いた。

森の出口まで静かに進みカディを撫でる。

「守ってくれてありがとうまたよろしくね。」

言葉をかけると同時に黒い靄が出てカディを取り囲むと消えた。

周りを見渡し街道を東へと進む。

人気はない。

村はまだ見えないがそう遠く無いように感じた。


カディと別れてから2時間程経っただろうか。

ずっと東へ東へと進んで行くとそう遠く無い所に煙が見えた。

村だ、恵美が呟く。

少し足取りが早くなり街道を進むペースが上がった。

この世界に生まれ落ちて初めて自分以外の人と出会う、そう思うだけで恵美の心は浮かれた。

段々と村に近付くが急に不安にかられた。

改めて自分の姿を見る。

服に泥と血が付き怪我はどこにも無い、顔面蒼白な少女。

何か上手く説明しないと理由を聞かれる。

元から話すのも得意では無かったしそもそも言葉が通じるかもまだ疑問なのだ。

少し考えていると後ろから声をかけられた。 

「子供がこんな所でどうした?」

低くよく通る声が恵美を振り向かせた。

振り向いた先にいたのは筋骨隆々とした身の丈2メートルはあろうかという男だった。

恵美が言葉に詰まりよく分からない声を漏らしていると男は恵美の眼前にしゃがみ込み目を見据えた。

怖くて口が上手く開かない。

恵美がまごまごしていると男の後ろの影が動いた。

「ちょっと!貴方怖いのよ退きなさい!」

少し気の強そうな女性の声が後ろから聞こえる。

男の頭を小突き後ろに回るように手で合図する女性が恵美の前に現れた。

男が少し唸り後方に回る。

目の前から男が退くと先程目に入らなかった人が見えた。

どうやら全員で3人いるらしい。

「大丈夫?怖かったでしょう?

私たちは何もしないから事情を教えてくれないかな?」

そう優しく声をかけられた。

「…わ……分からない…」

恵美は絞り出すように答えた。

目の前に男が現れた瞬間に恵美は何も考えられなくなりやっと出てきた言葉が分からないだった。

恵美の返答に女性が思いもしなかったのか驚くも急にハッと気付いたような顔になった。

「もう…大丈夫よ」

女性が泣き笑いのような顔で言葉を発すると同時に抱きついてきた。

何か勘違いしたのであろう女性がそう言うと否定出来ずに恵美は口籠った。

自然と人肌に触れて暖かさに安心し意識を手放した。

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