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虫と女神と異世界転生  作者: 木原 柳
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虫と声

目が覚めるとそこは暗く湿った場所だった。

暗くはあるが薄っすらと光る苔がある。

そのおかげで目が暗闇に慣れると洞窟内部の形が分かった。

広く天井も高い5メートル四方ぐらいの広さだ、この空間だけで異世界にいるという実感が湧いてきた。


少し周りを見渡すと服と杖が岩の上に几帳面にたたまれて置いてある。

服の上に紙がありその紙に「せめてもの選別です。上野より」と文字が書かれてあった。


服を着てみるサイズはピッタリだった。

まあ当たり前かと思ったこの身体は上野が創ったのだ。

サイズくらい把握しているだろう恵美はそう考える。


少し岩の上に腰を落ち着けるとこれからの事を考え初めた。

初めに大陸間の移動、次に王の居場所の把握、そして王の殺害、それを5年で行うその前に衣食住だって馬鹿にならない。

こちらの世界に来たのは良いが金も住処も食事だって何一つ分からないのだ。

結局情報が足りなさ過ぎて考えるだけ無駄な気がしてくる。

あれこれ考えても仕方無いとこの場所から移動しようと腰を上げると轟音が聞こえた。


聞こえてきた音は段々と近付いてくるように大きくなってくる。

どうしようかと混乱したが丁度壁に人が一人入れるほとんど大きな裂け目があるのが分かった。

焦りで混乱するが音がここに到達する前になんとか壁に出来ていたひび割れの中に身を隠せれた。



音の発生源が恵美のいる場へとやってきた。

車が走るくらいの速度で恵美の目前に姿を表す。

ワニだ、だがサイズが異常だった。

この強大なワニは高さは洞窟の天井に届きそうな程大きく、長さは20メートルはあるだろうかという程巨大だ、

「ゴォオオオオオオオ!!!!!」

ワニが吠える。

大きな音に堪えきれずに耳を塞ぐ。

吠えた後そのまま止まっていたワニが急に走り出す。

異常な速度で巨体が通り過ぎていった。


ワニが通り過ぎていって少し時間が経った。

震えていた身体も落ち着き冷静に思考できるまでにはなった。

早くこの洞窟からでなければ、考えれば考える程洞窟に留まる理由が無くなる。


裂け目から出た後

「カディ、召喚」ボソッと呟いた。

一人では生き残れ無い、恵美はそう思うと実行に移す。

虫は苦手だが命がかかった状況でそんな事を気にしてられない。

手の甲が輝き黒い靄が集まる。

一度見た光景だが不思議だなと場違いに恵美は思った。

靄が晴れると巨大なムカデが姿を現す。

不思議と嫌悪感が少なく感じた。


「………の外ま…行くの………うか?」

洞窟を安全に出ようかと考えていると途切れ途切れに声が聞こえた。

不思議と恵美に恐怖感は無かった。

この声を知っているそんな気がしたからだ。

ムカデに目をやると声が次第にハッキリと聞こえだした。

「洞窟の外に行くのでしょうか?」

今度は声がハッキリと聞こえる

「外に出たいのですよねでは私にお任せ下さいませんか?」

頭に直接響くような声だった。

恵美がカディに向かって話かけた。

「…カディが喋ってるの?」 

ムカデが肯定の意味なのか恵美の言葉に合わせて身を捩った。

「はい御主人様名を授けて頂きありがとうございます。」

恵美が驚いているとカディが続けて言う

「御主人様に頂いた名に恥じぬようペットとして全力を尽くします。」

牙をカチカチ鳴らすカディ思わず恵美に寒気が走った。

だがそれでも嫌悪感が少し収まった気がする。


「よ、よろしくね。」

「よろしくお願いします。」

多少言葉を詰まらす恵美とは正反対に快活な声で返事をするカディだった。



「そういえばこの洞窟を知っているの?」

カディの後ろを歩く恵美がそう問いかけた。

自己紹介の後、ついて来るようカディに促されそのあとを歩く恵美が話しかけた。 

沈黙に耐え切れなかったのだ。

「私の産まれはこの洞窟の近くですので子供の頃から餌の確保に来ておりました…」

頭に響く声が昔を懐かしむように静かに答えた。

その言葉を受けてカディに問いかける恵美

「どうして上野の部下になったの?」

一瞬考えカディが答えた

「部下になりたくてなったのではなく産まれる前から決められていたのです。」

ただ、と言葉を続けるカディ

「こうして生きていられるのも強くなれたのも神様のおかげですけどね。」

クスクスと楽しげに笑うカディに恵美が疑問を投げ掛ける

「神って上野…」

「ゴォオオオオオ‼」

途中で声が遮られた、またあのワニの声だ。


「御主人様少し離れて下さい。」

落ち着き払ってカディが言う

「駄目よ!逃げなきゃ!」

恵美が慌てふためきカディにそう怒鳴るも意にも介さず闇を見つめ続けるカディ

「早く逃げて二人で隠れ…」

言葉が続かなかった、激しい地鳴りをともなってワニが走って来たからだ。

「ゴォオオオオオ‼‼」

カディから数メートル程離れてワニが威嚇する。

恵美はその声に竦み上がりその場で腰を抜かすもカディはジッとワニを見つめ続ける。


数秒だがどちらも動かず硬直していた。

思わず恵美が後退るとワニが口を開き突進して来た。

カディがそれに合わせ尻尾を振るうとワニの下顎に当たり横に殴り飛ばされるワニ、すかさず飛ばされたワニの首元に牙を差し込み身体のバネでワニを反対側に叩きつけた。

洞窟が全体に震えるのが分かった。

カディがなおも喰い付いたままワニを左右に振り続け洞窟の壁に叩きつけるその度に洞窟が震え土煙が舞う。

ブチッと嫌な音が聞こえるとワニが天井にぶつかり少し距離が離れる、ワニの首元が引き千切られ赤い液体が吹き出した。

それでもワニが立ち上がりカディに向って走り出すそうとするも急にその場で沈んだ。


ワニが動かなくなりその場から動けない恵美が目を丸くして見ていると

「如何でしょうか?」

カディが恵美に訪ねた。

「えっ?」

「私の実力は如何でしょうか?」

強いでしょうと後に続きそうな程自信のある声が聞こえた

まるで小さな子供が自分のした事を遠回しにアピールする様に褒めて欲しそうに聞こえて恵美は安堵感から思わず吹き出した。

不思議そうに恵美を見るカディに

「カディは強いね流石だよ。」

頭を撫でようと手を出すも一瞬躊躇してしまうが意を決して頭を撫でた。

冷たくツルツルとした感触が手に新しい。

「初めて人に触れましたが悪く無いですね。」

声を弾ませてカディ言う。

嬉しいのか身体を少し捩った。

その様子に恵美の身体が強ばるも撫でる手を止めようとはしなかった。

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