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クロス・ノクターン ~Me against THE WORLD~  作者: JUNA
STORY.1 The white JACK-POT ~ラスベガス編~
3/72

1 始まり―ロンドン

 

 全てのプロローグ…

 「シントラのヒッチハイカー事件」から幾分か後――。


 

 イギリス ロンドン郊外

 PM10:26



 街灯も少なく、車もまばらな田舎道。

 風に揺られて草木が謡うだけ。

 実に平和、平和な風景。

 しかし、その静寂を金切り声を上げて切り裂く者が、刹那の速度で走り去っていった。


 グレーのベントレー コンチネンタルが、首都ロンドンにテールライトを向け、その夜空に鋭利な瞳を刻みながら進む。

 人家が一軒、また一軒と消えていく。

 しかし、運転手に、その余韻を楽しむ表情はない。

 まるで、何かに怯え、それから逃れるようにハンドルを握る。

 「かのよう」ではなく、事実そのまま。


 

 「早く…早く、こいつをどっかに…」

 運転するのは、童顔な英国紳士。

 歯をぎらつかせ、目はせわしなく動き続けていた。

 フロントガラスと……助手席に。


 そこには、革製のポーチ。

 車の振動に合わせて震えていた。

 ――いや、違う。

 舗装されたばかりの新しい道路のはずだ。

 タイヤはしっかり、道路をかみしめている。

 ポーチがひとりでにダンスを奏でるはずがない!



 紳士の鼓動が早くなる。


 何とかしかねれば。


 何とか!


 唐突に、背広に入れていた携帯電話が電子音を鼓動させる。

 手のひらサイズの小さなセルフォン。

 電話番号から、自分の息子であることは、すぐに分かった。


 この状況を言うべきか。

 だが…こんなこと、誰が信じるだろうか。

 今までに起きたこと。今起きてること。これから起きるだろうこと。

 

 あまりにも非常識すぎて、自分でも信じられない。

 だが――



 ボンッ!!


 ポーチの中で、何かが音を立てて破裂した。

 何かが飛び散ったわけでもない。

 なのに、紳士の顔は恐怖でゆがみ、口を大きく開けて絶叫した。

 否! 恐怖はこの後、間断なく襲ってきた!



 「うわああああああああああああっ!」



 ■




 通りかかったトラックドライバーの通報を受け、近くの分署から警察官がすっ飛んできたとき、既に1時間は経っていた。

 

 パトカーのヘッドライトに照らされたのは、一直線の道路の路肩。

 地面を思いきり削り取り、見たこともないパーツやオイルをまき散らして、岩のような塊が、そこに鎮座している。

 

 それが車であると分かるまで、いくらかの間が必要だった。


 言わずもがな、あの英国紳士のベントレー。

 猛スピードでスピン、そのまま宙を舞いながらスクラップに化けた…ようだった。




 ――さん…父さん…


 血まみれの彼は、微かな意識の中で目を覚ました。

 愛する息子の声が、手の先から響いてくる。

 衝突の反動で、弾き飛ばされたセルフォンが、通話状態になったようだった。


 気づくと、そのセルフォンは、車の天井に載っていて、ガラスの破片が散らばっている。

 助手席にあったポーチも。


 そこから転がり落ちた、透明なガラスの瓶も。


 彼は悟る。

 


 もう、“運”は尽きた。

 自分は弄ばれた。

 そして…奴は……


 奴は、どこにいった?

 逃げた。だとして、どこに?

 まさか、再び、あの街に戻ろうとでも言うのか!?


 確証はない。なにも考えられない。


 でも、もしかしたら息子が…




 ――返事してくれ! 父さん…父さんっ!


 「ケ……」


 ――なんなんだい、父さん! まったく、聞こえないよ!




 「ケ…サラン……パサ…ラン…」



 救急車のサイレンと、我が子の声が暗転する目の中から引き戻すことなど、神の加護をもってしてもできなかった。

 

 ケサランパサラン。


 父が子に遺した、最後のナゾ。

 ひび割れた瓶だけが、サイレンを反響させながら、彼の安らかな顔を万華鏡のように輝かせる。

 

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